第7話『インチキ野郎』

 拝啓。


 クソ親父にアレクシア母様。

 そちらはお元気でしょうか?

 クソ親父に置かれましてはとっととくたばっていただけると息子の俺としては幸いです。


 さて。


 こちらはなんとかヴェスタリカ騎士養成学校へと入学できました。

 入学式の日に決闘を申し込まれたり先生に連れ去られたりと色々トラブルはありましたが、それでも何とかやっていっています。


 ただ、何も問題が無いわけでもなく――



「――おい、来たぞインチキ野郎が」


「平民のインチキ野郎が……。あれだけの事をしてよく今日も来れたな」


「なんて面の皮の厚いこと。親の顔が見てみたいですわ」



 始業式の日の翌日。

 見事に俺はクラスの皆から仲間外れにされていた。



「どうしてこうなった」



 事の発端は昨日の事。

 俺がフーリ先生と空き教室で話していた時、Fクラス教室では俺とカールお坊ちゃまの決闘について議論が交わされていたらしい。


 そこで出た結論は――インチキ。

 俺の入学試験時の実技試験を見ていた生徒がクラスに何人か居たらしく、決闘で見せた俺の動きは絶対にインチキだと主張したらしい。



 そして、フーリ先生が俺をどこかに連れて行ったのは決闘でのインチキに対する罰を与える為だろうという話になったのだとか。


 罰はなんだろう。停学か。はたまた退学か。

 俺の決闘で見せた動きが完全にインチキと扱われたまま、そんな話で盛り上がっていたんだとさ。

 

 そんな中で仲良く教室に戻ってきた俺とフーリ先生。

 その光景を見て、彼らは思ったらしい。



 あ、これフーリ先生もインチキに加担してたな。と。



 かくして、俺は先生すら丸め込んで伯爵家の長男であるカールお坊ちゃまとの決闘をインチキで汚した卑怯者というレッテルを張られてしまったのである。



 一応、決闘で見せた動きに関してはただのヘイストだと説明してみたのだが、誰も信じてくれなかった。

 どころか、そう説明すればするほど半信半疑だった人達もインチキしてたんだなとゴミを見るような目で見てくる始末。解せぬ。



 そんな俺がクラスメイト達と仲良く出来るわけなどなく。

 当たり前のように俺はクラスで孤立していた。



「はぁ……」



 自分の席に着き、手持無沙汰な俺は学校から支給された教科書をパラパラと流し見する。

 見るのはもちろん魔法について書かれている教科書だ。

 しかし――



「――暇だ」



 魔法について書かれている教科書。

 しかし、そこに書かれていた物は全部が全部俺が既に知っている事。もしくは興味のない事だった。



 正直、拍子抜けだ。

 家では学べないもっと素晴らしい物を学べると期待してきたのに、これでは入学した意味がまるでない。


 望みを託すとすれば後は選択授業くらいだろうか。

 選択授業では、分野を絞っているぶん普通の授業以上に難しい事を学べるらしい。


 俺が選択したのはもちろん魔法の選択授業。

 

 しかし、選択授業も特定の日にちにしかやっていないらしく、昨日の入学式の日はもちろん、今日も選択授業を受ける事は出来ない。

 ちなみに。ヘイストや速度関連の選択授業なんてものを一応探してみたのだが、当然のようにそんな物はなかった。



「これは……ミスったかなー」



 正直、クラスで仲間外れにされている事より学びたいことが学べないこの現状が辛い。

 この学校に来たのはもしかして間違いだったんじゃないだろうか?

 それこそ、家に居た頃と同じように実戦でヘイストの魔法を鍛えるべきだったんじゃないだろうか?


 こうして無駄な時間が過ぎていくたびにそんな事を考えてしまう(とはいってもこうしている間もヘイストの修行だけは欠かしていないのだが)。


 ――キーンコーンカーンコーン


 そんな事を考えていると始業の合図らしきチャイムが鳴り。


「はいはーい。そろそろ席に着いてー。授業始めるよー」


 それと同時にフーリ先生が教室へと入ってきた。


 本日から始まる授業。

 最初は数学の授業らしい。

 正直興味のない内容だったが、それでも暇だったので俺は軽く耳を傾ける事にした。


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