速度狂いのヘイスト無双~速さに極振りしたらなぜか馬鹿にされました~

@smallwolf

プロローグ


 人生において最も大切にすべきことは何か。


 そう問われたら俺は迷わず『速さ』だと答える。


 そうやって速さにこだわりまくった因果だろうか。


 死ぬのも早くなってしまいそうだ。



 というのも、現在自転車で走行中の俺に向かって軽自動車がフルスロットルで突進中なのだ。



「――――――は?」



 俺が軽自動車の存在に気づくと同時に、今更ながらクラクションを鳴らす車。

 夜だから誰も居ないだろうと思ったのか。その速度は確実に法定速度を超えている。

 この速度……ぶつかれば確実に俺は死ぬだろう。

 


 ゆえに避けなければならない。

 そう思いはするものの突然の出来事に体は動かない。

 それどころか反射的に自転車のブレーキをかけ、固まってしまう始末。

 


 結果――



 あ、死んだわこれ。



 ほとんどスピードを落とすことなく俺への激突する軽自動車。

 何がどうなったか分からないまま、意識が遠くなっていく。

 何やら騒がしくなる中――



(ああ……何を固まってんだかなぁ。俺……)



 スピード違反の車を責めることなく、俺は自分自身の行動を責める。

 車にひかれる寸前、固まらずに何かしらの行動を起こしていれば……迫る車にいちはやく気づいていれば……こんな事にはならなかったかもしれないというのに。



(次があれば絶対に……もっと速く……)



 そうして俺の意識は闇に沈んだ――




★ ★ ★




「■■■■■■■■■■■■■■■■」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■」



 声が……聞こえる。

 聞き覚えのない声……親の物でも友人の物でもない。

 そんな声に誘われるようにして俺は目を開ける。



「■■■■■! ■■■■■■!」

「■■■。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」




 目を開いた先には見知らぬ若い男女の一組。

 俺を頭上から見下ろし、意味不明な言葉をかけてくる。



(ここは……俺は確か車にひかれて……)



 死んだと……そう思っていた。

 しかし、こうして意識が戻ったという事は奇跡的に一命は取り留めたという事だろう。



(だけど……ここはどこだ? 病院? いや、それにしてはなんか雰囲気がおかしいような? 目の前の二人も医者とナースには見えない)



 白衣に包まれた天使などどこにもおらず、そこには中世チックな服を身に纏う二人が居るのみ。




「■■■。■■■■■■■■■■■■」

「■■■■■■。■■■■■■■■■■?」



 仲良く話す男女の一組。

 外国語なのか、話す内容はチンプンカンプンではあるが、近しい間柄なのは見て分かった。

 ピッタリ当てはまるとすればそう……結婚したばかりの夫婦のような……。


 やれやれ。一体全体どうなってるんだか。

 俺は現状を把握しようとするもまるで把握できず、後頭部を軽く掻こうと無意識に手を動かし――



「だ? ばーうぅ~~」



 ん? んん?



 手が……うまく動かせない!?

 いや、それだけじゃない。動揺の言葉すら口からうまく出てくることなく、まるで赤子のような舌ったらずな単語しか出てこなくて――



「■■! ■■■■■■!」

「■■■■■■■■■■■。■■■■。■■■■■■■■■■■■■■■」



 俺の一挙一動に喜ぶ男女の二人。

 いやいやいやいや。待て待て待て待て。

 これってこれってこれってつまりつまり?


 俺はおそるおそる軽く自分の身体を見下ろして――



「あばぁ~~~~~~~~~~~っ!?」


 結論。

 俺は赤ん坊になっていた。

 どうやら元の俺は普通に死んで……なんだかんだで生まれ変わったらしい。


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