第3話 初体験はゴブリンで

 それからしばらくの間呆然としていたが、やがて自分が白い繭から頭だけを出しているという大変に間抜けな格好をしていることに気付いた。


 俺は繭をグイッと押し広げ、裂け目を広げ、なんとか外に出る。


 そして自分の全身を確認しようとしたが、下を見ても白濁した粘液にまみれた谷間があるだけだ。大きすぎて足元はまったく見えない。


 ……そうだな。まずはこのべとべとした粘液を洗い流して、服を手に入れないと。


 こんな姿を見られたら確実に変態扱いだ。


 そう考えてあたりを見回すと、遠くから川のせせらぎが聞こえてくる。


 よし。まずは川に行って体を洗おう。


 そう考えて音のするほうへと歩きだしたのだが……。


「ひゃんっ! いったぁい……」


 転んでしまい、なんとも可愛らしい声とともにそんな言葉が口をついて出た。あまりの内容にまたもや顔から火が出るような恥ずかしさを覚える。


 俺はそれをなんとか押し殺し、立ち上がる。


 転んでしまった原因はこの胸のせいで足元がまったく見えないことに加え、体の重心がおかしいことにもある。


 女は男と骨格が違うとは聞いていたが、まさかここまでとは……。


 そんなことを考えつつも一歩ずつ慎重に歩き、なんとか川辺にやってきた。


 大した距離を歩いたわけでもないのに、なんともう息も絶え絶えだ。生まれたばかりということもあってか、今の俺は相当体力が低いらしい。


 俺は汗と白濁した粘液を洗い流すため、川へと入る。


 川幅は数メートルほどで、深さも腰くらいまでしかない。


 体を川に沈める。ひんやりした心地よい水の流れがこびりついた汚れを落としてくれる。


 そうして水浴びを満喫したところで、水面に自分の姿が映っていることに気が付いた。


「……かわいい」


 自分の姿だというのに、その姿から目が離せない。


 その顔はややあどけなさが残るものの完璧に整っており、緑の瞳も吸い込まれそうなほどに美しい。川の水でしっとりと濡れた長い金髪が染み一つないもちもちとした白い肌にねっとりと貼りつき、エルフのように尖った耳が強く自己主張をしている。


 だがそれよりももっと主張しているのはこの胸だ。


 背が高くてすらりとしたスリムな体型なのに、このアンバランスな爆乳は……。


 俺はごくりと唾をのみ込んだ。


 ああ、そうだ。さっきまでこの胸はあの白濁液にまみれていたんだ。それってまるで……。


 そう考えるが、今まであれば存在を強く主張してくるはずの息子の感覚がない。だが俺はこの水面に映るこの女性の姿には興奮している。


「私の体なんだし、ちゃんと調べたほうがいい、よ……ね?」


 誰に言うでもなくそうつぶやくと、俺は自分の体を詳しく調べ始めるのだった。


◆◇◆


 ……ああ、きれいな川だな。癒される。


 ボーっとした頭でそんなことを考えていた。


 いや、うん。自分の体なんだが、これは、なんというか、すごかった。


 出すものを出したら終わりの男とは違って際限がないというか……。


 自分が淫魔の一種に転生させられたということもあるのかもしれないが、とにかくすごかった。


 それと同時に、激しい空腹感が襲ってくる。


「ああ、お腹空いたぁ……」


 なんの気なしに唇を舐めると、川の下流で何かが動いた。


「あら?」


 思わずそのあたりをじっと見つめると、何やら緑色をした二足歩行の動物が姿を現した。どうやら群れのようで、何匹かが川の水を飲みにきたらしい。


 あれは、なんだろう?


 そのまま観察しているとその動物が三匹、こちらに向かってゆっくりと歩いてきた。


 あれ? もしかして肉食獣なのか?


 ええと、肉食獣に会ったときは死んだふり? あいや、木に登るんだっけ? たしか逃げると追いかけてくるって聞いたような?


 ど、ど、ど、どうすれば?


 そう思っている間に緑色の動物は、すぐ近くまでやってきてしまった。


「ギャギャギャ」


 そいつらは俺を見るなりそんな叫び声を上げ、醜悪な顔を歪めてニタリと笑った。


 人間のように二足歩行だが、かなり小柄だ。


 異世界なのでいても不思議ではないが、前世での話を当てはめるならさしずめゴブリンといったところだろう。


 身長は一メートルほどで、そのあたりで拾ったであろう木の棒を持っている。道具を使う知能があるようだが、決して友好的な態度ではない。


 その股間には人間の人差し指ほどの緑色をした棒がそそり立っているのだ。


 ……気持ち悪い!


 薄い本なんかでは見かけるシチュエーションだが、それは空想の世界の話だからいいのであって現実にあっていい話ではない!


 ましてや男である俺がヤラれる側だなんて!


 どうにか逃げないと!


 そうは思うものの、俺はまだ歩くことすら大変なのだ。とてもではないが走って逃げられるとは思えない。 


 俺が一歩後ずさる間に奴らはその何倍もの距離を詰めてくる。


「きゃっ!?」


 俺は何かにつまずき、転んでしまった。


「ギャギャギャギャギャギャ」

「ゲギャギャギャギャ」


 ゴブリンどもはそんな俺を見て醜悪な表情で笑いながら、ゆっくりと俺のほうへと近づいてくる。


 そしてすぐ近くにまでやってきたところで、俺は唐突に理解してしまった。


 あれ? こいつら……ただの食事じゃないか。


 本能的に何をしたらいいのか悟った俺はゴブリンどもの中からその精気を吸いだすように念じる。


「ギャッ!?」

「グギギギャ!?」

「ゲギー!」


 ゴブリンどもは奇声を上げ、そしてその精気をすべて吐き出した。精気を失ったゴブリンどもはそのまま地面に崩れ落ちる。


 ……本当にできてしまった。


 ゴブリンどもから吸いだした精気はコップ一杯ほどの無色透明の液体となり、宙を漂っている。


 俺はそれを両手でそっと包み込むようにしてこちら側に引き寄せ、躊躇ちゅうちょなく口をつけた。


 はっきりいってあまり美味しいものではないが、一口飲み込むたびに空腹感が少しずつ消えていく。


 ああ、間違いない。これは俺の食事だ。


 あの駄女神が淫魔の一種と言っていたのが本当だということがよく分かる。


 ただ、問題が一つある。


 こいつらは精気を吐き出すのと同時にイカ臭い白濁液も吐き出しやがったのだ。


 体にかからなかったのはせめてもの救いだが、毎回食事をするたびにこれを見なきゃいけないのか?


「ああ、もう。最悪じゃない」


 思わずそう呟き、自分の口から女言葉が出たことに再び頭を抱えるのだった。


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次回、はじめての動画投稿。お楽しみに

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