第5話

「なーんか大変そうですね〜」


 先生が教室に入ってきた。


「え、先生どっか行ってるんじゃなかったんですか?」


 日菜乃が尋ねると先生は「隣の部屋でずっと聞いてたんでね」と言って笑った。


 先生はソラと同じ目線になるように少ししゃがんだ。


「ソラは自己肯定感が低すぎる。ソラは何で自分のことが嫌いなのか分かるか?」


「え――」


 先生の唐突すぎる質問と先程とは違う口調に4人とも固まってしまった。


「はっきりとした理由はわからないんですけど……自分なんてって思う瞬間が少しずつ重なっていって……だから……」


 ソラは自分で何が言いたいかわからなくなってしまった。


「全然理由になってないじゃないか。ソラが自分自身を嫌っている理由は『他人と比較』をしているからだ。」


「はぁ……」


『他人と比較』なんて普通みんなもするのではないか?


「この世には他人と比較してはいけない人間がいる。それはどんな人かわかるか?」


「わ、わかりません……」


「それは他人と比較して優越感や劣等感を持つ人だ。ソラは他人と比較すると劣等感を抱くだろう?」


「はい……」


「でも実際ソラは劣ってなんかいない。そして勝ってもいない。ソラはただソラであるだけに過ぎない。他人は他人、自分は自分。違う人間なんだから他人と比べても疲れるだけだ。大切なのは他人よりも優れているかどうかではなく昨日の自分よりも今日の自分の方が素敵な自分になっているかどうか。完璧なんて誰も求めてないぞ?」


「私……」


 何となくわかった気がする。今まで私はずっと他人と比べては落ち込んでいた。


 何もできないのは自分ができないやつだから、弱いからと思っていた。


 でも果たして私はなりたい自分に向かって最後まで努力し続けていただろうか。


 努力もしてないのに他人を見て落ち込んで諦めていたのが原因ではないのか。


 だから――


「私、素敵な人になれますか……?」


 ソラは涙ぐみそうになり唇をキュッと噛み締めた。


「先生には3分前のソラより今のソラのほうが素敵に見えますよ?」


 先生は溢れるような笑みを頬に乗せた。


「あ、ごめんね? みんなが楽しくお喋りしてたのに先生が入っちゃって」


 先生は思い出したかのように教室の外に出た。


 優は「なーんかめっちゃ緊張したぁ」と言いながら伸びをした。


 日菜乃はニヤニヤしながら「先生ってなんか怖くね?」と言った。


「日菜乃さん! 先生は隣で聞いてるかもしれないんですよ?」


 結衣はそう言うと3人は「真面目かよ」と笑った。


 ――キーンコーンカーンコーン


 突然ソラ達の視界は真っ暗になった。

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