よくある追放ファンタジーにやや強憑依トリッパーを添えて

闇谷 紅

プロローグ

「グルルルルルルゥ」


 唸り声をあげいつでも飛び掛かれるように姿勢を低くした獣は牙をむき出しにし、次の瞬間、額に矢を生やしてもんどりをうつ。本来弓矢は攻撃力の低い方の武器ではあるのだが、最強装備ともなれば矢が一本であろうと正直オーバーキル以外のなにものでもない。


「7」


 カウントしつつ矢筒に手を伸ばした僕の手は矢の尾羽に触れてそれを引き抜きながら弓につがえた。


「ガアアアッ」

「8」


 こちらが見ていないと思って後ろから飛び掛かってきた次の獣をくるりと振り返ると至近距離で矢をお見舞いしてやる。


「普通ならそろそろ矢の残量が尽きててもおかしくないはずなんだけどねぇ」


 どういう仕組みか、リロードすると矢筒の中身は未使用の時と同じだけの矢が補充され、まとめて全部弓につがえるという頭おかしい真似をしてもそれがまかり通る。


「仕様はゲームのままだとか」


 そのおかげに随分助けられて、今僕はここにいた。弓を空に向けて矢を弦に引っ掛けた手を離せば、矢の束は上空で分離して物騒な雨を降らせる。


「これが味方には当たらないって、おかしすぎるよなぁ。いや、ありがたいんだけどさ」


 フレンドリーファイア、つまり味方への誤射に気をつけなくていいのは本当にありがたい。


「大丈夫か?」

「はっ、はい」


 例えば、敵に囲まれていた味方を助けるときなどは。向けられるおそらくは尊敬と憧れの視線に後ろめたさを感じつつ、僕はどうしてこうなったんだったかと空を仰いだ。


◆◇◆


「気持ちはわからないでもなかったんだけどなぁ」


 世の中流行り廃りがあるのは当たり前、故に必然であったのだろう、それの登場は。爆発的なヒットを見せたハンティングアクションゲーム。画面の中を動くキャラを操り巨大な敵を狩ってゆくアクションゲームだ。あまりに売れた結果、他のメーカも追随し、似たようなゲームを出した。パクリと言われないようにか、独自色はちゃんと出し、狩猟対象を別物にしたり、メーカーの十八番だったジャンルのゲームと合体させたりとそれなりに手を加えて。


「人類未踏の地と隣接した辺境でかの地を探索、脅威となるモノを狩猟しつつ力をつけ、侵略を試みる隣国の野望を打ち砕け」


 僕のプレイしたゲームはおおよそそんな感じであろうか。狩猟アクションパートで脅威となるモノを狩猟、拠点への被害を防ぎつつ装備・兵器の材料や資材を集め、軍事パートでは作り上げた装備や兵器で侵攻してくる隣国の軍隊を撃退するという訳だ。


「いや、休ませてよ!」


 未踏の地側に生息する危険な獣やそれ以上の存在との戦いをせねばならず、それが終わったら休む間もなく隣国の軍隊の相手である。プレイしているときはそうツッコミも入れたものだが、まさかその時動かしてたキャラの身体で異世界に迷い込むとか誰が予想できるだろうか。

 こう、ネット小説ではありがちなのではと思わないでもないが。


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