第17話 イクミとマトイ

「聖夜様、その人誰ですか?」


「お兄ちゃん、その人誰?」


家にマトイを連れ帰った瞬間、2人してこっちを見ている。


気のせいか、火花が散ってそうだ…なんて事は無かった。


「ああっ、多分、その方がさっきお話しした、イクミちゃんの友達ですよ?」


この子はメロロちゃん、オークマンの妻の1人だ。


オークマンがイクミが寂しくないようにと遊びにこさせてくれた子だ。


日替わりで誰か派遣してくれるのだから本当に頭が下がる。


「そうなの?」


「そういう事だよ」


「ちょっと待ってお兄ちゃん、それじゃ、その子も私と一緒に暮らすのかな?」


「そうだよ」


イクミの方はフォローされていたみたいだけど、マトイの方は、これから話さないとな。


「初めまして、私はマトイって言います。お姉ちゃんは?」


「イクミ…」


「イクミお姉ちゃん、お姉ちゃんって呼んで良いかな?」


「別に良いよ」


「それじゃ、お姉ちゃん宜しくお願い致します」


「宜しくね」


特に、その後は問題が無く、オークマンが迎えに来るまでの間、カードゲームで4人で遊んでいた。


ハァ~オークマン凄いな。


嫁さんをかんして、しっかりフォローしてくれているなんて…凄いな。


メロロは僕の方に向ってブイサインをしている。


忘れないうちに渡しておこう。


「はい、これお駄賃」


「ありがとう」


銅貨3枚を渡した。


いつもお世話になりっぱなしなので前に銀貨3枚渡したら、オークマンに怒られた。


『あのよ…友情には金は必要ない』だそうだ。


だが、一方的にお世話になるのは悪いので、話した結果お駄賃程度、銅貨3枚に落ち付いた。


「どう致しまして!」


そろそろオークマンが迎えに来る頃だな。


暫くするとノックの音がした。


「よう、聖夜、迎えにきたんだ、どうだ上手くやっているか?」


「ああっ、少し前までメロロちゃんと一緒にカードゲームをしていたんだ。そう言えば、こう言うの何処で売っているんだ!」


「何処にって、普通にその辺で売っているだろう?」


「その辺って何処で?」


「遊具を売っている屋台とかだな? しかし聖夜は何も知らないんだな?」


「ああっ、今迄はずっと旅から旅だし、雑用に追われていたから、必要な店しか行った事無いんだ」


「勇者パーティも難儀だな、まぁこれからは暇なんだし、取り返すように楽しむんだな。一緒に生活してくれる家族も出来た事だしな…」


「ああっありがとうな」


オークマンはメロロを連れて帰っていった。


さてと…どうしよう。


イクミと二人でもまだ緊張するのに…マトイまで加わったんだ。


凄く楽しいけど、うん、緊張するな。



◆◆◆


「さてと、三人揃った所で、自己紹介でもしようか?」


「イクミです…聖夜様の奴隷をしています…毎日が楽しいです」


「マトイです…今日からお兄ちゃんの奴隷になりました」


「え~と、聖夜です。冒険者をしています」


ああっ、僕はなんて馬鹿なんだろう。


2人とも楽しい思い出なんてなんて無いに決まっているのに…何を聞いているんだろう。


「え~と、一応二人とも奴隷だけど、僕は奴隷だなんて思ってないよ。そうだな一番近い関係だと家族かな? そう二人とは家族とか恋人みたいな関係に慣れたらと思っている。


「あの聖夜様、私の家族は私の事を気味悪がっていました…」


「お兄ちゃん、私のお父さんは私を見る度に『キモイ、死ね』っていつも言っていて殺されかけました」


「…」


ヤバイ、なんて言えば良いのだろう。


家族の愛情すら無かった二人にこれじゃ説明が出来ない。


「上手く言えないけど、これからは一緒に楽しみながら暮らして行こう! 沢山美味しい物食べて、面白い物見て…幸せって思う位の毎日を一緒に過ごして行こう…あはははっ僕は本当に口下手だけど、一緒に、そのね」


「聖夜様、私凄く幸せですよ! 毎日が凄く楽しくて、美味しい食べ物に綺麗な服に、ベッドまである生活、化け物みたいな私には信じられない程の毎日です。しかも一緒に暮らしているのが『貴公子聖夜』様なんですから…夢みたいなんですよ..何時も寝るのが怖くて、起きたらまたそこは檻の中なんじゃないかって…怖い位なんです」


貴公子聖夜ってなんだ?


「私はまだ会ったばかりだけど、お兄ちゃんと一緒だと楽しそうなのは解かるよ。豚以下とキモイとか死ねと言われていた私に可愛いって言ってくれたのはお兄ちゃんだけだし、それにね、あんなに沢山物を買って貰ったのは初めてだもん。だけど、お兄ちゃん、『貴公子聖夜』なんて字カッコいいよね」


だから貴公子聖夜ってなに?


「あの、貴公子聖夜ってなに?」


「サイカさん(オークマンの妻の1人)から聞いたんです。聖夜様は勇者パーティのメンバーで、そう呼ばれていたって。困っている人が居ると放って置けなくて何時も飛んでいって貴族以上に凛々しい姿から『貴公子』と呼ばれているって聞きました。 今のギルドでもナンバーワンの実力の持ち主なんだって…」


「私は奴隷商のおじさんが、お兄ちゃんが『貴公子聖夜』なんだって聞いただけだよ」


そんな風に呼ばれているのか…恥ずかしいな。


「勇者パーティだったのは元だから、そんなに凄く無いよ。あと、2人は他の人から見たらどうかは知らないけど、僕から見たら、本当に勿体ない位に可愛くて綺麗な女の子なんだから、一緒に居てくれて凄く嬉しいんだ。だから、自分で化け物とか言わないで欲しい」


「そんな事いってくれるのは聖夜様だけです」


「うん、お兄ちゃんしかいないな」


「まぁだけど、本当の事だから…」


「「ありがとう(ございます)」」


「それじゃ、これから夕飯の支度をするから、暫くゆっくりしていてね」


「えっお兄ちゃんが作るの?」


「そうだけど?」


イクミとマトイが何やら話している。


もう打ち解けたみたいだ…良かった、良かった。





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