第8話 閑話 勇者達

「ガイア、聖夜を追放して良かったのか?」


剣聖のランゼが言い出した。


言いたい事は解かる。


聖夜は幼馴染だし気心は知れている。


戦いでは役に立たなくても、雑用という面では使える男だった。


戦いだって俺達4人が強いだけで、彼奴が特別に弱い訳じゃない。


まぁジョブの差でついて来れなかっただけだ。


『幼馴染』それが大きな問題、それだけだ。


簡単に言うと、小さい頃から今迄の長い付き合いがある。


それが問題なんだ。


5人だけでの付き合いが長い。


ランゼ、マリー、ミルダにとって1番は間違いなく俺だが、もし2番目の男をあげるなら自然と聖夜になる。


聖夜は俺みたいに派手なタイプでこそ無く一見地味だが顔だって悪くない。


俺にとっても、親友みたいに思える所は沢山ある...いや、男では唯一の友人だ。


親友で幼馴染、そんな奴の傍で他の幼馴染と流石に『イチャつけない』だろう!


三人にしたって、もう一人の男の幼馴染、しかもそこそこイケメンにそういう行為を見られたらと思うと気が気でないだろうしな。


頭の中は四人とも板挟みで困っていたのだ。


他にも問題はある。


もし、将来村に帰ったら、俺も三人も避難されるかもしれない。


俺一人が三人を独占して結婚。


彼奴が独り身。


彼奴は、よく子供の頃から大人のお手伝いをしていたから、村で評判が良いんだ。


三人の親も俺の親も彼奴をべた褒め状態で、早くに親を亡くしたあいつを冗談で婿にしたいと言っていた。


『邪魔だけど、大切な幼馴染』それが一番近い間柄だ。



そして今、雑用が得意な聖夜を追い出したつけが出てきた。



「だけど、これどうするの?」


「マリ―の言う通りだよ」


確かにその通りだ。


野営の準備から焚火まで全部、聖夜が一人でやっていた。


この中に真面に野営の準備をしていた者はいない。


「誰か、調理が出来る奴はいないのか?」


「やった事ないな、私は剣以外の事は不器用だ」


「そんな事言いだしたら、私だって回復魔法しか出来ないわ」


「賢者って常に勉強なんだよ」


駄目だな…こいつ等。


「しかたねー、これからは当番制だ、今日は俺がやる…材料は?」


「野菜が少しあるだけだな」


「ランゼ…そう言えば誰が食材の買い出しをしていたの、私はして無いわ」


「マリ―…思い出してみて、買い出しは聖夜がしていたし、聖夜は依頼の傍ら鳥やウサギをとって良く調理していたよ」


「嘘、そんな事していたの」


「マリ―がウサギが可哀想って言うからこっそり隠れて解体していたぞ」


「なら、今日は肉無しで野菜のスープだな」


「「「えーっ」」」


流石にこの時間から獲物を取りに行きたくないしな…


「今度からは、ちゃんと狩るから勘弁してくれ」


折角作ってやったのに…不味そうに喰うなよ。


◆◆◆


結局1週間もしないで聖夜のありがたみが良く解った。


まず、三人が見る影もなく汚らしくなってきた。


イチャついても臭いし、触ったりしたら垢が出るし髪も汚い。


お互いに余り触りたいとか抱きしめたいという気持ちは無くなった。


なんでこうなったのか考えたら、当たり前だった。


いつも聖夜は、夜、水を汲んできて、ハーブを混ぜた水を作り、皆に体を拭くようにタオルと一緒に渡していた。


髪がべたついてきたら「髪を洗った方が良いよ」と川から水を汲んできてきたり、蚊よけのハーブを用意したりしていた。


男なのに全員の洗濯までしていた。


『身綺麗で綺麗な幼馴染』は彼奴がいたからこそ存在したんだ。


そして俺も『カッコ良い勇者』で居られてのは彼奴のお陰だ。


髪を整えてくれて髭迄剃刀で剃ってくれていた。


今のこのパーティは…もうキラキラしてない。


髪の毛ボサボサの剣聖。


蚊に刺されて体をポリポリ掻く聖女。


顔に疲れが出ている賢者。


まるで魔族と戦い負けた様な状態にしか見えない。


勇者はこの世界に何人も居る。


だが、俺だって魔王を倒せる可能性を秘めた一人だ。


それが…これで良いのか?


駄目だ…今の俺達を見て子供が平民が憧れるだろうか?


憧れなどしないだろう。


「なぁ、聖夜を迎えに行こうか? 彼奴は俺達に必要な人間だった」


「そうだな」


「そうね」


「賛成」


やはり、聖夜は俺達に本当に必要な人間だった。


「それで今後はどうする?」


その問いに誰も暫く答えなかった。


勇者である以上魔王城を目指さなければならない。


そしてその旅は勇者の誰かが魔王を倒すまで続く。


5年、10年、いやそれ以上の旅になるかも知れない。


その旅に男2人に女3人…流石に俺一人が全員を抱え込むのは世間的にも体裁が悪いだろうな。




【ランゼの場合】


そういう事なら、私がパートナーになるしかないな。


そう思う。


『多分、皆の中で聖夜が一番必要なのは私だ』


私は他の人間と違い、聖夜がかなり必要なのだ。


他の人間の武器は、手入れが必要無い。二人は杖だし、ガイアの聖剣は手入れを必要としていない。


だが、私の武器の魔剣は、手入れが必要となる。


その手入れも聖夜は夜良くしていた。


今の私の魔剣は明らかに手入れ不足で切れ味が悪い。


自分の手入れじゃ聖夜が手入れしていた程の性能にはならない。


私は、ジョブの関係で彼奴と肩を並べて戦う事も多い…だれか一人が聖夜と結ばれなくてはいけないのなら、それは私で良い。



【マリ―の場合】


そういう事なら、やはり私が聖夜の恋人になるべきかも知れない。


確かに私は美人だけど、維持するのに聖夜が必要なのが今回の件で嫌になるほど解かったわ。


この数日で自分が綺麗でなくなっていったのが良く解ったのよ。


今、私が好きなのはガイアで間違いない。


でも私を幸せにしてくれるのはきっと聖夜だ。


私を綺麗なままで居させてくれて、料理を作ってくれて、暖かい家族として暮らせる未来。


それはきっと聖夜としか築けない気がする。


聖夜が居なくなっただけで、毎日が楽しく感じられないんだから、きっとそうだ。


あの二人がガイアを選ぶなら、私は聖夜を選ぶ…それで良いかも知れないわ。



【ミルダの場合】


誰か1人が聖夜を選ばなくてはならない。


それなら…その相手は私だね。


ガイアは確かに好きだけど…未来はどうなのか?


そう考えたら聖夜を選ぶ選択もある。


私は研究職だからね。


傍で世話をしてくれる人が必要だもん。


もし、村で生活していたら迷った末選んだのは聖夜だと思う。


そう考えたら…私が聖夜に寄り添うのが正しいのかもしれない。


ガイアに対する気持ちが憧れなら、聖夜に対する気持ちはなんなんだろう。


解らない、だけど、こうして聖夜と付き合うと考えたら浮かんだ光景は私に笑いながら紅茶を入れてくれる彼の姿だった。


この未来は捨てがたいよ。




「まぁ、これから先、旅は長いその中で、新たに人間関係を作れば良い…まずは彼奴を、幼馴染の彼奴を連れ戻しに行こう」


「「「そう(ね)(だね)(だな)」」」



◆◆◆


「今日も快調だ」


僕は久々に狩りに出た。


獲物はワイバーンだ。


今の僕に狩る事が出来る最大の獲物がこれだ。1羽倒すだけで金貨50枚(日本円で500万)これを月2で狩れば生活も潤うし…イクミと暮らす家も遠くないうちに買えるだろう。


毎日一緒に過ごして、毎日笑って…そうだ。


明日はイクミと一緒にギルドに行ってパーティ登録しよう。


誰かに喜ばれて過ごす生活がこんなに楽しいなんて…全く思わなかった。


多分、僕は誰かに必要として欲しかったんだな


うん、凄く幸せだ。












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