7 昔話に出てくるあれ

「そっ、このかべこうがわにはきっとなにかある。だからきたいんだけど――」


 ジャンは「かなぁ」とつづけてうと、あなのあいているかべこぶしでたたいた。


「いってぇ……ともしないや」

 つよくたたきすぎたらしい。こぶしをさすりながら、きそうなかおになっている。


「シグマぁ、どうにかしてよ。プロのぼうけんだろ」

「そんなちゃな……」


 シグマはかべばしてみた。やっぱり、びくともしない。

 シグマのゆいいつ、ニセモノ・サーベルでもこわせないだろう。


わるいな、ジャン。こんながんじょうそうなかべ、どうにもならないよ」


 シグマはそれでもしつこく、びくともしないかべをキックしつづけてみた。


こわすなよ、シグマ。きんだんは、ちょうおおむかしせきなんだから」

かべこうがわきたいってったのはジャンだろ」

こわさなくてもいいように、もっとあたま使つかって、どうにかできないの?」

ちゅうもんおおいやつ。あたま使つかってどうにかなるなら、もうとっくに調ちょうだんとか、だいがくのやつらがかべこうがわってるって」

「それはまあ……そうかもしれないけどさ」


 はんろんできずに、ジャンはしぶしぶ、うなずいた。


ちはわかる。けど、ぶっこわさないとけないしょってのも、あるんじゃないのか」


 とはいえ、シグマがさっきからりつづけているのに、かべぜんぜんぶっこわれてくれない。


 ……どうしよう? どうやったらかべこうがわけるんだろう?


「うぅぅん……」と、うなりながら、シグマはひとまずそのにかがみこんでみた。

 あなこうがわをのぞきこむために。……でも、ダメだ。くらくてよくえないや。


 ためしに、あなにサーベルを入れてみる。すると、カチンッと、なにかにたるおとがした。


「え――なんだ、いまの?」かがんだまま、シグマはまゆをひそめた。「きんぞくか……?」

きんぞく!? ってことは、ほんとに、のかも!」


 ジャンはおおはしゃぎだ。シグマはそれとはせいはんたい

 もういっかいおなじやりかたでサーベルをあなれてみたら、こんたらなかったから。


「まずいことに……なったかもな」


 あなからサーベルをぬく。シグマはちあがると、ジャンにそうった。


「へっ、なんでさ?」

かべこうがわに……かも」


 かいにサーベルをれたときにたらなかったゆうは、からだ。

 そうおもったシグマのひょうじょうけわしくなっていく。

 ジャンは「おいおい、なにってんだよ」と、おらくこえした。


きんだんはマルスのやくさいか、それぜん――つまり五〇〇ごひゃくねんじょうむかしせきなんだぜ。だれかいるって、だれがさ? しかもかべでふさがれてて、ゆいいつできそうなあなはリスみたいなちいさなどうぶつしかとおれない。だれかいたとしても、それはきっと、リスが――」


 あきれたような調ちょうでしゃべっていたジャンが、とつぜん、そこでことをつまらせた。


 ガシャンッッ! と、かべこうがわからおおきなおとがきこえたからだ。


 ガシャン、ガシャンッ! とれんぞくしておとがひびく。

「な、なんだ……!?」とあんそうにって、ジャンはくびはげしくゆうにふった。


「ジャン! いますぐかべからはなれろ。おくに、やっぱり!」


 ガシャン、ガシャンッ! と、にひびきわたるそのおとは、たぶんあしおとだ。

 シグマはそうおもった。おもいながらいきをひそめ、おとがきこえてくるかべをじっとつめて、それからすこし、うしろにがった。おとがきこえてくるかべとのきょる。


 まえかべが、ドカンッッッ! とおとててくずれさったのは、そのちょくだ。


 ジャンが「うわ!」となさけないこえして、をついた。


 ふみつぶされたおみたいに、こなごなにくずったかべに、大人おとなふたりぶんくらいのおおきさのあなができていた。もともとあったあなとはかくにならないほどおおきなあなが。

 そのあなのまわりに、もうもうとちゃいろすなぼこりがいあがっている。

 いちさんびょうけいして、すこしだけうすれたすなぼこりのなかから、てきた。


 ぜんしんいろが、にぶいぎんいろのバケモノが!


「なっ、なんだよ、こいつ……!?」


 プロのぼうけんなのに、シグマはめいみたいなおおごえしてしまった。

 だって、かたない! ほんとうにこんなやつ、まれてはじめてたから……!


 とつじよあらわれたバケモノのぜんしんは、たしかにぎんいろだ。でも、かなにかでくろずんでいた。てつてる。シグマはそうおもった。たぶん、てつではないとおもうけど。


 とにかく、そうえたバケモノのあたまは、ドングリのようなかたちをしている。かおぜんたいてきにのっぺりだ。はまるい。はなはない。くちにはマスクのようによこせんなんぼんはいっていた。


 たいけいは、がいとヒョロヒョロだった。は、あんまりたかくない。一六二ひゃくろくじゅうにセンチのシグマよりはおおきいけれど、一七四ひゃくななじゅうよんセンチのジャンよりは、じゃっかんちいさいくらいだ。


 バケモノのあしは、にんげんおなじでほんある。ただしうでは、クモのようにほそながいのがゆうほんずつ、つまりごうけいよんほんもあった。


 そのよんほんにサーベルを――いや、すこしちがうぞ、あれは……かたなだ! 

 ほんとうばれている。プロのぼうけんになるために、べんきょうはしっかりとやった。だからシグマにはわかった。バケモノは、そのほんとうさんぼんっている!


 のこいっぽんには、かたなとはことなるかたちの、あつおおきなつるぎをにぎっていた。がネクタイみたいなかたちつるぎを。そのつるぎをにぎるぶん――したのほうに、あかひかがハメこまれている!


「あれ……ソーサリー・ストーンじゃないか! それにこいつ――ロボットかも!!」


 しりもちをついていたジャンが、やっとちあがるなり、おおごえでそうった。


「ロボット? ロボットだって……!?」

 シグマはバケモノからはなさずにジャンにきいた。


「そうだよ、ロボットだよ。ひとがたロボット。シグマだって、きいたことぐらいあるだろ」

 ジャンもバケモノからはなさずにシグマにはなしかけている。

むかしばなしてくる! にんげんみたいな、かいのこと。それがひとがたロボット!」


 ロボット――まえぐらいなら、もちろんシグマだってっている。

 だけど……ほんとうなのか? ほんとうにこいつが……ひとがたロボット!?


 ややくろずんでえるぎんいろの、たぶんなにかのきんぞくだとしかおもえないぜんしんは、たしかににんげんではなくてロボットなのだとわれたら、シグマもそんながしてきた。


 だけどこのバケモノが、ジャンのうとおり、ロボットだとしたら――。


「こいつ、マルスへいかもしれないぞ!」


 シグマがおもいついたのとおなじことを、ジャンがこえふるわせながらった。


 マルスのやくさいのころ、じんるいはんぶんじょうほろぼしたとわれているあくへい――それがマルスへいだ!

 そのマルスへいかもしれないロボットが、がんきゅうのないりょうをきらりといろひからせた。

 そのちょくだった。なぞのロボットが、シグマにおそいかかってきたのは!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る