第六章 王都のダンジョン探索

第一話 作業厨、王都のダンジョンに入る

 第一王子、エルメスが国王になってから数日後。

 俺はニナ、シュガー、ソルトと共に王都の西に広がる草原の丘を登っていた。

 向かう先は、ずっと行きたいと思っていた王都のダンジョン。距離は、西門から歩いて約20分だ。

 少しして、丘の上まで登りきったところで、ソルトを胸に抱き、撫でながら歩くニナが口を開く。


「……あ、見えてきたわ」


「あれか――」


 視線の先に見えてきたのは、丘の下にポツンとある石造りの古そうな遺跡だ。

 ディーノス大森林にあったダンジョンの入り口に似ているが、こっちはちゃんと整備されているようで、崩れているところはない。

 あっちは今にも入り口が瓦礫で埋まりそうだったからな。でも、ダーク曰く、入り口が見えなくなりそうになったら、ダンジョンマスターとしての力を行使して、何とかしていたそうだ。


「王都のダンジョンか……」


 丘を下りながら、俺は楽しそうに笑みを浮かべる。

 あのダンジョンで手に入るスキル結晶。それが、俺の目当ての品だ。

 スキルも、その全てが理論上魔法で再現できるが、スキルの方がはるかに簡単に、より効率的に行使することが出来る。

 その理屈については既に解析済みで、スキルの正体はフェリスのような力を持った神族が下界にばらまく祝福ギフト

 故に、それらの魔法陣の精密性は、俺クラスの魔法師で、ようやく解析に手が出せるほど高度なものだ。

 今後、魔法を極めていけば、いずれその域に到達することは出来るだろうが、目の前に手っ取り早く手に入れる方法があるんだったら、当然俺はそっちを選ぶ。

 それに、スキルの魔法陣から学べることも結構多いからね。

 そう色々と考えながら、俺は遺跡――ダンジョンの入り口に辿り着いた。

 そこには多くの冒険者がいて、結構にぎわっている。


「ニナ。ダンジョンにはこのまま列に並んで入っちゃってもいいのか? それとも何か手続きが必要なのか?」


 前方にある、開け放たれた扉の前に出来ている列を指差しながら、俺はニナにそう問いかける。

 このままスムーズに入れるのか、それとも何か手続きが必要なのか。それが気になったのだ。

 すると、ニナは少しだけ何か考える素振りをしてから口を開く。


「面倒な手続きはないわ。列に並び、小銀貨3枚を入場料として払って、名前と冒険者ランクを魔道具に記録してもらうだけね。慣れれば10秒程度しかかからないわ」


「なるほど……てか、金取られるんだ……」


 エルメスとアレンから金をがっぽりと貰ったお陰でお金の心配をする必要はないのだが、それでも払わないといけないと言われるとつい、反応してしまう。

 これが前世の名残か……


「まあ、ここの整備とかに金かかるし、取らん方はおかしいよな……」


 自分に言い聞かせるように、俺はそう呟く。


「そうね。あと、ここは国が管理しているから、国の収入にもなっているわよ」


「へ~そうなんだ~……あ、因みに、入場記録を取るのはなんでだ?」


 ついでとばかりに俺はニナにそう問いかける。


「えっとね……それは、ダンジョン内で死亡と判断された人をギルドに報告できるようにするためよ。ダンジョン内の死体や一部の装備品は、時間が経つとダンジョンに吸収されちゃうせいで、記録を取らないとそこら辺がすごく曖昧になるの。国が管理する場所で、それはマズいからね」


「あ~……確かにそうだね」


 ダンジョンに死体が吸収されることは、ダークが管理していたダンジョンで既に把握済みだ。

 確かに死体が見つからないのなら、誰が死んだ――行方不明になったのかも、把握できない。それを何とかするための記録なのだろう。

 入った人と出た人を記録していれば、いずれ入った記録はあるのに、いつまで経っても出た記録のない人が出てくる。

 つまり、その人が行方不明者――死亡と判断された人となるわけだ。

 ……ニナの発言で即座にそこまで考えられた俺、結構賢くね?

 そんなことを思いながら、俺はニナと共に歩く。

 すると、唐突にニナの足が止まった。


「どうした?」


 俺も立ち止まると、訝しみつつもそう声をかける。


「ダンジョンに入る前に、持ち物の最終チェックをするわよ。装備不足で死ぬ人だって、少なくないからね」


「ああ……まあ、そうだな」


 心配性過ぎないかと思いつつも、俺はニナの言葉に頷く。

 ダンジョン探索は死ぬ可能性が少なからずあるため、最終チェックもちゃんとやろうとする気持ちは分からなくもない。

 だが、それでも心配性過ぎると思ってしまう。

 理由は単純で、持ち物が無くても俺なら何とかなってしまうからだ。

 食料は現地調達できるし、帰りたくなったら、好きな時に転移で帰れる。

 しかも今は、何気に一番俺の頭を悩ませている食糧事情の解決の目途が立っているのだ。

 そう。魔力を体を維持するエネルギーに転換する魔法を開発することによって――

 俺の見立てでは、あと数年程の試行錯誤といったところだろう。

 これが完成すれば、ダンジョン探索や神界での長時間作業のために食料を集める必要がなくなるのだ。

 そんなことを思いながら、俺はニナが肩から下ろしたリュックサックに目をやる。

 これはニナがダンジョン探索用にと、荷物をつめて、家から持ってきたものだ。


「魔力回復薬は……中級が……5、上級が……10、最上級が……2。回復薬は……中級が……5、上級が……10、最上級が……2。毒回復……麻痺回復……よし。回復薬系はちゃんとあるわ。レインの方は?」


 リュックサックの中身を確認したニナは再びリュックサックを背負い、ソルトを抱きかかえると、俺にそう声をかける。


「ああ。そうだな……うん。大丈夫だ。テントと食料はある」


 テントと、大量の保存食が無限収納の中に入っていることを確認した俺は、ニナの言葉にそう答える。


「分かったわ。それじゃあ、列に並びましょ」


「そうだな」


 ニナの言葉に頷くと、俺はニナと共にダンジョン前の列に並ぶ。

 列は順調に進み、直ぐに俺たちの番になった。


「Aランク、ニナ」


 ダンジョンの入り口に立つ騎士に銀貨3枚を渡しながら、ニナはそう言う。

 すると、その横で椅子に座る男性がささっと紙にニナの名前とランクを記載する。

 ん? あの紙、魔力で出来てるな。

 紙が魔力で出来ていることに気付き、目を見開いた直後、その男性は机の上に置かれている人の頭ほどの大きさの水晶にその紙を乗せる。

 すると、その紙は溶けるようにして水晶に吸収された。

 なるほど。そうやって記録しているのか。

 そして、同じ情報を共有している別の水晶で、ダンジョンから出てきた人の情報を消去するって感じかな?

 中々いい発想だ。

 そう感心しながら、俺も銀貨3枚を取り出すと、ニナに続いて口を開く。


「Aランク、レイン」


 そう言って、俺も騎士に銀貨3枚を手渡した。


「よし。2人とも、気をつけろよ」


「分かったわ」


「ああ、もちろん」


 騎士の言葉にそう答えると、俺たちは目の前にある開け放たれた扉を潜る。

 そして、潜ってすぐの場所にあった階段を下り始めた。


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めっちゃ遅れてすみません!_(._.)_

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