第四話 王城での出来事
ヘル視点
私は今、建物の陰に身を潜めながら、王城下に集まる騎士団と魔法師団をさりげなく見ている。
こうしてみると壮観ですねぇ。ムスタン王国の国力は我が国に劣りますが、国直属の軍の強さは強いとしか言えません。特に騎士団長と魔法師長はやばい。私ではどう足掻いても勝てる相手ではありません。暗殺者らしく不意打ちすれば勝てるかもですが、そこら辺の対策はしてそうですねぇ。
「王都を襲う魔物どもを、我らの誇りにかけて、絶対に討伐するぞー!」
「「「「「おおおーー!」」」」」
騎士団長は声を上げて、皆の士気を高める。
何と言うか、暑苦しいですねぇ……
横にいる魔法師長なんか耳を塞いじゃってますよ。
「ふぅ。では、動きましょう。気配隠蔽、消音、魔力隠蔽」
こういう時に、気配を消してしれっと正面の門から入る。これが意外と有効なのですよ。あちらも、こんな時に暗殺者が来るだなんて思っていないでしょうからね。
騒がしい方々を尻目に、私はしれっと城門をくぐり、王城の敷地に入る。そして、そのまま何食わぬ顔で城内に侵入した。
城内も、少々騒がしいですねぇ。まあ、無理もない。ダルトン帝国に大きな損害を与えた魔物たちの襲撃なのだから。
まあ、あっちは場所が辺境だったせいで対処が遅れ、魔物たちが邪龍の加護の力に慣れてしまったことが原因なんですよねぇ。
なので、言ってしまえば、これにより王都が壊滅するなんてことはありえないのです。まあ、言うつもりはありませんけどねぇ。
さて、国王は協力者からの報告によると31階にある執務室に日中はいるとのことです。まだまだ遠いですねぇ。
取りあえず、25階まではこのまま行きましょう。
私は階段を見つけると、早歩きで25階まで上がった。
ただ、ここからは気をつけないといけない。この上には高レベルの気配察知スキルを持つ人が何人もいるせいで、うかつには近寄れないのです。
でも、私は特に小細工せずに行きます。私の速度をもってすれば、気づかれて、対処に動かれるよりも前に国王の所へたどり着くことが出来る。それに、大抵の小細工は向こうも対策しているはずです。何せ、ここは王城ですからねぇ。
「では……はっ」
私は全速力で上へと向かった。階段は跳んでショートカットしています。
バレないに越したことはないので、気配は消したまま。まあ、この感じ、違和感は感じ取られたようですねぇ。ですが、バレても私は気にせず足を動かし続けた。
そして、ようやく執務室が見えてきました。
白騎士らしき気配があることから、そこに国王がいるのは確定です。
「ふぅ……はあっ!」
私は息を吐くと、執務室の扉――ではなく、その横の壁をヒヒイロカネの短剣2本で破壊して、中に入る。こういった扉には何か仕掛けが施されていることがありますからねぇ。
ないことの方が多いですが、懸念するに越したことはありません。
「はっ はっ」
中に入った私はあえて気配隠蔽を解除すると、白騎士2人めがけてヒドラの毒が入った小瓶を投げつけた。当たれば、どれだけ強かろうと、対策していなければ必ず死ぬ。まあ、白騎士とあろうものが無様に当たる訳ないでしょうねぇ。
でも、いい足止めにはなる。
その僅かな隙に、私は国王に接近すると、国王の首を切り落とした……と、思ったのですが、半透明の壁に阻まれてしまいました。まあ、これは想定内です。
私はすかさず別の方向からもう1本の短剣を刺突した。
すると、防壁はパリンと音を立てて消えてしまった。
こういう類いの防壁は、2点から強い力を加えると割りやすいんですよねぇ。
「……む!?」
いきなり、私の第六感が警鐘を鳴らした。白騎士から距離を取れと言っている。
私は毒を塗った針をこっそりと国王へ投げると同時に大きく後ろへ引いた。
その直後――
ザン!
「な……」
何とも言えぬ違和感が右腕の付け根を襲ったかと思えば、いきなり私の右腕が宙を舞いました。一体、何が起こったというのでしょうか……
ですが、ここで唖然としている暇はありません。国王はまだ死んでいない。その証拠に、小さく唸り声を上げているのだから……
私はここで気配隠蔽を使うと、白騎士の追撃をかわした。
この距離ではあまり意味はありませんが、それでもいきなり気配が薄くなると、相手は反応が鈍るんですよ。
その隙に私は再度国王に近づくと、痛みで床に倒れ伏す国王の頭を踏み潰した。
これで、蘇生の魔道具で蘇生される心配もありません。
「では、逃げましょう」
私は懐から魔法陣が刻まれた魔石を取り出すと、そこに魔力を込めた。
その直後、私は王都の外に立っていた。
「危なかったですねぇ」
私はそう呟くと、安堵の息を吐く。
その後、手に握ていた魔石がパリンと割れてしまった。
「1回限りの使い捨て転移魔法。教皇様から頂いた貴重な魔道具でしたので、できれば使いたくはなかったんですよねぇ」
これは万が一の時に使えと教皇様がくれた魔道具。死ぬまで使うことは無いだろうと思ってましたが、とうとう使ってしまいましたか……
「それにしても、片腕を犠牲に国王殺し……か。出来れば五体満足で成し遂げたかったのですが、まあそう上手くいく訳がないですよねぇ」
身体欠損を治すことは出来ません。ですが、後悔はありませんねぇ。
私の夢を叶えられたのですから……
「では、国に帰りましょう」
そう呟くと、私はバーレン教国へ向かって走り出した。
あとは、協力者がどう動くのか見ものですねぇ。
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「ぐ……お前。何故こんなことを……」
王城の一室で倒れながら、男性はそう言った。
この男性の名前はエルメス・フォン・レオランド・ムスタン。ムスタン王国第一皇子だ。
エルメスは立ち上がろうとするが、足の健を斬られているせいで立ち上がれない。
「何故って? そりゃ兄上が父上に暗殺者を差し向けて殺したからに決まってるだろ? 知らないとは言わせないぜ」
エルメスを見下ろしながら言うこの男性の名前はゼロス・フォン・レオランド・ムスタン。この国の第二王子だ。
「な……ど、どういうことだ!」
エルメスは、ゼロスがいきなり父上を――グレリオスを殺したと決めつけてきたことに戸惑う。
「父上を殺したとはどういう……は! まさかお前、父上を殺したのか!」
エルメスはゼロスがグレリオスを殺し、その罪を自分に擦り付けようとしているのだと思ったのだ。
「兄上。残念です。まさか父上を殺すだけでは飽き足らず、俺に父親殺しの汚名を着せようとするなんて……。父上を殺したのも、早く王位について、好き勝手したいと思ったからであろう? なんてひどいことを考えるのだ。早く俺が、正義の名のもとに兄上を処罰しなければ。さあ、地下牢へと連れていけ!」
ゼロスの言葉で、傍に控えていた騎士たちがエルメスを捕縛し、連れて行く。
「おま――ぐっ」
エルメスは叫び声をあげようとするも、口に布を押し込まれ、声を出せなくなった。
「後日裁判を行う。罪を償えよ。兄上」
ゼロスはニヤリと笑うと、そう言った。
「さて、後は兄上に加担した宰相のトールも捕らえるぞ!」
ゼロスはそう言うと、騎士と共にトールのところへ向かった。
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