第4話 仕事を探す、思いつく

ふぅ、しんみりとした空気はもうお終い。

俺はグラスに注いだ酒を一気に飲み干してパソコンを開く。


「忘れてたけど俺って今無職だよな」


そう、たとえどんなに力をつけようと無職である以上、社会的信頼は必然的に薄くなる。それに、やる事は沢山ある。


「髪、どうすっかな」


一年前、オーディンに連れ去られてから髪を切る事が出来なかった上。髪は貴重な触媒となるため伸ばして損はないと聞いたが。いかんせん邪魔であるし、就職の際にも奇異の目に晒される事だろう。

しかし髪って本当に使えるんだよなと、一年を通して体の部位が高位の触媒になる事を知ってしまった為に苦悩する。


「さて、本当にどうするか」


金が無くなれば俺は死ぬ、それは魔術が有っても同じ。色々考えているとパソコンで面白い記事を見つけた。


「霊視探偵?」


最近巷で有名なドラマのようで広告にはデカデカとこう書いてあった。


「霊視を使って犯人を見つける新進気鋭の名探偵、か」


そんな事できる訳ないだろ、確かに出来たら誰でも名探偵になれる。

そこまで考えて思い出した。


「そういえば俺も魔術使えんじゃん」


思い出したというかなんというか。この一年で魔術が当たり前レベルになった俺にとってそれは目から鱗と言った話だ。

だったら話は早い。


「探偵なるか」


酒の勢いで決めた職業。なまじ実力があるだけ厄介な事である。

そしてこの後探偵学校に入り、国に認めてもらい。

ホームページも作成してついに開業した。


新目探偵事務所。


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この後バンバン仕事が入ってバンバン名を上げるのが物語の主人公であるのだろうが俺は違った。

会社を興して早い4ヶ月、現在の所仕事件数は0。

いやー、平和って良いですなぁ。

そりゃあそうだろう、前職普通のサラリーマンが少し探偵学校に行っただけで名探偵となれるならこの世は名探偵で溢れている。

なので今は【フェオ】のルーン文字が刻まれた石ころ持って株をやっている。


「あっ、この会社もどんどん伸びるな」


【フェオ】のルーン文字には幸運や繁栄といった意味が込められている。なのでこれ刻まれたやつ持ったらどんくらい儲かるかなと思ったら。


「元金が1000円で現在は10億円か」


とんでもなく儲かった、もう仕事辞めようかな。

でもこんだけ稼いだ分税金が怖い、どんだけ取られんだ?

・・・考えるのはよそう。

とりあえずそう結論付けた。やる事がないのでぼーっとしていると電話が来た、誰かと思い見ると知らない電話番号からだった。もしかしてと思い電話に出てみると案の定。


『すいません、依頼をお願いしたいのですが』


「オッケーです」


とりあえずオッケーを出したら電話の向こう側から早っ、と少し引いてる声がした。悲しい。

とりあえず具体的な依頼は直接話したいとの事だったので具体的な日時と場所を決めてその場はおさまった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


約束の日が来た、服装をビシッと決めて予定の時間の1時間に行く。少しでも依頼者を待たせてはいけないと思い予定のファミレスに着いた。

そこにはもう既に居た依頼者らしき女性が。

え"っ"

やばい、心臓バクバクしてる。俺はもう終わったと思いながら話しかける。ま、まぁ?依頼者じゃなければ良い話だし?


「あ、あのー。もしかしてご依頼して頂けた伊藤様でよろしかったでしょうか?」


「はい」


はい!終わった、もうこの仕事続けられない。

心の中で絶望してると女性が不思議な顔をして此方を見てきた。逃げれないか。とりあえず座って自己紹介をする。


「どうも、新目探偵事務所の新目あらもくけいと言います。本日は宜しくお願いします」


俺がそう言うと女性も自己紹介してきた。


「はい、此方こそ宜しくお願いします。私の名前は伊藤 華と言います」


自己紹介を聞いた俺は早速本題に移った。


「早速なのですが依頼はどういった内容で?」


俺がそう言うと伊藤さんは依頼を伝えてきた。それはよくある話である。


「夫の浮気を突き止めて欲しいんです、出来れば証拠も集めて頂ければ」


ふむ、とりあえず続けてと話を催促する。


「それは丁度1ヶ月前の事です。ある日夫が1・2時間程遅れて帰ってきたんです。すると夫は『すまない、残業が遅れて』と言ったんです」

「私も元は働いていましたしそういった事が起きるのもしょうがないと思っていたんです。ですがそれから毎日のように遅れて帰ってくるように」

「私も最初の2・3日は忙しいのかなと思っていたんですけど態度がどんどん冷たくなっていって。ついには私に手を上げてきて」


そこまで言うと彼女は泣き出してしまいどうしようものかと少し狼狽える。しかしこちとら探偵学校卒業生、このくらい先生が授業でガチ泣きしてそれを宥めたことぐらいある。かつての記憶を思い出して俺は覚悟を決める。


「顔を上げてください、任して下さい。この私が、新目 慧がその依頼達成してみましょう」


そう言うと彼女は手を握ってきてお願いしますと言ってきた。

その後彼女から様々な事を聞いて別れてきた。勿論代金はこちら払いだ。

とりあえず、あんなに悲しそうだったんだ。


「アンタもそんな事覚悟してるよな」


俺は聞こえないだろうが伊藤 華の夫、伊藤 誠にそう言って挑戦状を叩きつける。




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