白奈の独白

 前に同盟に従って義父と天音君の仲直りに繋がる様に二人で会話する時間を作った。

 結果として失敗した。

 初めて好感度が下がるような事をしてしまった。

 天音君の怒りを悲しみを、少しでも理解出来ていると思っていたけど、全く違った。

 全然理解していなかった。

 とても悲しく、叫びたい程に、理解出来ていなかった。


 家族と離れる事は死ぬ程辛く悲しい。

 そんな悲しみを知って欲しくない。喧嘩別れのままだと、絶対に後悔してしまう。

 後悔に押し潰されて欲しくない。私が、そうだったから。

 あの思いは、あの気持ちは、理解して欲しくないのだ。


 私は天音君に救われた。だから、今度は私が救いたい。

 これは私のエゴだ。私の価値観だ。これを押し付ける事に成ってしまう。

 彼はこのままで良いと思っているのかもしれない。だけど、それでも、このままだといずれ、辛いのは天音君だ。

 だけど、私の認識は甘過ぎた。天音君の業の深さは想像を絶するものだった。

 ただの言葉では耳も傾けてはくれない。


 少しだけでも仲直りがしたくて、少しでも歩み寄りたくて、背中を洗おうとシャー中に侵入してみる事にした。

 だが、洗面所のスライドドアが閉められ、内側から何かでつっかえさせているので開ける事が出来なかった。

 天音君が頼めば私はなんだってやれる。それだけ私は彼の事を愛している。


 でも、彼の事を理解している風で全然理解出来ていなかった。

 彼の事を理解したくても、彼がそれを許さない。

 純粋に私は信頼されてない。

 毎日の様に天音君の部屋に侵入しては会話をしているのだが⋯⋯。


 ラブコメ漫画の様には成らない。

 同じクラス、義兄妹、同じ家に住んでいる。これ程までにフラグの立った空間だと言うのに、起こそうと思って行動しないと、そう言うイベントが発生しない。

 未だに天音君の全貌を見た事が無い。見せる事は簡単だが、見る事はなかなか出来ない。

 やっぱりカメラの位置を変えるべきだろうか。


「そう言えば、先輩との練習は明日もするんですか?」


「あーうん。するけども。来れる?」


 多分、まだあまり信頼されてないだろう。だが、頼られると言う事は私にそれだけの価値は見出しているのだろう。

 嬉しい。私は天音君に頼られる事に激しい喜びを感じる。

 いくら道具だろうとそれは構わない。むしろ望む所だ。道具の方がいっぱい使ってくれそうだし。


「もちろんだよ!」


「抱き着くな」


「せめて足は止めて?」


 抱き着く為に腕を広げて能満な胸を押し付けようとしたら、顔面に足を押し当てられて防がれた。

 グイグイと押されそうに成るので、無理矢理足を前に進めようとする。

 流石に手加減はしている。へへ、天音君の匂い。特に集中する足の裏!


 ブルル、と体を震わせて椅子から脱出して離れた天音君。

 何かを感じたらしい。大丈夫、彼を見ている人は基本的に私しかいない。


 ベットに座りながらラノベに目を落とす。

 最近、天音君を付け狙う輩を発見した。私も色々と調べて見た。

 豪炎寺さんと言う物理的にかなり強い女の子だった。

 あの目は天音君に好意を持っている訳では無い。なので安心だ。

 近くに天音君を付け狙う女は居ない!


 だが、まだ分からない事がある。

 そう、それが最初に述べた通り、私は天音君の事を理解したつもりで全然理解してない。

 空ちゃんの事とか良い例だ。彼女の底は見えなかった。

 彼には他にも人脈がある。それが中学の頃からと考えると、不思議だ。

 天音君を好きに成ったのは中二からだ。


 もっと天音君の事を知りたい。深く知って仲良く成りたい。

 ぶっちゃけ、彼は忘れているだろうが、私は自分の辛い事など色々と話している。

 当然一方的だが。


「天音君って、なんでそんなにあの先輩を気にかけるの? 不思議で堪らないんだけど。君は困っている人には確かに手を差し伸べるけど、ギリギリのラインしか助けないじゃん?」


「別に君に関係は⋯⋯」


「手伝ってるし、無くは無いよね」


「⋯⋯少しだけ、共感したって言うか、なんて言うか」


「⋯⋯」


 私は驚愕し、目を血走らせてガン見していると、渋い顔をする天音君。


「な、なんだよ」


「天音君が、デレた、だと」


「いやデレてないけど」


「いやあああ! 天音君が私以外にデレちゃダメええええ! キャラ崩壊いいい!」


「一番崩壊している君が何を言う。あとデレてないし、君にもそう言う態度を取った覚えは無い」


「嫌だあぁぁぁぁ!」


「うるさい!」


「ごめんしゃい」


 これで問題は二つに成った。

 先輩にデレる問題と豪炎寺さんの問題である。

 私の知らない彼の顔に何か関係あるのだろうか?

 ありそうだ。彼の性格的にも確かに、敵は作りそうだけど、そもそも人と関わらないのでそれも無いと思われる。


「ね」


「なに?」


「やっぱり夏、海行かない?」


「ちょー行かない」


「えぇー。天音君の水着姿学校の授業でしか見れなくてつまんないー」


「良いだろ別に。あと見るなよ」


「うぅ」


「⋯⋯と言うか、いつまでいる気なの?」


「そうだね。そろそろ寝る時間だし、戻るよ。また明日ね」


「⋯⋯」


「おーやーすーみーなーさーいー」


「おやすみ」


「御満悦」


 自分の部屋に戻って私はベットに潜る。

 義父と天音君の仲直り計画は進めたいけど、それはもっと私が天音君を理解してからだ。

 今、無理矢理やっても意味が無い。

 唯一の進展が一度だけ顔を見た程度だ。見た、それだけでも進歩だと私は思っている。


「どうやったら、もっと私を信頼してくれるんだろう」


 別に信頼されなくても良い。傍に居られるなら、一方的な愛情でも⋯⋯昔はそう考えていた。

 でも、実際に傍に居ると、それも変わる。

 人間とは不思議な生き物だ。一度でも欲を出せば、どんどん深く、高く、求めてしまう。


 彼の役に立てば、彼の手伝いをこなせば、信頼は上がり、好感度は上がるだろうか。

 好感度アップのイベントはあまり発生しない。

 折角の胃袋を掴む計画も、正直彼の方が料理が上手い。

 勉強も五分五分で発展しない。彼が選択する時、下着に意識を向けさせる⋯⋯それも意味が無かった。

 何も気にする事無く、こなすので、本当に意味が無い。


 相手が高スペックだと、恋愛もなかなか発展しないなぁ。


「おやすみなさい。天音君」


 天井に張り付いている天音君のポスターに向かってそう言う。

 横に顔を動かして、立ててある父親の写真を見る。


「おやすみなさい、お父さん」


 そう言って、目を閉じた。

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