白奈の友達

 ご飯を食べている時、白奈が反応する。


「あれ? 美咲ミサキさん?」


 美咲と呼ばれたその女性がこちらを向く。

 そして恐る恐ると言った様子で近寄って来る。

 ハーフアップに髪を結んだその女性の見た目はギャルだ。

 ほんまギャル。

 奥の方には中年男性が居る。


「白奈ちゃんはここで何を?」


「弁当箱を⋯⋯」


「デートだよ?」


「弁当箱を買いに来た」


「デートだよ」


 白奈さんの目が怖い。

 しかし、僕も引く気は無い。

 ひたすらの押し問答の末、自分が言い終わった後に話を替える白奈さん。


「美咲さんはお父さんと?」


「え、うん。そうだよ」


美沙みさちゃんどうしたの?」


「あ、うんうん。友達と会ってね。行こー」


 美咲さんと呼ばれた人がお父さんと思われる人物と去って行く。


「仲が良いね〜。私達みたい」


「意味が分からん。あの子はこの付近に住んでるの?」


「真反対だよ〜」


「ふーん」


 僕はスマホを操作する。


「美人な女性を前にスマホと睨めっこですかー」


「自分で美人とか言う人の顔を見るつもりは無い」


 そして学校のある日、今日は係などを決める。

 僕は図書委員に成った。ちなみにだが、図書委員はクラスから一人抜擢される。

 つまり、図書委員の仕事をしている最中は白奈さんに付きまとわれない⋯⋯と思われる。


 あの人がどうして僕を好いてくれるのか全く分からない。或いは覚えてない。

 だが、そんなのは関係ない。

 僕は彼女を受け入れる事は絶対に無いのだから。


 そして放課中、美咲さんがとある男子生徒に呼ばれて何処かに向かう。

 僕は教室を出る。

 その際に付いて来そうになる白奈さんを横目で睨む。


 悪いが今回だけは、こいつの同行を許す訳にはいかない。

 それが分かってくれたのか、友達と話始めた。

 ただ、あんまり楽しそうではない。


 前のフードコートで見た白奈さんの表情を思い出す。


 人気の無い場所に移動する。

 僕は陰に隠れ、美咲さんと男子生徒の会話を聞く。


「やってる事ストーカーじゃないか」


 気にしたら負けだ。よーく聞こう。


「これ、なんだと思う」


「そ、それは」


 何を見せつけられたのだろうか?

 スマホのカメラを利用して確認する。


 あぁ、それか。


 男子生徒が美咲さんに見せていたのは、とあるサイトだった。

 俗に言うパパ活サイトだ。

 僕もそれは見た。

 前にあった時、あまりにも似ておらず、それでいて距離感が変だったので、気になり調べたところ、ビンゴだった。

 美咲さんと呼ばれた人はパパ活をしている。


「おっさんにケツ振ってんだろ? 俺にもヤラせろ」


「最低! あたしそんな事してないし!」


「じゃあこれはなんだよ! これを見た人はなんて思うんだろうなぁ?」


 何と言うか、ベタな脅しだな。

 僕は配信サイトでとある音を見つけ、大音量で流す。

 それは誰かの男の声。芸人の声だ。


『そこで何してる!』


 うるさい。音量調整を少し誤った。

 しかし、陰でコソコソ陰湿に脅す奴は大抵チキンだ。

 これで、⋯⋯予想通り離れた。


 僕はぼっちが好きだ。独りでのんびりと過ごすのが好きだ。

 だけど、義理でも、家族が悲しみそうな事は嫌だ。

 僕は美咲さんに近づいた。


「苗字分からないから、美咲さんって呼ぶね」


「あんたは」


 膝から崩れ落ちていた美咲さんを僕は見下ろす。

 さっきの威勢は何処へやら。

 さっきまで「してみたら?」「だから何?」「気持ち悪い」などなど言っていたのに。


「すまんな。聞いていて」


「教室と違う方向から来て、それは無理あるって」


「そうだな」


「で、何?」


「辞めないのか?」


「えぇそうね」


「いずれ危険な目に遭遇するぞ」


「漫画の見すぎじゃない? 結構やってるけど、実際そうなった事ないし」


「体も使ってないと」


「あんたも⋯⋯」


 睨まれた。

 言い方が悪かったか。


「⋯⋯ん? 美咲さんは中学からやってるの? 理由は?」


「あんたに関係ないでしょ」


「少しはあるね」


「なんで?」


「白奈さんが君にはある程度歩み寄っているから」


「意味分かんない」


「分からなくて良いさ。そもそもそんな事する理由なんて一つに決まってるからな」


 その後、僕は教室に戻った。


 その帰り、僕は美咲さんを追っている。別にストーカーじゃないよ? 誤解しないで欲しい。

 全てはあの子の為だ。許して欲しい。


「言い訳もストーカーじゃねぇか」


 なんか悲しくなって来る。

 場所は優希君が住んでいる場所の近くだった。

 ちなみにそれも疑った理由だ。

 この付近にも僕達が行った場所並みの大きさのデパートはある。

 なのに離れたあそこに行った。


 僕達の行った場所は中学方面、高校とはかなり遠い。

 当然この場所からも遠い。

 ま、そんな訳で色んな理由から疑った訳だ。


「ねぇ。誘ってくれたのは嬉しいけど、僕ストーカーなんて嫌なんだけど」


「安心してくれ。僕も嫌だ。ただ、ちょっとした事情があってね。本命は彼女じゃない」


「なんで僕まで」


「独りで居ると変な目で見られるからな」


「だからって巻き込まないでよ」


「友達居るの?」


「⋯⋯」


 優希君は女の子って言えば女の子に見られる程のポテンシャルを持っている。

 それに寄ってあまり友達が出来難いと僕は思っていた。

 ま、いずれ出来るだろ。


「まだ先は長い。いずれ親友と呼べる輩も現れるだろう。だけど、今だけは案内したお礼として付き合って貰うぞ」


「分かったよ⋯⋯」


 美咲さんを追って着いたのはボロいアパートだった。

 その後、ひたすら待っていると、美咲さんがおめかしをして出て来た。

 僕はそれを無視して、再び待つ。


「あ、もう帰っても良いよ」


「あ、うん。時間も時間だしそろそろ行くけど。本当に何がしたいの?」


「秘密」


 そのまま夜遅くまで待ち、帰って来た人物を見る。

 痩せ細ったおじさんだった。その人は美咲さんが入っていた部屋に入って行く。


「あの人か」


 僕はその部屋のチャイムを鳴らす。

 出て来たのは帰って来たばかりのおじさん。


「ど、どちら様で」


「あ、僕は貴方の娘さん。美咲さんのクラスメイトです。折り入ってお話がありまして」


 僕はスマホでとあるサイトを示す。

 そのサイトを凝視し、大きく目を見開く美咲父。


「この事、知ってましたか?」


「い、いえ」


「そうですよね。そして、こっからは、この話も入ります」


 僕は一枚の名刺を取り出す。

 その名刺を見た瞬間、目を点にするおじさん。


「それでは、今から面接を始めます」

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