東條優希

 辛い、そんな事を永遠と頭で呟きながら帰還していると、座り込んでいる同じ制服の人を発見した。

 気になり接近し、話しかけると顔を上げる。

 丸っこい顔立ちに柔らかい表情の中に涙を浮かべるその少年。

 制服が男物なので少年だ。

 男の娘じゃないと思う。知らんけど。


「どうかしましたか?」


「初めての、登校で、親が、仕事、終わらなくて、駅まで、分かんなくて、そこからの行き方も、分かんなくて。ひっぐ」


「高校生男子がそんなんで泣くなよ。スマホは?」


「家に。まさか中学と変わってスマホ持って来る事が良いなんて⋯⋯寧ろ推奨されているなんて知らなかった」


 世間知らずも良いところだな。


「場所はとこですか? 案内します」


「住所分かんない」


 お前⋯⋯僕は溜息を吐く。

 こう言う人も居るだろう。


「大まかで構いません」


「〇〇町」


 スマホで調べて、最寄り駅を調べる。


「分かりました。駅まで案内します」


「良いの!」


「ええ。家に帰りたくない理由があるので」


 駅に案内したが、そこからも分からないと言うので、カードは無いのかと聞くと、自信満々に「無い!」と言われた。

 言い方や声的に凄く小学生を相手してる気分になる。

 結局、金を使って家まで案内する事に成った。


 家の真逆の方向の電車に乗るとか、泣きたくなるぜ。


「ごめんね」


「乗りかかった船だ。最後までやるよ」


 そして家に着いた。


「ありがとう! 今日から一人で行けるよ! あ、僕東條優希!」


「どういたしまして、西園寺天音だ」


 そして僕は家に帰った。

 家に着くと、玄関に白奈さんが仁王立ちしていた。


「何故に真反対の方向に言っていたのか、聞いてもよろしいでしょうか天音君」


「僕が一番聞きたいよ。なんで知ってんだよ」


「私が先に質問してます」


「まさかどっかにGPSとか仕込んでるんじゃないだろうな!」


 制服や鞄の中をしっかり探す。


「そんな簡単に見つかる所に着ける訳ないじゃない。それで、どうして!」


「お前の行動が末恐ろしいよ」


 再び部屋に侵入して来る白奈さん。

 パジャマ姿でベットに転がる。


「臭いが付くから止めて欲しいんだけど」


「良いネタに成るんじゃない?」


「臭いんだよ」


「私そんなに臭う! ねぇ、そんなに臭いかな!」


「それと、登校の時間をずらそう」


「普通にスルーされた。そんな事したら両親が怪しむわよ」


「は?」


「今日の事で、私達は仲の良い義兄妹と成ったもの!」


「ふん〜言いたい事はそれだけか?」


「何ですって?」


「そんなの関係ないね! そもそも父との関係は既にほぼ、割と地の底なんだ! 今更ギクシャクしようが関係ない!」


「な、何て親思いの無い人なの⋯⋯」


「千年の恋も冷めたと言う事か」


「あ、ごめん。私の想いはその程度では変わんないから」


 どうしてこんなに僕を好いてくれるのか分からないよ。

 あんまり中学の時の事は覚えてないし。


 結局時間をずらす事が失敗に終わり、同じ電車で登校する事に。

 時間が時間なだけに満員で、椅子に座れずに困っている人が居た。

 お腹が部分的に大きく成って、それを手で支えている様に見える。

 妊婦のようだ。


 周りを見ると、気づいて居らずイヤフォンをして音楽を聞いている人、気づいているが見て見ぬふりをしている人。

 優先席はご老人が支配している。

 誰も譲る気は無い、そんな感じがする。


「心配ね。誰か変わってくれる人は居ないのかしら」


「⋯⋯近づけたら良いんだけど」


 人が多くて、妊婦に近づけない。

 声を掛ける人も居なければ、見る人も居なかった。

 その時、白奈さんが動いた。僕に荷物を託して、人混みの中を進む。


「あの、すみません」


「はい、何ですか?」


 サラリーマンのような格好で、先程までずっと本を読んでいた。

 周囲を見てないので、妊婦に気づいて居ない可能性がある。


 白奈さんがサラリーマンを説得する。

 嫌そうな顔をするサラリーマンだったが、白奈さんが上目遣いを使って、甘い声を使い、サラリーマンが折れた。


「どう?」


 戻っ来て、そう聞いて来る。


「怖いと思った」


「何故?!」


 学校の放課中に白奈さんの近くには人が一人居た。

 友達が出来たようだ。ちなみに僕の方には、白奈さん目的で仲良く成ろうとして来る、典型的な人達が寄って来た。

 面倒臭い⋯⋯ラノベに集中したいのに出来ないのが面倒臭い。

 無視を貫こうかな?


「こんなキモオタが読むモン止めて喋ろうぜ。お前らってどんな生活なの? 裸って間違って見たりする?」


 僕が上目遣いで睨む。

 多分、本気で睨んで居たと思う。

 そのせいか、少し怯んでいる。


「な、なんだよ」


「ごめんね」


 白奈さんが僕の横に立ってそう言っている。

 手に持っているのは、カバーを外して表紙が見える様にしたラノベだった。


「私も良く読むんだけど、キモオタの本を読んでごめんね」


「い、いや。そんなんじゃ⋯⋯」


「じゃあなんなの?」


「いや、その。西園寺さんは問題、無いって言うか」


「なんで私は問題無いの? と言うか、なんで問題があるの?」


「えと」


 白奈さん、多分これは普通に怒っている。

 僕達が図書委員で、暇な時に読んでいるのはラノベだった。

 そこから話始めたのだ。


「ねぇ、なんで問題があるの?」


「す、すみません」


「別に謝って欲しいんじゃないの。なんで、問題が、あるのか聞きたいの」


 怖気付く男子。

 流石にこのままだと白奈さんの印象が悪くなりそうなので、止める事にする。


「白奈さん。落ち着いて」


「⋯⋯」


「悪かった。本当に」


 しょんぼりして離れて行く男子。

 こりゃあ、白奈さんの平穏な生活が終わったな。

 そう思って居たのだが、『お高く止まっている』と言う印象が無くなり、寧ろオタク達からも人気が出て上がった。

 そして、『どんな事にも理解がある』と言う噂が広がり、電車の事も広がって、さらに人気者になった。勿論、全員が全員と言う訳では無いが。


 なんと言うか、美人って凄いな。


 昼の時、弁当箱が一つしか無かったので、白奈さんの分しか作って無い。

 なので、食堂を僕は使う。

 白奈さんが付いて来そうになるが、食堂は食堂で注文して食べる人が利用して良いので、諦めていた。

 ちなみにそこで優希君と出会った。


「同じ学校だったんだ!」


「制服見たらわかるだろ」


「そうなんだね!」


 女の子のような笑顔をする。

 同じ豚骨ラーメンを頼み、一緒の席で食べる。


「食べながら本を読むのは行儀が悪いよ!」


「あぁ。そうだな」


 癖だよ癖。


「ねぇ、何組?」


「2」


「そうなの! 僕は1! 隣なんだね!」


「だな」


「ねぇ、僕の事嫌い? さっきから口数少ないけど⋯⋯もしかして、迷惑、かな?」


 いやね。周りの目がやばいんよ。

 殆どが疑問の目なのよ。

『なんで女の子が男の制服を着ているのか』って言う目。

 そして、そんな相手と昼食を共にしている僕は、好奇の目に晒される。

 はよ、食べよ。

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