第21話 trying : 何度試してもみるも尚




 「分かんねぇな‥‥極端に苦手分野か‥‥?」


 『ど、どうかしました‥‥?』



 やばいなぁ。僕が生きてきた数年の人生で、人がこの顔をした時はかなり深刻だと思える。

 眉間にしわが寄り、考える的なポージングと細まる目。ちょっと綺麗な本を持って、独り言を言った様な感じだったけど何が不味いのか。



 「発光系の魔法が苦手か‥‥じゃあ‥‥。」


 

 リグフト君は自分の机をごそごそ漁り出し、また一つと綺麗な本を取り出した。色合いも厚さもサイズも、今のものとは異なる作りだ。



 「こっちで行くか。じゃあ‥‥これ持って

 〝燃るゆ種、芽生えよ〟ハイ、どーぞ。」


 『燃ゆる種、芽生えよ‥‥。』




  ………………。



 「ウソ!? 魔導具有りの詠唱有りで‥‥?」


 『‥‥これ何の検査になるんです?』


 「火系統もダメ‥‥ならこっちは‥‥!」


 

 今度は彼、机から片手サイズのツルツルした石を取り出して渡してきた。

 肌触りはとても良く、冷たく感じる。



 「今度は〝吹き動け、其の風よ〟ハイ!」


 『吹き動け、其の風よ‥‥。』



  ………………。



 「おぉ、マジマジマジ?? やばいなぁ‥‥」


 『何がですか‥‥? と言うか、このくだりは

 なんですか!? 勿体ぶらずに教えてくださ

 いよ‥‥!』


 「あぁ‥‥えっと‥‥よく聞いてな?」


 『はい‥‥!』ゴクリ


 「さっきのは本当に初歩的な魔法でだな、

 小学生でも早ければ出来るような魔法だ。」


 『えぇ‥‥?』


 「更にヤバいのは、お前がそれを聞いたこと

 も無いってことだよ‥‥。今の時代ならば義務

 教育の一環に組み込まれてるはずだ‥‥!」


 『そ、そうですよ!? こんなの聞いたこと

 も見たことも無いですから!』


 「‥‥‥‥‥‥‥‥お前今何歳?」


 『15です』


 「ウソぉ!? 嘘つけ!」


 『マジです、背丈も同じくらいでしょ!』


 「おぉ‥‥だったらヤバいな‥‥。魔導具、呪文

 詠唱込みであのレベルの魔法が出来ない‥‥。

 もしかしたら今のが全部、極端に苦手なのか

 魔力値が低いもしくは無い‥‥!」



 切羽詰まった顔のまま、こちらを向く彼の顔からは、嘘一つ無い真っ直ぐな気持ちが伝わってくる。

 きっと真剣に僕のことを考えてくれているだろうけれど、僕には何だかさっぱり‥‥。



 「医者に診て貰うか‥‥いや個人情報無いと

 どのみち‥‥。」


 『あ、個人情報ならこれを‥‥』



 よく分からないけれど先程から胸のドキドキが止まらない。僕自身も彼の焦りに釣られて、手汗がしめしめとする。

 少しでも役に立てばと胸ポケットの学生証を彼に差し出した。



 「あぁ学生証‥‥ってお前‥‥なんだこれ‥‥?」


 『これ、僕の住んでる地域の中学校のです』


 「なんだこれ‥‥読めねぇ‥‥。お前、こんな

 おもちゃじゃ何にもならねぇよ」


 『おもちゃじゃないです、本物ですよ!?』


 「お前‥‥紋章見ただけで固有魔法が分かる

 っうから、どんな賢者かと思えば‥‥。」



  コンコンコン



 「‥‥? はいはーい」


 

 突然、部屋に来訪者が来たみたいだ。

 そんな事より、さっきからこれは何をやってるんだ‥‥? もしかして‥‥リグフト君たちの言っている魔法‥‥は本当にあの魔法なの?

 いや、そんな事‥‥そんな事まさか‥‥。



 「あぁミナト君居たわ。どう? 調子?」


 「こいつ実は結構やべぇ奴かも知れん‥‥。」


 『‥‥‥‥‥‥‥‥。』



 来訪者はラインク君だったようだ。

 彼に耳打ちするリグフト君は、何を伝えていたのだろうか。

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