キズモノの詩
こでぃ
プロローグ
第1話 傷だらけの帰郷
いつか死ぬのなら、それはあの時がよかった。
信じていたものが無くなり、あまつさえそれが危害を加えてくるなんて最初は誰も思わなかっただろう。
それは自分も同じだった。
アレは罪を犯した。なのに罰せられたのは俺と、俺の大切なものだった。
いや、もしかすると気づいていないだけで、罪を犯したのは自分ではないのだろうか?
それならその方がいい。もしそうなら言われるまでもなく、自らで罰を与えただろう。
そうではなかった。違うのだ。なら、どうすればいい。
復讐か?それもいいだろう。だがそれは生産的ではない。
そうだな、もうこんなことは起きてはならない。予防策を創っておかなければ。無くすのはもうたくさんだ。
・・・・・それにしても。
痒いな、痒い。
かゆいかゆいかゆい。。
痛い痛いイタイ。
……きもちわるい。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。
「ん……」
ガタン、と体を揺らされて目が覚めた。クーラーが効きすぎるのか、少し肌寒い。
太陽はすっかり上がり頭を照り付けてくるが、今の俺には丁度いい眠気覚ましになっていた。
「……寝てたのか」
辺りを見回してみるが、電車の中に俺以外は誰もいない。どれ程寝ていたのだろうか、乗り過ごしていなければいいのだが。
頭上の掲示板をまだ慣れない目でこすりながら覗く。
……どうやら次の駅で着く様だ。
「さて……」
足元の荷物を肩に掛け、腰を上げる。心なしか、出発した時より重く感じた。
窓の景色は目まぐるしく変わり、だんだん緑が目立つようになってきた。
前に住んでいた街とは数駅ほどしか離れていないはずなのに、今は異国のように遠く、暗く感じる。
これから俺は一度離れたあの場所で、俺の人生を狂わせたあの場所でもう一度暮らすことになるのか。そう考えるとまた不安がこみ上げてくる。
ふと気付くと、無意識に顔の傷を人差し指でなぞっていた。
「このクセも直さないとな」
「月波~月波です。」
「と、着いたか。」
自動ドアが開くと同時、外の空気と光が混ざる。暑くて、眩しい。少し草の匂いを感じる。
「……疲れた。」
駅の出入り口を出た途端に今までの疲れが体の内から込み上げてきて、 近くにあった錆びついたベンチに腰掛け、体をどろりと溶かすようにもたれかける。
俺はまたこの土地で暮らすことになる。緑多く、心なしかくすんでいるように見えるこの町で。昔はよく遊びに来ていたのだが、最後にここに来たのは八年以上は前だ、もう殆ど覚えていない。
記憶に残っているものは、昔の生家とそこで仲良くなった同じくらいの歳の子ども達。あとは従妹の、、、
その瞬間、今まで俺を刺していた日差しが突然遮られた。
顔を上げると、太陽を覆うようにして、一人の女の子が俺を覗き込んでいた。
「いたー、
「遅いよー!お昼までには着く、て言ってたのにー。」
わざとらしく顔を膨らませ、風になびく髪を抑える仕草には、些かの暑さも感じられなかったが、まだ子供だと思わせる無邪気さがあった。
「悪い、始発乗り遅れたんだ。今、何時だ?」
「もう一時だよ!、私が時間を間違えたんじゃないかと思っちゃったよ!。」
「はいこれ!」
そう言って手渡されたのは今は珍しい瓶のラムネと、蓋を開けるための玉押しだった。
受け取った瓶の蓋に玉押しを置き、掌で少し強めに押し付けた。久しぶりで力加減が分からなかったが、吹きこぼれることはなかった。
「なんかぬるくないか?」
本当は十分冷えていたのだが、からかってみたくなった。
「駆が遅れてきたからでしょ!」
「そうだった。」
これは変わらないな。
「せっかく再会のお祝いに買ってあげたのにー!」
「数年ぶりの再会がラムネ一本か?」
「遅れてきたくせに……」
夏の炎天下で、他愛のない会話が数分続く。すぐにラムネはビー玉を残すのみとなり、からころと瓶の中で揺れていた。近くに瓶のごみ箱が無かったため、そのままバッグに入れ、水に濡れた手をシャツで拭う。
「じゃあそろそろ行くか。」
「みちる。」
「うん!行こ、
蝉の声、刺す日差し、靴越しに伝わるアスファルトの熱。そしてみちるの声。
その全てが脳の奥にあったほこりをかぶった記憶を呼び覚ますようだった。
新しい生活が、夏の風と一緒に流れてくるのを感じた。
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