世界終末を予言するボクのひげ。或いは、殺人マリーゴールドの崇敬。

松葉たけのこ

第1話 オフザケ・ビギンズ・グッモーニン


 何事も始まりが肝心だ、という話。

 これは徹頭徹尾てっとうてつび、そう言う話だ。


 終わり良ければ総て良し――なんてものは虚言癖の戯言である。

 始まりを誤れば、そこが終わりだ。


 つまり、話は、始まりが一番肝心という話。

 話し始め、開口一番のセリフなんてのは、特に一大事だ。



『世界は終わりよっ!』



 なんてセリフ、なんて大惨事。


 あまりにも台無しだ。

 あまりにも大馬鹿だ。


 加えて、そのセリフを喋る声がナンセンス。

 幼女気味なアニメ声ときている。



「は?」



 そりゃあ、俺の反応もこうなってしまう。


 しょうがない。

俺には、どこぞのラノベ主人公のような反応が出来ない。

俺こと青馬おうまとうは、普通の男子高校生である訳だから。

そうあって然るべき、常識的未成年者である訳だから。


 コレへの語彙力ある対応は、他の主人公へと任せることにする。



『まだ分からないの? 私は、あなたのヒゲよ』

「……いや、分からないでしょ。何もかも」



 自前の下アゴのあたりから、音域Bのアニメ声が聞こえる。

 鏡を見に行くと、そのあたりには、新しく“成長”が生えている。


 端的に言えば、ヒゲが一つ生えている。

 1つだけ他のヒゲよりも長い、カールした癖の強いヒゲ。



『どーも』



 ヒゲがお辞儀するみたいに、少し先を曲げる。

 おいおい、どんな喜劇だ。


 ヒゲが喋るとか、シュールにも程がある。

 三文小説でも、もっとマシな筋書きを立てるはず。

似非推理小説作家ウチの母親だって、もっとマシに滅茶苦茶を書き上げる。



『私がこれから、あんたの預言者よ』



 ヒゲは、俺の思考を置き去りに、頓珍漢な名乗りをする。



「……どゆこと?」



 その喜劇にして、小規模な珍事件が起こったのは、夏の深まり始めた7月1日。

 その早朝にして、午前6時45分のコト。

お陰で何だか着替えに時間が掛かった、あの朝の事。


 この“小事件”の現場は自宅、矢島ハイツC棟201号室、玄関から入ってすぐ右の洗面台前だった。



『あなたは世界を救う、勇者になるの』



 何だこりゃ。

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