第33話 愛と憎しみ
あなたにも、傷ついてほしかった。
苦しんでほしかった。
それが酷いことで、愚かなことで、咎められるべきことなのは知っているけれど。
復讐が何も生まないなんて、そんなことは今時そこら辺の小説を読めばすぐに教えてくれるけれど。
分かっていてもなお止まれない主人公だって、ヒロインだって、たくさんいて。それを私もまた、実感と共に知った。
正しいことだけでセカイは廻っていないのだ。
あの頃、暗い部屋の中で、徐々に徐々に募っていったのは恨み言に他ならない。
ぜんぶぜんぶ、彼のせい。彼のせいで、私はひとりぼっち。
彼のことなんか、嫌い。大嫌い。
嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。 嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。
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でも――――――――大好き。
その気持ちが、消えてくれなかった。
恋心っていうものは、本当に融通が利かない。どんなに傷つけられても、あなたを好きな気持ちがなくならない。
だってあなたしかいないのだ。
おバカでおデブでブスで地味な私には、彼しかいなかった。
ぐちゃぐちゃになった心が彼を恨めば恨むほど、憎めば憎むほど、彼を愛する気持ちが大きくなっていく。
どうすれば彼に近づける?
どうすれば彼に見てもらえる?
どうすれば彼に私のことを考えてもらえる?
どうすれば、彼を傷つけることができる?
どうすれば彼に、復讐できる――――?
彼だって苦しまなきゃ。そうじゃなきゃ、平等じゃない。
私があなたのいる場所に立ち、あなたが私のいた場所に堕ち、私たちは初めて対等な関係となる。
愛憎を練って、練って、練り上げて。
私の復讐計画は始まった。
私は彼にもう一度会う日を夢見ながら、自分を磨き始めた。
今まで自分がしてこなかった努力を、彼が欠かさなかった努力を、私もしてみたのだ。
おしゃれを学んだ。ダイエットをした。運動をした。勉強をした。コミュニケーションスキルを培った。
そうして数年も経った頃には、私と言う人間は生まれ変わっていた。
私の周りにはいつも誰かがいて、頼られて、好かれて、笑いが絶えない。
正直、気持ちが良かった。
それで彼への想いが消えて、ただの可愛い女の子になれたならどんなに良かっただろう。
そこにあるのは所詮ニセモノで。作られた笑顔で。ホンモノはどこにもなかった。
私を本当に満たしてはくれなかった。気持ちが良くて、キモチワルイ。
でも、それでもいい。
私は着実に、彼のいた夜空へ向かってその手を延ばし始めているのだから。
高校生になり、一年が経とうという頃。
お母さんが言った。
再婚したいの、と。
どうでもよかった。
はいそうですか。今度は離婚しないといいね。
私は軽い気持ちでそれを受け入れた。
順調に再婚が済むと私の性は篠崎になり、そして弟が出来た。
お相手の男性の子だ。私の二つ下。
彼には一定の同情を抱いた。お互い大変だねって、そう思った。
だから問題なく分かりあえて、表面的な姉弟仲は良好。
それと同時に、私には都合のいいことがひとつだけ起こった。
義父の家へ引っ越すことになったのだ。
それは私がかつて住んでいた街。
碧邦学園へは通えないこともないけれど、少しだけ通学に難がある。
それを理由に、私は彼の通う柏原高校への転入を決めた。
ああ、やっと会えるんだね。
転入が楽しみで楽しみで仕方がない。
その日は私の想定よりもほんの少し早く訪れることになる。
『あ、すみません。こちら落としましたよ』
『もし良かったらなんだけど。こ、これから一緒にお茶でも……どうかな』
そう、彼は――――青山凪月は私をナンパしたのだ。
もう笑いが止まらない。
だって、あの彼が、私をあんなにもすげなくフッた彼が、私に興味を持ってしまったのだから。
この時点で、私は彼に勝った。それを確信した。
彼にできることは何もない。
恋って、それほどまでに融通が利かないものだから。ままならないものだから。
あなたはいつか自分を抑えきれなくなって、私にコクハクをする。
だけど、私だって舞い上がっていた。
ずっと思い描いていたはずの計画はめちゃくちゃだ。
彼氏がいるなんて言ったのは、完全に失敗。そのせいで彼は自分を抑える理由を得てしまった。私の復讐心が暴走した結果だ。まーくんにも怒られた。
それに、やっぱり酷いことも言いすぎたかなぁ。
もう私の気持ちは何が本当で何が嘘で、何が正しくて何が間違っているのかも分からない。
ただ、彼のためだけに可愛くなった私が彼にもう一度コクハクして、今度こそ彼が受け入れてくれて、ふたりはずっとずっと幸せに暮しましたとさ。めでたしめでたし。
ふざけるな。
ふざけるなよ。
そんな都合のいいおとぎ話、現実にあるわけない。
そんなの、男の子の妄想だよ。
それじゃあ男の子は何にも苦労してないじゃない。
ご都合主義っていうんだっけ。
私の心は、そこまで単純じゃない。
彼への憎しみだって、ちゃんとあるんだよ。
愛憎って、本当に人間らしくて最低な言葉。
そんな私にとって渡りに船といえたのは、小早川先輩の登場だ。
彼との関係は膠着状態。彼氏はウソだと打ち明けるというのも、非常に間抜けでバカらしい。だけど隙を見せれば、彼に上手に出られてしまう。
だから私はこれ見よがしに先輩という彼にとっての恋敵を利用した。
そして事態は一気に好転することとなる。
球技大会優勝。
久しぶりに昔の彼を見た気がして、興奮した。
思わず、あんな応援までしてしまって。まるで昔に戻ってしまったかのよう。
今の飾らないあなたもいいけれど、やっぱり昔のようなあの姿に痺れた。
こういうのを、惚れ直したというのかな?
彼なら、私の復讐なんてとうに見抜いているだろう。
だけど、私のために、頑張ったんだよね。
私だけを、見ていたんだよね。
私のことを、考えてくれているんだよね。
私のために悩んで、苦しんで、傷ついて。
結果を知っていてもなお、それでも勝って、胸を張って、私にコクハクしたかったんだよね。
ソノコクハクヲ――――マッテイタヨ。
『ざまあみろ』
私は復讐を果たした。
これで私の描いた復讐は終わった。
あなたにも、味わってほしかった。
私と同じ痛みを、知って欲しかった。
苦しいよね。悲しいよね。もう、すべて投げ出してしまいたいよね。
私も、そんな気持ちだったんだよ。
分かってる。分かっているよ。
私が悪い。
子どもの頃も、今も、ぜんぶそうなのかも。
こんなの、私が好きだったおとぎ話とは似ても似つかない。
汚くて、醜くて、見れたものじゃない。
出来損ないの物語。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
でも、許してね。許してくれるよね。
だって、私もあなたを許すから。過去の過ちなんて、笑って忘れて見せるから。
今でもずっと、好きだから。
お互い様だよね。
恋した女の子にどんなことをされても、それでも好きでいてね。
悲しいことはもう十分。
あなたも私も、傷つき、悲しんだ。
愛とは、憎しみとは、果てしない狂気の上に成り立つものだ。
狂気なくしてそれはあり得ず、狂気がなければそれは儚く崩れ去る。
だから。
私は今一度、この狂気をもってあの星へ手を延ばすのだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜
次回、最終話(ラスボス戦)
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