ナナとタマの新しい生活(6)

 長谷川は、車を走らせ15分が経ち、自宅の駐車場の前に着き。後ろを振り向くと、ナナはドライブボックスの中で眠っていた。


 長谷川の自宅は、庭付きの2階建ての4LDK、鈴の自宅と似た家に住み、両親と3人で暮らしている。家の外観はちょっとお金持ちといった印象を受ける家。

 長谷川の父親は、都内の病院のちょっと名の知れた外科部長で。母親は、鈴の母親の妹に当たり、専業主婦だが、ちょっと名の知れた絵本作家でもあった。ただ、娘が大学に入るとそれを機に、主婦もこなしながら絵本作家を再開した。

 長谷川は、両親の背中を見て育ったが、一人っ子のせいなのか、あまりにも鈴の存在が大きく。幼い時から姉のような存在、というか姉そのもので、鈴の背なかをずっと追い続けている。この点に関しては、両親は何も言わず、好きなようにさしている。


 長谷川は、2台分のスペースのある車庫に車を入れ。車から降り、後部ドアを開けると、ナナが目をさまし起きていた。

「まさみお姉ちゃん、このドライブボックスなんかいいね」

「そう、よかった。かわいいでしょう?」

「そうだね……これって、まさみお姉ちゃんが買ったの?」

「そうだよ」

 ナナはキャリーバッグの中に入り。2人はタマと長谷川の母親が待つ、リビングに行くと。タマは、お気に入りの場所、リビングから見えるウッドデッキで日向ぼっこをしている。その奥では、長谷川の母親が庭の花壇に水をやっている。

 長谷川は、キャリーバッグを開けると。ナナは、今日からお世話になる長谷川の母親に挨拶をしに、心地いい風が吹いているウッドデッキに行き。

「お母さん、ただいま。今日からお世話になります。よろしくお願いします」

 ナナは、深々と頭を下げ。長谷川の母親は、その声に気づき、後ろを振り向き。

「ナナ、お帰り。相変わらず礼儀正しいのね。前にも言ったけど、実家と一緒で、気がねなしでお願いね。それと、ナナの言った条件はなるべく守るし。家族みんなでナナを全力で守るから安心しなさい、それにタマもいるし」

「タマ、今日からよろしくね。ちゃんと私も守ってよ」

「俺は番犬か? 心配するな守ってやる、っていうか、お前の方が俺より強くないか?」

「それ、どういう意味!? か弱い女性に向かって言うこと言葉?」

「か弱い!? そんなことより、あれ、見て見ろよ!?」


 タマの視線の先には、1本の桜の木が満開を迎え咲いていた。ナナは、満開の桜に見とれ、実家の桜よりあまりにもこっちの方の桜の方が綺麗だと、ちょっと羨ましいような悔しいような思いになり。ついタマにあの桜の逸話を話してしまい、ちょっとまずかったかなと思い、後ろを振り向き。その会話を長谷川が聞き。突然、忘れていた長谷川の幼い時の記憶が蘇り。

「ナナ、その話、誰から聞いたの?」

「お姉ちゃん、だけど」

「……なんか怒ってなかった?」

「えっ!? なんで……?」

「あの夫婦桜は、お姉ちゃんのお気に入りだったの。最初は絶対にダメだって言ったんだけど、私が泣いて頼んだから……リンちゃんとの想いでの桜なのに、離れ離れにしちゃって……お姉ちゃん、覚えてたんだ。そうだよね、忘れる訳ないよね。私、すっかり忘れてた……」

「お姉ちゃんは、そんな昔ことをいつまでも気にするタイプじゃないって。それに、まさみお姉ちゃんだから譲ったんじゃないの?」

「……」

「タマもそうだって、言ってるよ」

「本当に!?」


 タマは、うなずき。ナナは、長谷川の方をちょっと見上げ、その表情が少し気になり。どうしても気になるなら、明日にでも、あの時はごめんなさいって言えばいいんじゃないのと言い。今更、別に気にすることないって、とも言っていた。

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