第6話 添い寝


「佐伯くん。私、


 そう言って俺を脅すように不適な笑みを見せる美少女。

 その子は侑李の友達の安藤火乃香あんどうほのかだ。

 美少女のギャルで少し悪い友達としての印象が強い彼女は俺にとって苦手なタイプの女の子だ。

 そんな安藤さんは俺の弱みを握ったようにニヤニヤと迫っていたのだ。


「見たって何を?」


「昨日、侑李と教室でいやらしいことをしていたでしょ?」


 あー。昨日のあれを見られていたと言うわけか。

 誤魔化すか、正直に言うか。その一言で俺の学校生活が左右するかもしれない。

 真剣に悩む中、安藤さんは証拠写真を俺に見せつける。

 それはハッキリとキスの練習をする俺と侑李の姿が収められていた。


「二人ってそう言う関係? 好きとかなんとか聞こえたけど?」


「違う。それは練習だ」


「練習ってあれが?」


「あぁ。だから特別な感情はないんだ」


 これで理解してくれるか? いや、そこまで甘くないだろう。

 一生、ネタにするように揺すってくるに違いない。

 そう構えていた俺だったが、安藤さんは考える顔をする。


「なるほど。練習ね。そう言うのもあるんだ」


 納得してくれている? ひょっとして安藤さんってバカなのか?


「安藤さん?」


「ねぇ、私とも練習してくれないかな?」


「え? 俺と?」


「うん。佐伯くんなら練習相手として罪悪感なさそうだし、都合がいいかなって」


「俺は別に構わないけど、練習って何の?」


「私、彼氏がいてよく泊まりに行くことがあるんだけど、寝相が悪いって言われるの。だから練習の一環として添い寝をしてくれないかな?」


「添い寝? それくらいならいいよ。寝るだけだし」


「本当? じゃ、お願いしていい?」


「勿論。それでどこでやる?」


「私の家……と言いたいところだけど、何かと厳しいから出来れば佐伯くんの部屋を使わせてもらうと助かるんだけど」


「いいよ。いつでも歓迎する」


「じゃ、金曜日の夜に行くからよろしく」


「了解」


 俺は安藤さんと連絡先の交換をして自宅の住所を教えた。

 流れるように安藤さんは俺の部屋に訪れることになる。


「へぇ。ここが佐伯くんの部屋か。まさにオタクの部屋って感じで彼氏にはしたくないかも」


「そう言うこと平気で言えちゃうんだね。まぁ、いいけど」


 安藤さんは好きなタイプではないが、美少女ギャルとしての魅力は感じていた。

 向こうとしても俺としても割り切れる関係性なので練習相手としては都合がイイ存在である。


「それで寝相が悪いって話だっけ?」


「そうなのよ。寝相って自分では分からないし、このまま彼氏に迷惑を掛けるのは申し訳ないと思ったわけ。だから実際に見て教えて」


「分かった。じゃ、寝てみて」


「ごめん。眠くないや」


「眠くないって。それじゃ添い寝にならないよ」


「私、いつも0時過ぎないと眠くならないからそれまで待ってよ」


「0時ってまだ六時間以上もあるけど?」


「眠くなるまで遊ぼうよ。眠くなる遊びってないかな?」


「眠くなる遊びか。遊びじゃないけど、勉強する?」


「勉強? 何で家に来てまで勉強しなきゃいけないの」


「眠くなると言えばやっぱ勉強かなって思って」


「まぁ、目的は寝ることだし、試しにやってみますか」


 安藤さんは勉強開始十分で強烈な眠気に襲われた。


「やばい。横になるからベッド借りるよ。後はよろしく」


「ご、ごゆっくり」


 どれだけ勉強が嫌いなんだろうか。

 だが、勉強で眠気を誘うことには成功した。

 安藤さんはすぐに深い眠りに入った。

 それを確認した俺は安藤さんの隣に身を寄せた。

 女の子と添い寝をするのは初めての経験だが、甘い匂いが微かに鼻を刺激する。

 欲求で思わず手を出してしまいそうだ。

 だが、これはあくまで添い寝の練習だ。しっかりとダメなところを指摘してあげなければならない。


「さて。俺も少し寝ようかな」


 そう思った矢先である。安藤さんの足が俺のお腹に乗った。


「ぐっ! なに?」


 起きているのかと思うほど大胆な行動にびっくりする。

 その後も何回か攻撃されて寝るどころではなかった。

 安藤さんの寝相の悪さは群を抜いているかもしれない。


「これは一緒に寝る立場としては最悪だ。何回か練習しないと彼氏に迷惑が掛かることは容易に判断できるな」


 こうして俺は安藤さんの寝相の悪さを治すべく添い寝の練習が始まろうとしていた。

 

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