第4話 もっと激しく


「佐伯くん。申し訳ないんだけど、今日も少し時間あるかな?」


「はい! 全然あります」


「良かった。じゃ、今日もよろしくってことで」


 憧れの存在……とまではいかないが、年上で綺麗なバイトの先輩が秘密の関係を持ったのはある意味奇跡だったかもしれない。

 キスの練習相手として遠山先輩の指導をすることになった俺は都合が合えばバイト終わりに車の中でキスをすることが多々訪れる。

 当然、俺はキスをしたことすらない童貞なので指導できるほどのタスクを持っていない。ただキスをして俺が気持ちいいと感じれば遠山先輩の目標は達成だ。


 スーパーの駐車場の片隅の車内にて。


「んっ! ちゅぱっ! ぶちゅっ!」


「んー! あっ! ひゃっ!」


「もっと! もっと私にちょうだい!」


「遠山先輩! 遠慮はしませんからね」


「んっ! あっ! ンンンンンンンンンンッ! あはっ! あああああああああああ」


 好きでもない相手とこうして何度も唇を重ねるのは練習という前提がなければできるものではなかった。練習でも抵抗するが、今の俺は気にするものではない。

 練習と言い聞かせれば後は流れに任せるだけでいいのだから気が楽だ。


「はー。やっぱ佐伯くんは練習相手としていいね。罪悪感がないと言うか」


「自分が無害だからですよね」


「うん。ごめんね。都合の良い相手のように扱って」


「気にしないでください。自分は練習相手としての役目を果たしますから」


「それで佐伯くん。どうかな? 私、少しは上手くなったかな?」


「はい。いい感じです。少し興奮してきたところです」


「良かった。男の人はみんな私とキスになると嫌がるから少し自信が付いたよ」


「練習すれば上手くなれますよ。少しの間でかなりよくなったと思います」


「ありがとう。じゃ、次はもうワンランク上のものに挑戦してみない?」


「もう一つ上?」


「もっと激しく。その……ディープキスなんだけど。それも練習しておきたいんだよね。この流れで練習を続けても良いかな?」


「は、はい。自分も経験ないですが、練習相手として使って下さい」


「じゃ、失礼するね」


 遠山先輩は俺に覆い被さる形になり、距離を詰めた。

そのまま遠山先輩は俺の口に舌を入れた。

生暖かい感触が一気に口へ広がる。


「ぐっちゅっ! ちゅぱっ! じゅるり!」


「んぐっ! あ、ぐぐんっ! じゅるるり!」


 喋れないほど熱いディープキスが俺を襲う。

 息が続かず窒息しそうなほど何度も、何度も繰り広げられた。

 車の中という限られた空間だが、俺と遠山先輩の激しい練習で大きく揺れた。

 口から溢れる唾液がいい滑りとなって一つとなった。

 堪らず俺は遠山先輩の口を離した。


「はぁっ! はっ! はっ!」


「はっ! ふっ! はっ!」


 ようやく息継ぎができて大量の酸素を吸い込む。

 キスでここまで疲れたのは初めての経験だ。

 と、いうよりもキスって偉大だ。ここまで性欲を発散できるのであれば毎日やりたい。


「どう? 満足できた?」


「はい。充分すぎるくらいです」


「私はまだ物足りないかな。もう少しだけ付き合ってもらえるかな?」


「どうぞ」


 再び遠山先輩の舌は俺の口の中にねじ込む。


「んぐっ! んんんんんんん!」


「ぶふっ! んんぱっ! じゅるるるるるっ!」


 その後、立て続けにディープキスが始まる。

 五分間息継ぎなしで熱い練習を繰り広げてようやく遠山先輩は満足した。


「はぁ、はぁ、はぁ。今日は凄かったね。この練習を活かして本番に繋げてみるね」


「お役に立てて俺も嬉しいです」


 これで練習は終わりなのか。少し残念な気持ちでいた時だ。


「あの、佐伯くん。これからも練習相手を続けてもいいかな?」


「え? いいんですか?」


「うん。練習してから本番に臨みたいから定期的にお願いします」


「こ、こちらこそ」


 俺に定期的なキスをしてくれるキス友が出来た瞬間である。

 だが、それは愛のないもので練習に過ぎないが、俺はそれで良かった。

 キス友以外ではバイト先の先輩としてそれ以上でもそれ以下でもない。

 そういう関係性が正直、楽であると思ったのは内緒の話だ。

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