第4話 ギャルも木から落ちる

 町や人、兵士の演舞や豊かな自然。冴子にとってはどれも興味深く魅力的なものだった。

 どれも写真に撮りため、動画を取った。すぐにメモリは一杯になり電池は消耗した。


「大変ですぞ、ハルコンネンの使者が!」

 城に戻った一行を待ち構えていたのは慌てたクロノスだった。これは一大事だと表情を買えたユリウスとミロス。よく理解してない冴子は広間に向かった。

 部屋の前、大扉を前にするとクロノスが冴子を引き留めた。

「良いですか? 敵国の使者は我らの失言を狙っております。言いくるめられぬよう我らが対応しますゆえ、どうか姫には暫し閉口していただきたく」

「うん、別に良いけどアタシ条件反射で喋っちゃうときあるからヤバかったら教えてね。アタシも気を付けるから」

 あと録音しとくね~と携帯を操作するとポケットに突っ込んだ。


「これはこれは、勢揃いでお迎えいただきありがとうございます」

 慇懃無礼に頭を下げる仕草をする使者。先ほどの事もあってミロスは大噴火寸前だ。

「今日はどのようなご用で」

 クロノスがかしこまって訊ねる。変に刺激して戦争になるのを防ぐためだった。

「実は我が国は大変困っておりまして」

「ええい! 回りくどい言い方をするな!」

 ミロスが立ち上がったところをユリウスが抑える。使者はじろりと一瞥し本題に戻る。

「我が国は最大の国土を有している、それが故に資源が潤沢で最大の生産力を持つ」

「自慢話をされに来たのですかな」

「まあ、聴いてください……しかしその資源というのも質が悪いものばかりで、作業者の手間暇がかさむ。すなわち労力が多いのです」

 使者の話しをまとめると、労力がかさまないように質の良い資源を供給して欲しいと言うものだった。

「そう簡単には行きませぬ。そんなことは良くわかっておいででしょうに」

「クロノス殿、その言葉の本質がお分かりで?」

 つまりは奪われるか差し出すかの二択を迫られていた。もし反故にするならば戦争だと言う意味だ。

 血気盛んなミロスは今にも食って掛かりそうだったが相手の戦力を考えても勝ち目はない。その一つの理性でなんとか正気を保っていた。

 黙って聴いていたユリウスも心地が良いものではなかった。

 この国はいつだってそうだった。一国としての魅力はあれど他国からしたらいいカモだ。搾取され、反抗すれば国土を削られる。いつの間にかこんな小国になってしまった。

「それってどのくらいヤバいの?」

 その部屋にいる全員が驚愕の顔をして冴子を見た。それはハルコンネンの使者も同様だった。

 すかさずクロノスが間にはいる。

「姫! いけませぬ! 敵の思う壺ですぞ!」

「でも、困ってるって言ってたよ?」

「口車に乗せられては行けませぬ!」

 いち早く正気を取り戻したクロノスに続き使者が口を開く。

「そうですな、我々は大国なので七割はいただきたいと思っております」

「足元を見おって! この痴れ者が!」

 今にも斬りかからんばかりにミロスが起立した。今度はユリウスの制止はなかった。

 クロノスの老体で押さえつけるのが精一杯だった。

「たしかにピンチだとそのくらい欲しくなっちゃうのもわかるわ。でもさ、そうするとそっちの国で働いてる人の仕事どうなっちゃうの?逆にピンチにならない?」

「それは我が国でどうにかすることですので」

「それとさ、作業者の人たちが頑張ってるって言ったけどその人たち大丈夫そ? 過労死とかしてない?」

「は……」

 冴子の調子に飲まれ始めた。ユリウスは珍しいものを見た、と様子を伺う。

「ぶっちゃけさ、この国の資源の魅力わかってくれてるのって超嬉しいんだけどさ、さすがに限度があるわけ」

 クロノスが絶望の表情で「何を言い出すのですか!」とすがる。しかし冴子は止まらない。

「ほら、見てよこのブレスレット。アタシのおばあちゃんより超おばあちゃんが作ってくれたやつなんだけど超良くない? センスあるっしょ?」

「はあ……たしかに」

「でね、資源ってものによっては劣化しちゃうでしょ? だからそう言うものはこの国で加工するからそっちで使ってよ。それに産地の人の方が産地のものの魅力良くわかってるし」

「ですがそれだと」

「あとそっちの作業者の人たち? 疲れたらこの国来たら良いじゃん! 自然一杯だしご飯美味しいし皆優しいからマジ癒されると思うよ。この国に来てくれてるからわかると思うんだけど、人も自然もめっちゃ良いっしょ?」

「はあ? 何を言って……」

 こればかりは使者もすっとんきょうな声を上げた。自国の民をこちらに寄越せと言っているようなものだった。

 しかし冴子は真剣に帝国の労働者の心配をしていた。

「なんだっけ? 遠くの人より近くの人みたいな?」

「遠くの親戚より近くの隣人」

 ユリウスが助言すると「そう! それ!」と冴子の指が鳴る。

「助け合えば良くない?」

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