第3話 ドキドキ面接

「では志望動機をお願いします」


 鉄板の質問だ。だからこそ、難しい。

 この学校は正直いって、まともじゃない。学部も怪しいパンフレットもモザイクだらけ、そんなところに公務員や絵描きを志しているやつは来るはずがない。


「はい。私は」


 黒辻がいうには、質問はこれが全てのはずだ。ここでいかに自分が相応しいかを、怪しい人物かというのを披露しなければならない。


「不老不死に興味がありまして」


 小さな感嘆が面接官からこぼれた。


「それはどうしてですか」

「幼い頃に祖父が亡くなりまして、老衰でしたが、それに疑問と違和感を覚えました。医学や科学ではその違和感を取り除けることができないので、ここでならば不老不死になれると思い志望しました」


 あ、苦笑してる。失敗したかな。


「銀城さん、あなたは野望を持っているのですね」


 俺の動機を野望と捉えたか。そんなに大層なものじゃないし、夢でしかない妄想だ。


「多くの存在がそれを望み、しかし道半ばで忌避し続けた現象を受け入れざるをえなかった大望です」


 口調こそ柔らかいが、できっこないと諭されているようである。俺だってそんなことはわかっているし、実際に何度も諦めてきた。


「無理は承知です。ですが、ここにしかチャンスはないかもしれません」

「チャンスがあるかどうかもわかりませんよ」


 もしかしてもう落とすと決めたからこんな対応なのかな。ここまできてやっぱり別なことがやりたいとは言えないし、用意もしていない。ならばやるだけやってみよう。口論は負けるからしたくないけど、ちょっとくらい言ってやれ。


「先人がいるのでしたら、それに続くだけです。諦めるのは、その時になってからでも遅くないと思います」

「わかりました。他にやりたいことはありますか」


 あ、書類を片付け始めたぞ。これで面接終了なのか?


「えーと、ありません。不老不死になりたいです」


 なんだかマヌケなことを言っている気がする。でも仕方がない。本心なんだもの。


「以上で面接を終わります。お疲れ様でした」


 あとは事務的に退出し、会場を後にした。正門前で電柱に背を預ける黒辻がいた。


「どうだった」

「俺はダメかもしれない。やらかした」


 仔細を教えると、彼女は気のない返事をするだけだった。


「お前はどうだったんだ」

「いや、きみの前では、ちょっとこくかもしれないんだが」


 歩きながらもおずおずと俺を窺う。野良猫のようにちらちらと視線を合わせ、


「オカルトをもっと広めたいという旨を伝えたんだ。すると賛同された」


 一緒に頑張りましょうなんて言われてこっちが驚いたよ。とはにかんだ。


(こいつ八重歯が怖いんだよな)


 面接官の対応の差に、俺はそんなことしか思い浮かばなかった。


「すげえな。じゃあ合格したんじゃないか」

「どうだろう。合否通知は郵送らしいが、まああのホームページだ、それしか手段がないだろうけど」

「お祝いするか」

「……やめとこう」

「なんで」

「いや、ほら、いいからいいから」


 気をつかわれている。情けなくも悔しくもないが、寂しいではないか。


「気にすんなよ。一発逆転があるかもしれないし、それにな、お前が確実に合格するって決まったわけじゃないんだぜ」

「それはそうだけど」

「昼飯どうすんの?」

「決めてない」

「じゃあ一緒に食おうよ」

「……きみの方が元気じゃないか」

「進む時はお前。帰る時は俺。ちょうどいいだろ」

「何が?」


 わからないって顔してるけど、俺にだってわからない。適当ばっかりが口から出るのは、寂しさを紛らわすためだろう。

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