第41話 初めての飲食店

「それじゃあなたって、こういう食事処に一度も来たことないの?」

「うん、まあ。お金なかったから」


 リシェルの勧めで来た飲食店。その店内にあるテーブルの一つに、ロアは二人と向かい合うような形で座っていた。


「お金ないって、Dランク探索者よね。一万ローグもあれば事足りると思うんだけど」

「一食に一万ローグは高いだろ。そんなにかけられないよ」

「それは言葉の綾。場所によっては1000ローグでも十分な筈よ」


 確かにそれくらいの値段で売られてる食料もあったなと思う。

 相手の食生活が気になったリシェルは聞く。


「なら、今までは何を食べて過ごしてきたの?」

「保存食だよ。一個100ローグのやつ」


「これくらいの」と手で形を作りながらロアは答えた。


「……それってまさか、茶色の包装がされてるアレのこと?」

「そうだよ。お前も食べたことあるのか?」

「あー、うん。一度だけなら」


 苦笑いとともに彼女は言う。


「……こういう言い方もなんだけど、よく食べれるわね。いえ、栄養食だってことは理解してるけど、味的に」

「確かに美味しくないけど、気にしなければ気にならないから」

「そ、そう……」


 さも当然と言った様子でロアが言うと、リシェルはドン引くように口元を引攣らせた。見ればランの方も若干眉根が寄っていた。

 自然とこの話題はされなくなり、完全に切り替えたリシェルが注文方法を教える。


「メニューはこのパネルから選べるわ。こっちの二次元コードを読み取れば個人端末からの注文も可能よ」


「好きな方をどうぞ」と、テーブルに置かれた注文用端末を手渡す。それを受け取り、ロアはメニューに目を通した。表示された料理はどれも、見た覚えがありそうでない、彩色豊かなものばかりであった。書かれた値段は言われた通り、思ってたほどは高くない。高くても一万ローグを超える程度だ。

 他人の食べ残した残飯程度ならロアも口にしたことはあるが、まともには食べたことがないので、どれがどんな味がするのかは全く分からない。オススメを聞こうかと考えたが、一つ気になるメニューがあったので、それを注文することにした。

 自分の端末から注文を終えたリシェルが話を振る。


「こういう場所に来るのは初めてなのに、よくちゃんと頼めたわね。嫌味じゃなくて」

「来たことはないけど、見たことある料理はあったから。それを頼んだ」

「なるほどね」


 ほどなくして、探索者協会で見たような自動ロボットが、複数の料理を器用に持って運んできた。ここにも当たり前にあるのかと、ロアは驚きを交えながら料理を受け取った。皿の上には、メニューで見たのと同じものが乗っていた。


「食べましょうか」


 リシェルの言葉で、各々運ばれてきた料理に手をつけ始める。

 慣れた手つきで食事をする二人。それを参考にしつつ、初めてモンスターと対峙した時と同じような緊張感を以って、ロアは目の前の料理を自分の口へと運んだ。


「……おいしい」


 一口だけを含み咀嚼した口から、自然とその感想が漏れた。パンという食品に調理された肉や野菜を挟み込んだこれは、初めてまともな料理を口にするロアの舌にも、申し分なく美味という感覚を与えた。


『ペロ、これすごくうまいぞ』

『そうですか。それは良かったっすね』

『うん。これならリシェルたちが食事に誘う理由も分かる気がする』


 食事の魅力を相棒と共有したロアは、夢中になって食べるのを再開する。大きくかぶりついて料理を口一杯に頬張る。以前ならできなかっただろう食べ方で、贅沢に美味という感覚を堪能する。こんなことならもっと早くに食に金を使えばよかったと、多少の後悔を抱きながら食べ進めた。

 そして気づけばあっという間に完食してしまった。味にはとても満足したロアであるが、肝心の量にはやや物足りなさを感じていた。

 そんなロアの様子を微笑ましく眺めていたリシェルが提案する。


「満足できないなら、もう一個頼んだらどうかしら」

「え、もう一個頼んでもいいのか?」

「お金があるならお店側の材料が尽きない限り、いくら頼んでもいいと思うわ」


「そうなのか」と頷いたロアは、またパネルを手にとって同じものをもう一つ頼むことにした。

 少し経ってから、同じようにして料理が運ばれてくる。それを若干緩んだ表情で待っていたロアは、料理が机の上に置かれ、手に取ろうとしたところで首を傾げた。


「あれ? 俺これ頼んでないぞ」

「私のです」


 言いながら、新しく来た皿を自分の方へと寄せるラン。いつの間に頼んだのかと、ロアは驚きながら自分の分を手元に引いた。

 空になった皿を、運んできた自動ロボットがそのまま回収していく。スペースが空いたテーブル上で、ロアは没頭するように食事を再開した。



 もう一つも完食し、まともな食事を存分に堪能したロアは、勧められて頼んだ食後のドリンクを飲みながら、同席者と雑談に花を咲かせていた。


「ふふっ、何それ。あなたって、結構危なっかしい生き方をしてるのね」


 以前にルーマスへ話したモンスター地帯での出来事を、リシェルにも同じように伝えていた。ちなみにランは未だに無言を貫き、無表情で黙々と食べ続けている。

 そのまま話題は、ロアが攻撃を受けた強力なモンスターの話に移っていた。


「倒したら30億だもんな。そんだけあったらなんでも買えそうだ」

「そうでもないわよ。そもそも、それを倒すための装備がものすごく高いもの。私たちのだって、そんな高ランク装備に比べたら安物よ」

「マジか。俺のはともかく、二人のでも駄目なのか。ハードル高いな」


 本来なら討伐報酬は100億ローグを超える超大物と聞いた。それを考えれば、装備にも同額をつぎ込めなければ話にならないというのは、当然のことなのかもしれない。


「そういえば、あの特定災害って成長するんだっけ。そうなったらどれくらい報酬って釣り上がるんだろ」


 何気なく発した疑問。それに、淀みなく食事を進めていたランが手を止めた。その隣に座るリシェルの笑みも、微かにだが深まった気がした。


「へー、よく知ってるわね。誰かから聞いたの?」

「まあ、知り合いから」

「それ、一般には知られてない情報だから、不用意に言わないようにね」


 真剣味のこもった忠告に、ロアは反射的に頷いた。それを見て、ランも食事の手を再開した。

 話題の転換を図ろうとする前に、リシェルがさりげない口調で話を始めた。


「機密情報へアクセスするには、それに応じた権限レベルが必要になるって知ってる?」


 初めて聞く話であると、ロアは首を横に振る。相手の反応を見て、彼女はこの話を続けた。


「あなたや私たちが使っている、魔力による強化や感知なんかを含めた応用的な技術。これの情報が開示されるのに必要な権限レベルは、探索者のランクで言えばD以上。そして魔力を活性状態にする方法に関する情報はDD以上、つまりは中級以上ってことになってるわ」

「……それ、俺に話してもいいやつなのか? まだDランクなんだけど」

「いいか悪いかで言えば、良くはないわね。でもこの程度、どこのグループも身内で共有しているものよ。魔力活性の有無で、当人の戦闘力には雲泥の差が出てくるからね。そのための効果的な訓練方法なんかを、さりげなく下に伝授するのよ。力のあるチームやグループは、そうやって戦力を維持してるわ」


 そんなカラクリがあったのかと、ロアは素直に感心した。


「でもどうしてその情報を制限するんだ? もっと広めた方が、全体のレベルが上がっていいと思うんだが」

「最もな意見だけど、これには篩掛けの意味合いがあるのよ」


 討伐強度20以下、すなわちDランク帯以下のモンスターというのは、魔力強化を使わずとも討伐が可能な程度に調整されている。装備と本人の資質、仲間同士の連携次第で、十分対抗できると見込まれている。この段階で、探索者となった者たちは探索者がどういうものか、それを肌身で感じ、理解することになる。


「いわば、探索者としての準備期間ね。基礎と基本を学ぶ段階。訓練で飛ばすことも可能だけど、誰もがそんな時間的、金銭的余裕があるわけじゃないから、そのために必要なのよ」


 Dランク向けの装備から、魔力を使って使用する魔導装備が多くなってくる。これは価値が高く強力であると同時に、使用者に魔力という力を慣れさせる効果がある。使用者は使いこなすほどに、次第に自分の内側に存在する力を感じ取れるようになっていき、これが魔力の活性化へと繋がっていく。


「センスのある人なら、さっさと魔力を活性状態に持っていき上のステージに進むの。逆に無い人だと、ここでもたつくことになるわ。別に早かろうが遅かろうが、大して差が出るわけじゃないからどうでも良いんだけど、重宝されるのは大抵早い方ね」

「それじゃあ、誰でも最終的には活性化に持っていけるってわけか」

「うーん、それはそうだけど、そうじゃないとも言えるわね」


 Dランクでもたつくようになった人間は、やがて勢いを失って行き、挑戦をやめるようになる。日々の稼ぎと安定を求めて、安全な探索や狩りしかしなくなり、リスクを犯さなくなってくる。魔力は使うほどに効力は高まる。ただしそれは漫然とではなく、ある程度の意欲や挑戦が求められる。だからDランクで長く足踏みした人間は、そのまま浮上することなく、そのランクに留まることがほとんどとなる。


『お前がさっき言ってた話か』

『そういうことですね』


 つい先ほど似たような会話をしたことをペロと確認した。


「そういうわけで、体制側はこの情報を積極的に広めることはしないのよ。ある程度の誘導や筋道は立てられてるから、彼らが求めるような優秀な人材は、自然と上に上がってくるわけだからね」


 話をそこで区切り、リシェルは飲み物に口をつけた。上品にストローへ唇を触れさせ、一定のリズムで中身を嚥下していく。ロアもそれを見て、自分の分を口に含んだ。

 喉を潤した彼女はグラスから口を離すと、小さく舌を出して唇を舐め取り、会話を再開させた。


「私たちも権限以上の情報をいくつか得てるわ。さっき話題に出た、特定災害が成長するって話なんかもそう。あれは本来ならBランク……上級以上にしか開示されないような機密よ。都市でも上層部の人間しか知り得ないわ」


 そこで彼女は、僅かに溜めるように間を置いた。


「そんな機密を、Dランクでしかないあなたがどうやって知ったのか。個人的に興味津々なんだけど」


 冗談めかして言うリシェルに合わせて、同意するように首を縦に振るラン。両者の瞳に映る興味は真剣そのもので、笑みを浮かべてなければ、尋問と錯覚したかもしれない。そんな圧力を感じた。

 相手からの追及に、ロアは言いにくそうに唇を引き絞る。その反応を見て、リシェルは空気を緩めるように言った。


「別にいいわ。私たちに話せないことがあるように、あなたにもあるのでしょう。流石に今日会ったばかりの相手から秘密を聞き出すほど、無節操なつもりはないわ」


 そう言われ、ロアは安堵するように息を吐いた。これまで一方的に情報を貰った立場だ。お返しの一つでもしたかったが、それに見合うものは持ち合わせていない。唯一相手が聞きたいことは、自分にとって絶対の秘部だ。話すわけにはいかない。だが言えないことだとしても、心苦しいことに違いはない。相手からの追求が止まり、変に後ろめたさを感じずに済んだと落ち着けた。


 その後は特に気まずくなることもなく雑談を続け、御開きとなるようにその場で解散することになった。




「お前、あの二人と仲良いのか?」

「いきなりなんだよその質問。あの二人って……ああ、リシェルとランか」


 初めて二層に挑戦し、そこで出会った二人の探索者と食事をしてから二日後。一日の休みを挟んだロアはまた迷宮を訪れ、そこでルーマスと再会していた。彼からは開口一番にそんなことを聞かれた。


「どうだろう、仲良いのかな。ルーマスと同じくらいか?」

「どうやったんだ? というかいつからあんな仲良くなったんだ?」

「ほんの二日前に会って食事しただけだよ。なんでそんなこと聞くんだよ。ってかなんで知ってるんだよ」


 彼女たちとはつい二日前に一度会ったきりである。食事を共にした間柄とはいえ、一度会っただけの相手との関係をなぜ知りたがるのか。そもそもなぜ知っているのか。自分の行動範囲を監視されてるようで、なんだか不快と不満を感じたロアは、唇を尖らせながら問い返した。


「ああ、悪いな。確かに急だったな。あの二人はなんと言うか、色々と特殊と言うか、ここいらじゃ結構有名なんだよ。それでな」

「有名……? そういえば、前に話したとき周りから注目されたな。そういうのか?」

「そうそう、それだよ。ほら、あの二人って美人だろ? だから割と注目度も高いんだよ」


 そう言って、ルーマスは以前のように端末の画面を見せた。

 それを見せられ、ロアはややげんなりした様子で嘆息した。そこには自分と例の二人の後ろ姿が写っていた。


「またそれか……。前も思ったけど、これどうにかすることってできないのか?」

「できるかできないかで言えばできる。というか、アップされた画像自体はもう消えてる。ってか消されてる。これは俺が勝手に保存したもんだ。後で消すからそこは安心してくれ」

「なんだ、消せるのか」

「そりゃ人物写真なんて個人情報の一種だしな。それ一枚から、そん時の健康状態や精神状態なんかを色々知ることができる。勝手に撮るのもアウトだが、公表なんかしたら戦争だよ。実際それで刃傷沙汰になることがある、っていうかあったしな」

「あった?」


 言葉に反応してロアは首を傾げる。


「そうだよ。どっかの馬鹿が気を引きたかったのか知らんが、無遠慮に堂々と二人を盗撮してな。そいつの端末を破壊されたことがあったんだよ。それがそこそこ大きな問題に発展してな。この辺じゃ割と有名なんだが、お前は知らなかったか」

「うん、初めて聞く」

「そんときにCランクとも揉めたらしくてな。でもそいつを軽く捻ったって噂が立ってからは、二人にちょっかい出す奴らはグンと減ったよ」

「へー、すごいんだな」

「噂じゃ、CCランクの強さはあるんじゃないかって言われてるくらいだ」


 ランク一つの差は、級の壁があるのは勿論として、それ以外でも大きな差となっている。そのため実力が正しく判定されていれば、ランク下位の者が上位に勝ることは基本的にあり得ない。

 それを聞いたロアは、二人との会話を思い出して、一つ疑問を口にした。


「でもあいつら、三層で戦うのは厳しいとか言ってたぞ。他の探索者のいざこざとか、徘徊とかいうモンスターが強いからって。CCランクはないんじゃないか」

「あー、多分だが、そりゃ方便だな。三層に挑んでるチームの一つにグライオンってのがいるんだが、二人が揉めたのはそこなんだよ。だからそういう言い方をしたんだと思う。一応当事者間の和解でこの件は済んだって話だが、トラブルの種はすでに埋まってる状態だしな」


 その話を聞いて、ロアはそういうことかと納得した。CランクもCCランクも格上であることに変わりないが、驚きを感じた実力者というのがランクよりも実際は強いと知れて、少しだけ自信を取り戻した。


「じゃあ、やっぱあの二人ってすごい強いんだな」

「……お前、今の話を聞いて言うことがそれかよ」

「? まあ、俺も少しは成長してるからな」


 ロアの感想に、ルーマスは呆れた様子で息を吐いた。


「……二人の事情はそれくらいでいいだろ。それでお前はどうして……というか、どうやって二人と仲良くなったんだ?」


 ロアは当時のことを記憶から引っ張りだして語る。


「どうやってって言われても、俺が二層で探索してたら、モンスター部屋に入ってく二人を見つけて、助けようとしたらその必要はないって気付いて、それから少し話す機会があっただけだよ」


 簡潔な回答に、ルーマスは僅かに眉を寄せて困惑を見せる。


「……それだけか?」

「そうだよ。その後すぐにここで再会して、なんか、下心とか打算? そういうのが無いから仲良くしておきたいって、本人たちはそう言ってたぞ。後は流れで、なんか飯を食べに行くことになった」

「そうか……」


 ロアの語る内容に、ルーマスは少しだけ考えた素振りを見せると、一転して朗らかな調子に戻った。


「というかお前、俺からの誘いは断ったのに、あの二人とは飯食いに行ったのかよ。あんな美人に誘われて断るのは難しいが、いくらなんでもちょっと酷いぞ」

「別に美人だから承諾したわけじゃない。お前から誘われたときは、普通に手持ちに余裕がなかっただけだよ」

「そういうことにしといてやるよ」


 そう言って、反論するロアの肩を軽く叩いて笑う。


「それにしても、もう二層に潜ってんのか。そっちの方が驚いたぞ。まだEランクじゃなかったか」

「いや、もうDに上がったよ」

「だとしても大して変わらねえよ。俺もうかうかしてられねえな。気づいたらお前に追い抜かれちまいそうだ」

「流石にそこまで早くは無理だと思うが」


 DDDランクより上と言ったらCランクである。そしてCランクの強さは直に見て知っている。その強さを理解しているロアとしては、そこが容易には手が届かない高みだと認識している。相手の軽口だと分かっていても、つい否定してしまう。

 ロアがルーマスと雑談を続けていると、そこへ声をかける者が現れた。


「おい、ルーマス。こっちの準備は整ったぞ。早く中に……って誰だそいつ?」


 声が発せられた方向に目を向けると、そこには年若い探索者たちの姿があった。


「おお、終わったか。それと、こいつは俺の知り合いだよ」

「……まさか、そいつも一緒なのか? 足手まといを連れるなんて聞いてないぞ」

「全然別口だよ。たまたま再開したから会話しただけ。早とちりすんな」


 二人の会話を横で聞いていたロアは、タイミングを見て疑問を投げかけた。


「なあ、ルーマス。こいつら誰だ?」

「こいつらだと!?」


 ロアの言葉に、青年たちの一人が強く反応する。


「あー、こいつらはあれだ。俺が付き添いをしてるひよっこだよ。知り合いのグループから頼まれてんだ」

「ひよっこじゃない。俺はDランクだぞ。とっくに一人前だ!」

「お守りがなきゃ迷宮に入れないようなのはひよっこだよ」


 なんとなく事情が透けて見えて、ロアは納得するように頷いた。


「大変なんだな。お前も」


 指導役の立場なのに、敬意を払ってもらえない彼の境遇に、ロアは理解を示すような言葉を口にした。

 その態度が気に障り、青年は視線を鋭くした。


「……お前ランクは?」

「Dだよ」


 問われた問いに正直に答えたロアへ、彼とその仲間は嘲るような笑みを浮かべた。


「ハッ、まだ中級ですらないのか。全然大したことねえじゃん」


 DDDランクと対等に話す子供を少しだけ警戒していたが、予想以上に低いランクに気勢を上げた。

 自分を馬鹿にするような態度をされても、ロアは特にリアクションを起こすことはしなかった。むしろこの感じも懐かしいなと、ネイガルシティでのことを思い出していた。

 そんなロアを擁護するように、ルーマスが口を挟む。


「言っとくが、こいつは一層程度なら一人で回れるし、なんなら二層でも通用するくらいの実力があるからな。舐められないようにするのもいいが、相手くらい選んで喧嘩売るようにしろよ」

「なっ……」


 自分と同格程度と思っていた相手が実際には格上と知り、青年たちは意気を落として黙り込んだ。


「悪かったな。バカが馬鹿なこと言って。なんなら本当にこっちの指導に付き合ってくれれば、俺も色々手間が省けそうで楽なんだが」

「二層なら付き合ってもいいけど、流石にそれは無理だろ」

「……当たり前だろ」


 平然と言うロアに、ルーマスは苦笑気味に答える。そのやり取りを側で眺めて、先ほどの発言が嘘でないことを青年たちは察した。

 大人くなった彼らを引き連れて、ルーマスは「じゃあな」と言い残し、迷宮の入り口へと向かっていった。


『あいつ、俺以外にもああいうことしてたんだな。やっぱいい奴だな』

『指導する相手は程度の低い輩でしたがね。彼らが一月以内に死ぬのに100万ローグです』

『……そういうの、趣味悪いと思うぞ。乗らないからな』

『それはすみません。でも、あなたもこういう冗談が伝わるようになってきましたか。成長しましたね』

『なんとなくだよ』


 少し間を置いてから、慣れた手つきで資格デバイスを借り、ロアも迷宮へと潜っていった。

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