第15話 遺物発見

 丸一日を休日として過ごす中、知人と思わぬ遭遇を果たし、初めての魔道具を手に入れるなどの経験をしたロアは、休み明けにまた探索に出向いていた。最初は走って遺跡まで移動していたのも、今では当たり前に都市と遺跡間を行き来する定期輸送車に乗っている。

 装備に関しても探索開始当初とは似ても似つかない成長を遂げている。粗末な服や質の悪いナイフだけだったのが、全身を新品の装備で固め腰には立派な武器を差すまでになっている。名実ともに、一端の探索者と名乗れる段階に入っていた。

 そんなロアが慣れた様子で遺跡の中を進んでいると、唐突に相棒であるペロから

 指摘を受けた。


『ロア、その瓦礫の下に何かありますよ』

『何かってなんだよ。それよりどの瓦礫の下だ?』


 言われてロアは周囲を見回してみるが、瓦礫などそこら中に散乱している状態である。どれがペロの指示した瓦礫なのか見当がつかなかった。


『中身までは私にも判りません。瓦礫はそこの瓦礫です』

「うわっ!」


 ペロが言うと同時に、ロアの視界には矢印のマークが現れる。突然視界に現れた異物の存在に、ロアは驚いて生身の声を上げた。


『なんだよこれ……? お前何したんだよ』

『見て分かるでしょう。ロアの視界に分かりやすい目印を表示してあげたんです。これであれとかそれとか、意思の疎通に不便な指示語でも簡明に伝わるようになりました』

『……』


 自分の言いたいことはそういうことではない。そう思うロアだったが、今更この程度のことで文句を言っても仕方がないと諦める。ロアとしても、これは割とありがたいサポートだと感じていた。

 それでも驚かせたことに対して、一言だけでも何か言おうと思った。


『それでもさ、やる前に少しくらい説明か何かしてくれよ。いきなりやられるとこっちもビックリするだろ』

『それはすみませんでした。確かに配慮に欠けてましたね。これからは気をつけます』


 あっさりとペロが謝罪としたことで、ロアの溜飲も下がりこの件は終わりとなった。

 視界にある矢印が指した瓦礫をどかしながら、ロアはこの新しいサポートに関してペロに尋ねた。


『この矢印って今まではなかったけど、いつから出来るようになったんだ?』

『正確には把握していませんが、ロアが訓練を開始して数日目くらいですかね。私とロアの同期率が上がったことで、可能となるサポートが増えたのです』


 ペロはロアの精神幽層体に定着しているが、それは二人の存在的な合一化を意味しない。あくまでもそれぞれは、別個の存在として独立している状態にある。

 ペロが今まで使わなかった機能を今にして発揮したのは、ロアとの親和性が高まったからだ。これまでも使おうと思えば、支援機能の全てを発揮することは可能だった。ただその場合、高い確率でロアに後遺症を残すことになった。そのためペロは負担の大きいと考えられる機能は、折を見て徐々に解放しようと決めていた。


『ふーん。それじゃあ、この先もっと出来ることが増えるってことか』

『そうですね。まあ普通に危険なものもありますので、使用するかどうかは要相談ですね』


 そうこう話しているうちに、大分低くなった瓦礫の山の中から何かが掘り起こされた。


『これは……金属の塊?』


 ロアが見慣れないそれは、一メートルを超えないくらいの大きさをした、金属質の四角い物体であった。


『ペロ、これがお前の言っていた何かなのか?』


 いつのまにか消えていた矢印であるが、状況的にこれが瓦礫を撤去する原因になった物であるとロアは推察した。


『ええ、その通りです。これは私の時代の金庫です』

『金庫? これが?』


 金庫の存在はロアも知っていた。しかし実物を見るのはこれが初めてだった。

 どう見ても謎の立方体にしか見えないそれに対して、ロアは訝しげな視線を送る。


『金庫ってことなら、中に金目のものが入ってるんだろ? でもこれ取っ手とか付いてなさそうだぞ』


 金庫の上部や側面に目を向けながら、ロアは抱いた所感を口にした。

 金庫と言われたが、それはどこからどう見てもただの四角い塊にしか見えない。さては見えていない底部分が開閉部なのかと、ひっくり返そうか考えているロアの視界に、またも矢印が出現した。


『その部分に手を触れてください』


 ペロに指示され、ひっくり返すのは断念したロアは、矢印が指し示す箇所に手を置いた。ロアがその部分に手を置き数秒が経つと、唐突に金庫の上部が横にスライドし、中から何かがせり上がってきた。


『うお!? 今度はなんだ!?』


 ついさっきの矢印同様、またペロが何かをしたことを察したロアは、今度は声に出すことなく驚きの反応をしてみせた。


『ふむふむ、なかなか良い物が入っていますね。金庫を見て思いましたが、これの持ち主だった人物はそれなりに裕福だったようです』


 ロアの疑問に答えることなく、一人勝手に出てきた中身を検分するペロ。そんな身勝手な行動を取る相棒に、ロアはまたも非難の言葉を送る。


『おい、自分だけで納得してないで、俺にもちゃんと説明してくれ』

『ああ、すみません。欲しいと考えていた物が手に入ったので、説明するのを忘れてしまいました』

『欲しいもの……?』


 この相棒が何を欲しているのか。それを想像できなかったロアは首を傾げるが、その前に聞くべきことがあった。


『いやいや、 それよりも先にこっちの説明をしてくれ。なんで急に金庫が開いたんだ?』

『ああ、それは私が金庫の認証を破壊して施錠を解除したからですね』


 旧時代の金庫の認証システムは、本人固有の身体情報と魔力波紋により成り立っている。この二つを組み合わせ絶対個人情報とすることで、第三者による解錠を実質不可能としている。しかし本来なら解錠不可能なそれを、ペロは権限の上書きという荒技にて成し遂げていた。

 ペロは自他ともに認める高性能である。そして、同時にかなり高い権限を有した情報個体でもある。国家の中枢部や軍事施設ならともかく、所詮民生品の金庫程度ならどうにでもできた。

 そんなことを掻い摘んでロアに伝えた。


『それ、金庫の意味あるのか……?』

『もちろんあるでしょう。そのおかげで、今日私たちに見つかるまで中身の保存を果たしたのですから。道具冥利に尽きようというものです』


 その凄さをいまいち理解しきれないロアが、金庫としての役割や意義に疑問を抱く。ペロが大して誇示することもせず淡々としていたせいで、余計にその思いは募った。

 しかし金庫の性能などそこまで興味がないので、『まあいいか』と話を終わらせる。肝心の中身についての話題に戻した。


『それで、ペロの欲しいものってどれなんだ?』

『はい。私が欲しかったのは、そちらの小さい箱状のものです』

『これが?』


 ペロが指定したのは、金庫に入っていた中で最も小さい物だった。大きいのが気になっていたロアは、内心で首を捻ってそれに意識を向ける。手のひらに収まる程度の軽い直方体の物を手にして、これが何なのかを尋ねた。


『これって何なんだ?』

『それは再生剤です』

『さいせいざい……?』


 聞きなれない単語が返ってきて、ロアはまたも首を捻った。


『解りやすく言うと、それは薬の一種です。負傷した患部に塗布したり経口摂取することで、傷口を塞ぐ効果があります。軽度の負傷ならば数秒で治ります』

『マジか……! それは凄いな』

『凄いのはそれだけではありません。流石に手足の欠損までは無理ですが、内蔵の損傷に加え、指先や少々の肉が抉れた程度なら問題なく再生させる効果があります』


 想像以上の薬効の高さに、ロアは思わず唖然とした。


『……それは、いくらなんでも凄すぎないか?』

『はい。だから私もこうして手に入れられて幸運に思っています。日々の言動の積み重ねですね』


 ペロの言葉は半分聞き流して、ロアは手の中のそれを呆然と見やった。

 そして、なんだか無性にそれを聞きたくたって、参考までに質問した。


『……なあ、これって、売ったらいくらくらいになると思う?』

『そうですね。私の時代なら当時の基軸通貨で数千から一万ディラルはしましたから、この時代なら最低でも500万ローグの値は付きそうですね』

『ごっ……!?』


 その金額を聞き、ロアは衝撃から言葉が続かなかった。

 それから十秒ほどが経過し、なんとか衝撃が少し抜けて立ち直りかけたロアが、震える声音で問いを発した。


『そ、そんな価値があるのか……?』

『おそらくですがね。正直未だにこの時代の物価を把握しきれていないので推測にしかなりませんが、そのくらいの価値はあると判断しました』

『マジか……』


 ロアは先ほどとはうって変わって、ぞんざいな持ち方から貴重な宝石を持つように手のひらに乗せていた。


「これが500万ローグ……」

『言っときますけど、それを売るのはなしですよ』

「ええ……!?」


 ペロから出された決定に、ロアは驚愕とは違う悲鳴を上げた。


「な、なんでだ……!? 500万だぞ!?」

『それは知ってます。では私の方から聞きますが、それを売ってお金を手に入れて、それでどうするんですか?』

『どうするって、そりゃあ…………装備でも揃えるのか?』


 すぐには思いつかなかったが、なんとかその答えを回答として出した。


『なんで疑問系ですか。それで装備を手に入れて、その次はどうするんですか?』

『どうするって……もっと強いモンスターを狩るに決まってんだろ』

『それがいけません』


 突然のダメ出しにロアは困惑する。当たり前のことを答えたのに何が駄目なのか。

 理解できなかったロアに、ペロは自分の考えを述べる。


『より良い装備を手に入れる。これはいいです。しかし、そのまま強力なモンスターを相手にするのは良くありません。強力ということは、これまで以上に負傷するリスクが高まるということです。そんなときに、あなたはどうやってその負傷から回復するのですか。軽傷なら問題はありません。しかし重症ならば、そのまま死んでしまうかもしれません』

『それなら、弱いモンスターをたくさん狩るとか……』

『だったら高い装備はそれほど必要ありません。今のままでも十分です。それにそもそもとして、相手が強かろうが弱かろうが、負傷する可能性は常にあるのです。百回中九十九回は無傷で勝てる相手でも、そのうちの一回が起きる可能性は確かにあり得るのです。今まで無傷で生き残れたのは運が良かっただけ。そう思うくらいの危機意識をこれからは持たなければいけません』

『……』

『再生剤はそのための保険として必要です。売るなどあり得ません。次いつ手に入るか分からないのですから。今後必要になった際、売却価格の倍額で買う羽目になるのはあなたも嫌でしょう?』


 そう言われればロアも頷くしかない。必要になったからといって、売った物を高い値段で買い戻すような真似は避けたい。だが本音では少々の不満もある。

 今までろくに怪我をしてこなかった自分である。ペロの言い分は最もであるが、現状ではそれの優先度は低いのではないか。負傷のリスクを考慮するなら、怪我をする前提ではなく事前の予防策として、今ある装備を充実させるべきではないか。そう考えていた。

 ただペロの言葉はいつだって自分を第一に考えてくれているので、その部分を根拠として意見を全面的に聞き入れることにした。


『まあ……再生剤に関してはここまでにして、次のを確認しようか』


 そう言ってロアは次のお宝に目を移した。一番小さい物ですら500万もの価値があるのだ。それよりもずっと大きい、金庫の中身の大半を占めてる物に期待しない筈がなかった。


『これは……なんだ? なんかの箱っていうのは判るんだが』

『それは収納ケースです。中身はおそらくなんらかの武器でしょうね』

『おお……!』


 武器と聞いてロアのテンションが一層高まる。再生剤は確かに価値も効果も非常に高い、まさに先史文明の遺物に相応しいお宝だ。しかし、ロアにとって今の自分に必要かと問われれば微妙な物である。有用ではあるが入り用でない。そんな程度の評価だ。だが武器となれば話は異なる。中身がどんな物であれ、金持ちらしき人物の金庫に入っている代物が、今の自分の武装に劣っている筈はない。そんな期待感を持った。

 これまでの人生で、これ以上ないほどワクワクとした気持ちになりながら、ペロの指示に従ってケースを開封した。そしてその中に鎮座する物を見て、ロアは思わず感嘆の声を上げた。


「おおー……これってまさか……銃、か?」


 ケースの中にあったのは、ロアにも既視感のある形をした物だった。知っているそれよりも倍以上は大きく、砲身も長い。その武器をケースから出して、実際に手にとってみる。

 そして少しの間手でいじってみたロアは、その武器に関して違和感を感じた。


『うーん……?』

『どうかしましたか?』

『この銃、どうも弾が入ってないみたいだ。金庫の中にもそれらしき物がないし、これの持ち主はどうするつもりだったのかな』


 ロアが調べてみた結果、銃らしき物には弾を込めるための弾倉機能が無かった。銃っぽい見た目なのに、自分の知っている銃とは違う。その事実に、ロアは頭の上に疑問符を浮かべた。

 この武器を銃だと思っているロアへ、答えを知っているペロが教える。


『これはロアの言う銃とは違いますよ。似ていますが、これの名称は魔力収束砲マナゲインと言います。実弾を込めて撃ち出す銃とは異なり、こちらは魔力を込めてそれを放ちます。威力はロアが今持っている物よりも上でしょうね』


 ロアが今持っている銃とは、ベイブを返り討ちにした際に得た戦利品の一つである。証拠隠滅も兼ねて一応確保していたこの銃を、しかしロアは全くと言っていいほど使っていなかった。一度は威力確認のために使用してみたはものの、魔力強化の有用性からそれ以降出番がなくなり、そのままリュックの底に沈んでいた。

 手持ちの銃よりも威力が上と言われても、それだけではロアにとっては微妙な評価だ。現状銃の出番は全くない。そんな武器より強力だとしても判断に困る情報だった。

 だからどの程度の性能があるのか。更に詳しく聞いてみた。


『具体的に言うなら、これってどれくらいの威力があるんだ?』

『そうですね。武器への負担を最低限にした場合の最高火力であれば、ロアが今まで倒したモンスターをほとんど一撃で倒せると思います。負担を考慮しなければ、機械型でも一撃でバラバラでしょうね』

『マジか……』


 機械型モンスターの硬さはロアもよく知っている。ナイフ時代はもちろん、強化ブレードをメイン武器にした今でも、魔力強化がなければ全く歯が立たない相手だ。そんな硬さに定評のある金属の塊をバラバラにする威力。ロアの抱いていた予想を遥かに超えるものだった。


『それは……とんでもなくないか?』

『あなたの武装と比べればそうですが、そんな大した物でもないですよ。機械型をバラバラと言っても、負担をかければすぐに壊れます。現実的にはその程度の物でしかありません』


 その程度と言われても、これまで戦ったモンスターを一撃で倒せるのだ。それだけでもFランク探索者の自分には十分である。相変わらず、自分とペロの認識の差が激しいと感じるロアだった。


『……じゃあ、これはいくらくらいするんだ? 再生剤なんかと比べたら、やっぱあんまり凄くないのか?』

『うーん……そうですね。そう言われればそうなのですが、違うと言われれば違いますね』


 旧時代において、民間人が戦闘する必要性はほとんどなかった。戦いを生業とする専門の軍隊がおり、外敵から人々を守護するための自律兵器が揃っていたため、モンスターのように日常を脅かす脅威は存在していなかった。個人的な犯罪対処のために、各々が殺傷能力の低い武器を所持するのが精々だった。

 その武器の入手に関しても、防犯上の理由によりかなりの制限が課されていた。個人が武器を手に入れるのは、それなりに困難な状況にあった。対して現代では、保護者のいない子供でも簡単に他者を殺傷できる武器が入手可能である。今と昔でその辺りの価値観や社会情勢が大きく異なっている。

 技術力では旧時代が優れていても、武器の入手のし易さでは現代が勝っている。それはつまり、武器の価格における相対的性能差に平衡性がある状態になる。


『当時を基準に考えるならば、医薬品は効果が高いほど、価格が安いほど良いとされていました。反対に規制の厳しかった武器は、性能が低くても武器というだけで高価でした。しかし、現代ではその価値観はひっくり返っています。武器の流通が当たり前となっている今では、昔に比べて性能の割に相対的な価値は低いです。その辺りを考慮すると……これは数百万ローグくらいの値打ちですかね。再生剤よりも、今と昔で価格の乖離が乏しいと言わざるを得ません』

『そうか……』


 ただの薬に500万の価値があると聞いたせいで金銭感覚が麻痺しそうになったが、数百万は大金である。ロアが現在身につけているものを全て足して、そこにベイブからの戦利品を加えても、やっと20万を超える程度にしかならない。その十倍以上の価値を持つ武器だ。それほどの価値を持つ武器を手に入れ嬉しい筈なのに、それほどロアの気分は高揚しなかった。再生剤の価値について聞く前ならおそらく大はしゃぎしていただろうにと、少々不思議な気分になった。


『まっ、いっか。それよりもこの武器が使えるかの方が大事だ。それでペロ、これってどうやって使うんだ?』

『武器の方にも認証があるので、それを上書きしますね』


 ペロは魔力収束砲の所有者権限を書き換え、それをロアへと変更した。何をしているかよく分からなかったロアであるが、ペロのする事はもうあんまり気にしないようにしていた。


 遺跡から回収された遺物は大まかに分けて、使用者を特に限定しない物とそうではない物の二つが存在する。今回ロアが発見した遺物は、本人認証が組み込まれる物のため後者に該当する。ロアはペロの能力によりその認証を突破したが、普通の探索者はそういった方法を基本的に有していない。高価な遺物を発見しても、使用できずに持て余すことがほとんどだ。ではそんな彼らは一体どうするのか。専門の技術を持つ業者に依頼するのである。

 高性能な遺物ほど厳重なセキュリティが施されている。一度解除行為に失敗しただけで即座に自壊プログラムが発動するモノや、自律稼働して攻撃を仕掛けてくるモノまで存在する。

 そんな遺物のセキュリティを解除するために、遺物の入手者は高い金を払って専門の業者に依頼する。そして、それにはボッタクリと思われるほどの依頼料が取られる。依頼料の高さからそれほど利益が出ないこともあれば、無事に遺物を自分の物にしても総算では赤字になるということもある。中には依頼料の安さを売りにしている業者もいるが、大抵は能力が低いか遺物を持ち逃げする悪徳業者だ。そのため探索者たちは高いと考えながらも、そのような信用度の高い業者に依頼するしかない。

 もちろん業者側にも真っ当な言い分はある。旧時代の高度なセキュリティの解除には、専門性の高い知識と高度な技術を必要とする。失敗がそのまま遺物の喪失を意味する事にもなれば、暴走により高い代償を支払わされる事もあり得る。持ち込んだ探索者と殺し合いになるリスクも内在している。だから能力とリスクに見合った報酬を要求する。

 完全成果報酬を謳う業者もあるが、そういったものは逆に信用されない。探索者が命を懸けて入手した遺物を、業者も命を懸けて解除に臨む。そんなプロ意識こそが、両者の信用を繋ぎ留めている。

 因みに未解除の遺物の買取相場は、解除済みのものの大凡三割くらいとなっている。そこから更に鑑定料の分も引かれるが、確実に利益を出すために厄介な遺物はさっさと手放す探索者も多い。


『ええっと、これでもう使えるってことか』


 他の探索者の苦労など毛頭知らないロアは、所有者権限が自分へと書き換えられた武器を両手で持った。


『それでこれってどうやって使うんだ。魔力を流せばいいのか?』

『はい。それの持ち手部分に魔力の吸畜器が入っています。持ち手は魔力伝導性が高い材質でできていますので、そのまま魔力を流せば内部に溜め込まれます』

『へー』


 ロアは感心しながら魔力を実際に流してみる。そうすると確かにペロに言われた通り、体外に放出した魔力が手元に吸われていく感覚があった。


『面白いなこれ』

『溜め込んだ魔力を解放するには、銃と同じくトリガーを引くだけで構いません。砲口を対象に向けて使用してください。ロアの持つ銃と異なりこちらは無反動なので、その違いには注意してください』


 ペロの指示を受けながら、ロアはすぐそばの瓦礫に照準を合わせて、出力を低めに抑えてトリガーを引いた。引き金を引いた瞬間、青白い光の塊が砲身部分の先から飛び出した。そのまま高速で飛んで、狙い通りの場所に着弾した。

 魔力の塊が当たった場所は衝撃で瓦礫が破壊され、小さな窪みができていた。なかなかの威力に、ロアは内心で舌を巻いた。


『凄いな。大して魔力込めてないのに、俺が持ってる銃と変わらない威力がありそうだぞ』

『今ので大体一割くらいですね。より多くの魔力を込めればもっと強力になります。ただ難点としては、それほど連射が効かないということですね。魔力を貯める手間がかかりますから、多数を相手取るには不向きです。その点は現状銃の方が優れていますね。ケースバイケースです』

『そうなのか。ところでこれって、俺が買った魔道具みたいに別に何か必要としないのか?』


 ロアが買った魔道具には、本体の他に付属品が付いていた。一つは魔道具の補助動力として使う劣化吸畜器である。魔力収束砲に付いているものとは違い、こちらは専用機器を使わなければ魔力を中に溜めることはできない。だから定期的に魔道具店で買い換える必要がある。もう一つは魔術の変換源が詰まった容れ物だ。魔術の効率的な発動を助けるものであり、これがなくても魔術自体は発動するが、その分出力は大きく下がることになる。

 ロアはこの二つような付属品が魔力収束砲にもあるのかどうか心配した。仮にあった場合、金がかかるのはもちろんのこと、遺物のそれである分入手が困難になるかもしれないと思ったからだ。しかしその心配は杞憂だった。


『それは魔力を高効率で変換しているので、特にそういったものは必要ありませんよ。吸畜器自体も高性能ですから』

『そうなのか。さすが遺物だな。なら魔力だけで問題なく使えるってことでいいか?』


 その質問にもペロは肯定した。それを聞き、ロアは今度こそ安心してはにかんだ。

 それから、魔力収束砲の試し撃ちの相手を探すためにその場から移動した。

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