第3話 初めての共同作業

『私が待機……いえ、封印状態でいた間に世界がそのようなことになっていたとは。これが千年の眠りも覚めるというものなのでしょうか』


 自分を生み出した文明が千年以上も前に滅びていたことを理解したペロに、ロアはこの時代について色々教えることにした。遺跡やモンスターに関する内容がその筆頭である。己の知る世界が時代に埋もれた過去の遺物と化したことを知ったペロの驚きと反応は、説明したロアを大変に疲れさせた。

 そんなロアの努力の甲斐があったか、ペロは当初の落ち着きを取り戻していた。


『しかしクヨクヨしていても仕方ありませんね。この時代に存在するモンスターが魔物が変異したものであるならば、それを殲滅することが私の使命です。ロアの支援を含めて私がやるべきことは千年経っても変わりません』

「それなら良かった。俺としては『自分の文明は滅んでいるから戦う理由がない』なんて言われることも覚悟してたからな」

『そんな薄情なことは言いませんよ。私をなんだと思っているんですか。それよりも考慮すべき重要な問題があります』

「重要な問題?」


 ペロの発言にロアは首を傾げる。


『そうです。それはロアの武装が貧弱すぎるということです。こんなんじゃすぐに魔物……ではなくモンスターに殺されてしまいます。そもそもロアがどうやってモンスターと戦っているのか不思議でなりません』

「仕方ないだろ。ここに来るまでに銃は壊れちゃったし、唯一持ってた魔術符も使っちゃったんだから。後はもうナイフしかないんだよ。そのナイフもここに来るまでの戦闘でヒビ入ってるし」

『銃と魔術符ですか。これはまた興味深いですが今は置いておきましょう。それよりヒビの入ったナイフ一本でどうするというんですか。予備を持っていたりしないんですか?』

「予備まで買うお金が無かったんだよ。じゃなきゃこんなところまで遺跡探索に来ないからな」

『私の寝所をこんなところ呼ばわりするのはやめてもらえませんか。それにしても困りましたね。例え千年前……私が知る時代であっても、人里から離れた状態でどうしようもありません。お金以前の問題です。本当にどうしましょうか』


 ペロが心底困ったという雰囲気で言うので、ロアも自分なりに考えていた案を出す。


「普通にモンスターをやり過ごすっていうのはダメなのか? 途中でナイフ一本になったから、そうやってここまでたどり着いたんだけど」

『魔物、ではなくモンスターをやり過ごすですか。それができたら苦労は……あれ? そういえばロアって体内の魔力少ない……いえ、少なすぎではありませんか? え、こんな人類存在するんですね。驚きました」


 ペロの何気ない言葉にロアはムッとする。


「……生まれつきなんだよ、魔力が少ないのは」

『あー、傷つけたのならごめんなさい。私も悪気があった訳ではないので許してください』

「……別に言われ慣れてるからいい」


 そう言いつつも明らかに拗ねて気落ちしているロアを見て、ペロはなんとか話題を変えようとした。


『とにかくですね! 私たちが生き残るために魔物をやり過ごすというのはいい案だと思います! モンスターが魔物が変異した生物であるなら獲物の魔力を感知しますからね! ロアなら問題ないと思いますよ!」


 ペロは慰めたつもりだったが、それを聞いてもロアはブスッとしたままだった。

 微妙な雰囲気のまま、二人は地下から脱出することになった。




『頑張ってくださいロア! そこです! そこを掴んでください! そうです! いいですよその調子です! あと少しです! 気合を入れて!』

「ペロ……! ぐっ……気が散るから……っ……静かにしてくれ!!」


 懸命に窪みや出っ張りに手足をかけて壁をよじ登るロア。それを特にできることがないペロがロアにだけ聞こえる声で応援する。しかし、その声援は当人にはうるさいと一蹴されてしまう。そのためペロは少しだけ音量を下げて応援を続けるが、ロアにはもうそれに反応する余裕はなく、歯を食いしばりながら必死になって手足を動かしていた。

 そしてついに穴の天辺に手をかけると、最後の力を振り絞って体を持ち上げる。なんとか穴から脱出することに成功した。

 地面に体を投げ出したロアは疲れ切った身体に空気を取り込むため荒い呼吸を繰り返す。そのロアへ、声援をやめたペロが労いの言葉をかける。


『お疲れ様です。ロアの身体能力であの穴を抜け出せるかは正直ギリギリだったとは思いますが、よく登り切りました。さすが私の相棒です』

「ハァ……それは……っ……ハァ……どうも……っ」


 息を切らしながら答えるロアへ、『まあ、半分くらいは私の応援のおかげですけどね』と戯けてみせるペロ。突っ込む気力も湧かないロアは、呆れたまま息を整えることに集中した。

 鼓動が徐々に平常の状態に戻り、肉体への負担が軽くなっていく。体力の回復を実感したロアは、まだ多少呼吸が乱れていることにも構わず、身体を起こして周囲を見回した。


「……当然といえば当然なんだが、穴に落ちたときと変わってないな」


 口からは自然とそんな感想がこぼれる。

 つい昨日この穴に落ちて、穴の下で先史文明時代の遺物を発見した。そう思ったら全くの期待はずれであり、そのまま気を落として寝落ちした。そして次に目を覚ましたら、なぜか頭の中には変なのが住み着いていた。

 その変なのは自分を先史文明生まれであることを自称しており、現在まで、と言っても大して時間は経っていないが、相棒として地下何メートルかの穴から這い上がる体験を共にした。

 ロアにとって、昨日まではいつ死ぬか分からず、明日の生活すらも不透明な灰色の日々だった。しかしこの穴に落ち、這い上がるまでの短い冒険は、自身の人生が再び色付いた時間であり、同時に未来への生きる希望と活力を齎すものだった。

 そんなプレゼントを用意してくれた頭の中の相棒へ、ロアは胸の内で短く感謝の言葉を述べた。


『礼を言うのはまだ早いですよ。むしろここからが私たちにとっての始まりです。ここから私たちペロロアの伝説が始まるのです! それと私は別にロアの頭の中にいるわけではないですかね。そこは勘違いしないでください』

「……どこから突っ込んだらいいか分かんねぇよ」


 一体何がどこまで相手に伝わっているのか。それを確かめるのもうんざりといった様子で、ロアは呆れた様子で苦笑した。




 体力が全快時の八割ほど回復したところで、ロアはいよいよ次の行動へ移すことにした。


「とはいえどうしたらいいんだか……。こんな状態でモンスターと遭遇したら間違いなく殺されるぞ」


 今一度自分が所有している武器を確認してみる。が、手元にはヒビの入ったナイフが一本あるだけ。増えても減ってもいない。状況の悪さに思わず嘆息した。


「どうにかならんか、ペロ?」

『どうにかと言われましても、敵の詳細な脅威度は依然不明なままですからね。けれどもまともな装備も持ち合わせていないロアを仕留め切ることもできない程度の殺傷能力しか持たない相手ならば、どうとでもなると思いますよ』

「……頼もしいことこの上ないよ」


 ここに来るまでに失った装備は、ロアの全財産を叩いて用意できる最高のものだった。それを身に付けた自分と、そんな自分と相対したモンスター。その両方を取るに足らないものとペロは評した。

 そこに不服を覚えないわけではなかったが、高度な文明を築いたとされる昔の人類が生み出した産物であるペロが言うならばと、不満は飲み下した。

 同時に、ペロがいるなら自分はどれだけ強くなれるのか。そんな期待と高揚も胸中には内在していた。


『大船に乗ったつもりで期待していてください』


 頭の中で、自信ありげな相棒の声が響いた。




「それで、どうするつもりなんだ?」


 ロアは歩く途中、これからのことが気になり質問する。ペロの特異性は理解しているつもりであるし、そのペロが大丈夫と言うならば問題ないのだろうが、それでも知らないことは不安になる。打開策があるならちゃんと聞いておきたかった。


『そうですね。とりあえずロアの勘違いを正すところから説明しましょうか』

「俺の勘違い?」


 不思議そうにするロアに、『はい』と返事を以ってペロは首肯する。


『紋章魔術に関する知識です。ロアはこれに関して魔力が無くても普通に使えると、そう思ってはいませんか?』

「……違うのか?」

『いいえ、言葉の真偽を問うだけならば正しいです。ただ正確な内容とは言えません。正しくは本来消費されるはずの魔力の代わりに、別の代償が求められる。だから魔力が無くても使える。これが正しい紋章魔術の概要です』


 代償。その言葉が不穏な意味を持つことを理解して、ロアは引き攣るような顔を作った。


「やっぱり命とかなのか……?」

『ロアにしては察しがいいですね。しかし正確には違います。必要とされるのはアルマーナに対するレイネスです』

「あるまーな? れいねす?」


 聞きなれない単語を耳にして、ロアは聞き返すように繰り返した。


『アルマーナとはつまりは魔力のことです。生命体の精神幽層体から創出される力を私達はそう呼んでいます。レイネスはそれに対する肉体のことです。つまり魔力の代わりに肉体を消費することで、紋章魔術は発動できるというわけです』

「……肉体を消費するって、具体的にどうなるんだ?」


 恐る恐る聞くロアへ、ペロは口調を変えず淡々と答えた。


『端的に言って死にます。この機能はあくまで命を賭して対象の撃滅を目的とした場合に、使用者の任意に応じて解放される決戦用のものです。ただ肉体の消費度合いに関しては場合によりけりです。身体が丸ごと消失することもあれば、生存が十分見込める段階で戦闘を終えられる可能性もあります。ですがこの機能が使われる状況というのは、大抵は生存が絶望視されるレベルの強敵相手に限られます。そのため使用者のほとんどは死亡します。誰も好き好んで寿命を削りながら戦いたいわけではないからです』


 ペロからの丁寧な説明を聞きロアは黙りこくる。使えば早々死ぬかもしれない時点で、既に紋章魔術への関心は失せている。そんなものが自分の手元に転がり込まず、幸運だったとすら思っている。

 ロアは紋章魔術が自分にとって、呪いの装備であることを理解した。


「……それについては分かったが、結局どうするんだ? 有ろうと無かろうとどの道使えないなら、この話は意味ないわけだし。これを今話した理由はなんだったんだ?」

『いえ、有れば紋章魔術は使えますよ』

「はあ?」


 その発言に、ロアの口からは思わず素っ頓狂な声が漏れ出た。


「いや、使ったら死ぬなら使えないだろ。それとも俺に命削りながら戦えっていうのか? そうしなきゃ死ぬって場合以外、そういうのは断るからな」

『言いませんよそんなこと。私をなんだと思ってるんですか。私が言いたいのは魔力があるから使えるということです。紋章魔術の話はここに繋がります』


 またしても間抜けな声を上げそうになるが、ペロの平静な声を聞いてなんとか堪えた。だが話の繋がりが全く見えなかった。


「でも、ペロはさっき俺に魔力が無いって言っただろ? 俺だってそれは自分のことだからよく知ってる。なのに魔力があるってどういうことだよ?」

『そのままの意味です。論より証拠です。ロア、拡錬石を手に持ってください」


 いきなりの指示に、訝しさを表情に出しつつも、ロアは言われた通り手の平の上に拡錬石を乗せた。

 これからどうするのか。それを聞こうとしたところで、前兆もなく手の平の上にあった拡錬石が消失した。

 突然起こった事態に目を見開いて驚愕するロアは、慌ててペロに問いかけた。


「おい! 急に拡錬石が消えたぞ!? 何が起きたんだ!?」


 焦りを感じさせるロアの物言いとは対照的に、ペロの声音は落ち着いていた。


『落ち着いてください。消えたのではなく取り込んだのです』

「と、取り込んだ……? ってどういうことだよ!? ヤバくないかそれ!?」

『ヤバくないです。これはロアを支援するための私が持つ機能の一つです。先ほどまであった拡錬石を魔力に変換して吸収しました。これでロアも魔力を扱うことができます』

「……マジか」


 聞き間違いでなければ、ペロが口にした内容はとんでもないものであった。少なくともロアの常識では簡単に信じられるものではなかった。しかし、ペロという存在の異質さは短い時間でもよく理解できている。その話が疑う必要のないものであると、すぐに自分を納得させることができた。


「なら俺は……って、結局肝心の紋章魔術が無いんだから、やっぱり意味なくないか?」

『そんなことはありません。始めに言ったでしょう。私は戦闘用のサポート擬似人格であると。だから私がロアに戦うための術を教えます。そしてロアは強くなれます』


 そこに不安を覚えないわけではなかったが、これ以上の疑問の言葉は飲み下した。

 そんなロアに、自信を込めてペロは宣言する。


『とにかく習うより慣れて、考えるより実戦です。初陣と行きましょうか』




 再び眼前に広がる鬱蒼とした森。行きの途中で己の攻撃手段をほとんど使い果たし、その後は運良く抜け出すことができた危険地帯。そこに、今度はほとんど丸腰の状態で足を踏み入れようとしている。

 今ある手持ちの武器は、ヒビが入った安物のナイフが一本のみ。思い返せば、自身の計画性の無さと無鉄砲さにロアは自嘲する。よくもまあ、こんな無計画で生き残れたものだと。しかしその見返りは、リスクを考慮しても十分を遥かに超えたものであった。

 先史文明時代に生み出された、高度な技術が詰められた遺物。

 その異次元の存在たるペロが、無力な一般人に等しい程度の実力しか持たない自分に告げた、強くなれるという言葉。それに対する期待と高揚は、なんら武力を持たないにも関わらず、ロアの足取りを軽いものにさせていた。


「それでどうするんだ? 今すぐモンスターと戦っても勝てるもんなのか?」

『はい。多少はロアに負担を強いると思いますが、充分な勝算が見込めると思います』


 負担という単語が、ロアの浮ついていた気持ちを落ち着かせる。これから行うのは命のやり取り、実戦だ。既に何度かこなしてはいるものの、その何れにおいても死の危険は纏わりついていた。

 ペロの有無にかかわらず、戦うのは結局自分自身である。ならば油断や余裕など、弱者である自分が持てる筈がない。それを改めて自覚した。


『どうやら手頃な相手が見つかりましたね。これを狩りましょうか』


 ロアが己の覚悟を正している間に、ペロが標的を発見した。促されるようにして木々の奥に視線を通せば、確かにモンスターが一体だけで行動する姿が見えた。

 思考に意識を割いていたとしても、視界に映る最低限の警戒だけはしていたつもりだったロアは、ペロの持つ索敵能力に舌を巻いた。同時にどうやって視覚外の相手を発見することができたのか、不思議に思った。


「なあ、ペロって俺の見てるものしか見れないんだろ。だったらなんで俺に見えてないものが見えてるんだ?」

『それはロアに見えていない世界が私には見えているからです。とりあえず私の認識情報をあなたと同期しましょうか』


 ペロがそう言った途端、ロアの頭の中に急激に情報が溢れ出した。


「な、なんだこれ? これヤバイやつじゃないのか?」

『全然ヤバくないやつです。これが私の支援能力の一つ、空間把握能力の拡張です。周囲の様態をより詳細に、鮮明に、リアルタイムで取り入れます。本来は範囲や精度の向上など、元からある能力の更なる強化と補助が趣旨ですが、ロアはそもそもこの手の技能はてんで駄目なので、今は私が一括で負担しています』


 頭に入り込んでくるのは葉、枝、幹といった視界に映るものから、地面の下の根や小石に小動物といった視界の外に存在するモノまで様々だった。更には空中を滞留する気体や粒子など、生来の感覚器官では決して捉えることの出来ないモノまでも見ることができている。その奇妙な感覚に言い知れぬ不安をロアは抱くが、ペロの言うことをひたすら信じることにして、その感覚からは目を逸らした。

 ロアが入ってくる情報を処理していると、ここから離れた場所に、他とは違う大きな存在感があるのを感じ取れた。


「……これがあのモンスターか。だからペロには木の裏からでも見えていたのか。それでどうするんだ? ペロのおかげで視覚? が広かったのは分かったけど、これじゃアイツは倒せないよな?」

『そうですね。視覚から死角が無くなった。これで勝てる。って突撃できるほど、ロアは強くないですからね』

「……そうだな」

『ですが心配には及びません。索敵から戦闘まで一手にこなせる、一人に一人欲しいペロさんですから』




 この近辺を徘徊するそのモンスターは、自身が襲うべき獲物を探していた。それ以外に思考する術を持たなかった。本能の発する衝動を満たすモノを当て所なく探し続けていた。

 そしてついに、襲うべき獲物は現れた。

 牙を向ける相手は、粗末なナイフを構える小さい人間だった。堂々と言うには及び腰であるが、戦う覚悟は決まっているようであり、一歩すら引く気はなさそうだった。

 だがモンスターにとって、襲う獲物の状態など関係ない。襲って殺してそれで終わり。考える知能も見定める思考も有していない。

 四つの足で大地を蹴る。自らが持つ最大の武器を、見せびらかすように大口を開ける。獲物を引き裂く牙が口内で煌く。そして、あと一歩の距離でそれを閉じる。それで終わりである。終わる筈であった。

 モンスターは狙い通りに口を閉じた。口内に獲物を食らっている筈だった。

 気づけばモンスターの視界はとても低いところにあった。その視界には、首のない自分の胴体と、獲物であった人間の姿が映っていた。否、果たして獲物はどちらだったのか。それすら自覚することはなかった。

 最期まで自分の死に気づくこともなく、そのモンスターは命の灯火を消した。




「フッー……フッー……」


 緊張と危機で騒つく気持ちを必死に落ち着かせようと、ロアは不自然な深呼吸を繰り返す。目の前の現実と、自身の為した結果を受け入れようと、懸命に頭を働かせようとする。だがそれは、ロアの常識において容易に受け入れられるものではなかった。

 未だ興奮の治らないロアに構わず、気軽い調子でペロが声をかけた。


『お疲れ様でした。ファーストミッション、初めての共同作業。無事完了ですね』

「……そうだな」

『こんなのでいちいち瞠目していたら、世の中渡って行けませんよ。それにそもそも、あなたに協力しているのが誰だと思っているんですか』


 ペロの発言に、ロアはようやく少しだけ落ち着きを取り戻した。


「……頭の中で喋る不思議存在に比べたら、この程度の戦闘くらいなんてことないよな」

『それは不思議ではなく高度なだけです。ロアの残念な頭では両者を混同してしまうのも無理ありませんが、私の名誉のために敢えて訂正させて頂きます』


 憎まれ口を叩くペロをスルーして、ロアは頭部の無いモンスター繁々と見つめた。


「……これ、俺がやったんだよな」

『私が協力してロアがやりました。その通りです』

「……俺でもまともに戦えるんだな」

『私のサポートの賜物ですけどね。私の分の手柄はロアに付けてあげますよ』


 ロアは自分の手のひらを見つめて、勝利の実感を得るように何度も開閉した。そして「よし」と呟くと、今しがたモンスターの首を切断したナイフで拡錬石の取り出しにかかった。


『魔力操作の基本の肉体強化です。これがあるから、人は自分たちより強大な魔物に立ち向かえるわけですね。まあ私がいれば、更にその応用の武器強化も出来るわけで』

「あ」


 ペロの言葉を話半分に聞きながら、ロアはいつもの要領で解体を始めた。しかしヒビの入った安物のナイフでは、その作業に耐えられる筈もない。刃は無残に砕け散った。


『武器強化には専用素材の武具を用意しなければ、とても不可に耐えられませんからね。ただでさえ耐久度に難があったのです。これは自明の理というものです』

「いや、仕方ないからいいんだけど……」


 どうしようかとため息を吐くロア。それにペロはお気楽に返す。

 初めての二人の成果であったが、なんとも締まらない様子で幕を閉じた。

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