アイドルに転生したわたしは無事に陰キャになったが、クラスの委員長に救われた話

二葉ベス

第1章:陰キャ→委員長→入学

第1話:転生して2秒で即アイドルデビュー

 目の前が真っ白だった。

 え、なにこれ。すっごい眩しいんですけど!

 思わず右手で顔を覆うが、すると声がする。


「あー、ダメだよー美鈴ちゃーん! もっと顔見せて!」


 はえ? マヌケな声が1つ。

 眩しさはカメラのフラッシュ。目が慣れれば照明の光がわたしに振り注いでいることが分かった。

 分かったけど、なにこれ。何度だっていう。なんだこれ?!

 よく見れば左手にはレモンを持ってるし、服だって"わたしが今まで着たことのない"フリフリしたやつだ。

 まるでアイドルが着そうなやつ。かわいくてかわいくて。それはもうみんなの憧れになっちゃったー、という夢のような今だ。


「え。夢?」

「はーい、笑ってー」


 目の前には男の人が1人。大きなカメラを持って、こちらにレンズを向けている。

 左右にも人がいる。大人の人だ。すごい圧を感じるし、脇の方でひそひそと何かを話している女性が2人いた。

 なんぞ? まるで好きな写真を切り取って別の写真に貼り付けたような違和感。

 わたし、コラージュになった覚えはないんだけど。それともシールか? シールでももうちょっとうまく貼れよ! と謎のツッコミを叩きつける。


「美鈴ちゃん、今日は休む?」

「…………」

「美鈴ちゃん?」

「……へ、わたし?」

「あなた以外に誰がいるの」


 美鈴。美鈴って誰? わたしの名前ってそんなんじゃなかったよ?

 もっとありふれていてー、日本人っぽくてー、こんなキュートでフリフリの名前じゃない。

 はて。何が起こったの?


 困惑のまま肩からタオルを掛けられて、撮影所と思われるところから、廊下へと入っていく。

 これ見たことある。なおテレビや映画でだけで。

 有名人が通る楽屋裏ってやつだ。


 あれ。わたし、ただの女子大学生でしたよ? 友達はいないし、話す相手だって特にない。机の上で人と関わらないように突っ伏していたような女の子だった。

 何がどう変わって、この夢みたいな世界にいるんだろう。いや夢なのか。そうかそうか。夢じゃなかったら、こんなフリフリのアイドル衣装は着ないか、ははは。


「はぁ……」


 それから十数秒後のこと。鏡で自分の顔を見て絶望した。


「誰やねんこいつ」


 かわいいんですけど。ですけどー!

 首を振ったら毛先の丸まった桃色のミディアムヘアがふわりと舞って、なんかそういうキラキラとした粒子が飛び出しそうなぐらいきゃわわたんだ。

 目もくりりっとしてるし。現実のわたしは隈がすごくて、目つきが殺人犯してそうな人だったよ?

 さらに体つきが小さい。だいたい148cmぐらいかな。でもちんまりさが逆にグッド。庇護欲を刺激されるとはまさにこのこと。


 総じて言おう。なんだこの愛され体型。まるでアイドルじゃん。かわよ。え、なに? かわよくない? 動きに合わせて手足や顔がちゃんと動く。すごいなー、これが最新のVRか。それとも夢かな。

 どちらにせよ、自分ではないな、これ。

 背中に背を向けてため息を付いた、その時だった。


『ごめいとー! キミはキミではなくなっているのだー!』

「うひゃあああ!!! なに?!」


 鏡越しに背中からヌッと生えてきたのは金髪の美少女天使。

 出方がとんでもなくホラーだったから、思わず振り返って後頭部が鏡に激突してしまった。痛い。


「だ、誰?!」

『誰って、失敬だなー。カミサマは神様だよー』

「だから誰?!」


 いきなり「わたしは神様です」なんて言われたら、そりゃ誰だって「誰?!」って物申したくなる。お気づきあそばせ。


『アハハ! 反応オモシロ! やっぱ憑依転生させて大正解だよー』

「……えっと。本気でどちら様で?」

『だから、カミサマは神様だよ』


 痛みが残る頭で必死に思考を巡らせても、こんなちんちくりんでかわいらしいロリっ子に見覚えはない。こんな子が知り合いだったら、普通に気になっちゃうし。

 ……って、ちょっと待って。今なんて言った?


「ひ、憑依転生って、なんのこと?!」

『気づいてなかったの? オモシロ! 自分の身体、変だと思わなかったの?』

「いや、誰だって自分の身体じゃないのに、自分みたいに動いてたら変だって思うよ!」

『まぁ、キミだしね』

「はい?」


 キミだしね? キミって、わたしだよね。後ろに誰かいない?

 振り返ってみた。鏡があって、わたしを映し出していた。


 ――は?


「はぁ?!」

『おめでとう! キミはキミが好きなゲームに転生したのです! 転生先は相沢美鈴ちゃんって言うかわいいアイドルっ子ね』

「いやいやいやいや! 信じられるわけないじゃん! 確かに好きなゲームにそっくりそのまんまの名前の子はいるし、よく見たらその子みたいだなーなんて思ってたけど、夢にしては出来すぎだって!」

『夢じゃないよ。だってキミ、1回死んじゃってるし』

「は?」


 突然、蘇る生前の記憶!


『はぁだる。ゴミ出し行かなきゃ』

『ふあぁ……朝の太陽がまぶしい』

『あ、あぶねぇ!』


 ゴミ収集車のタイヤに巻き込まれるわたし!

 そのままボロ雑巾みたいな肉の塊になってしまったわたし!!

 その姿は流石にモザイクがかかってた。記憶にもモザイク処理って入るんだ。じゃなくて!


「痛い痛い痛い痛い! あれって即死じゃないの?!」

『即死だよー。それはもうぽっくりと魂が上に飛んでっちゃった』

「天国行きってこと?!」

『そんなキミをキャッチして、どうせだったら転生しちゃおうってことでリリースしたよ!』


 確かに記憶の中ではひき肉になっている自分がラストだったけど、数秒置いてあの眩しい撮影所だ。……であるなら。


「マジで?」

『マジマジ。神様だからね』


 サムズアップしているカミサマを尻目にわたしはガッツポーズしていた。

 わたし、あの鬱屈した現実から転生したんだ! 陰キャ生活からの卒業! ようこそ友達いっぱいの世界!


「ありがとう、神様! 何教?! わたし、信者になる!」

『アハハ、どーもどーも。無宗教だよ』

「じゃあ日本人らしく無宗教になるね!」


 わぁ、待ちに待っていた陽キャの世界。友達何人? 1000人かなぁ? やっぱりSNSにはひっきりなしのメッセージが来て、わたしを飽きさせないんだ!


「おいおい、勘弁してよね。みたいな!」

『独り言を盛大につぶやいている中、失礼するけどその願いは叶いそうにないかな』

「え?」

『だって、初手で失敗しちゃったし』

「へ?」


 目を離した瞬間ふっと消えたカミサマの代わりに、ガチャリと楽屋のドアが開いたと思えば、深刻な顔の女性が1人立っていた。


「美鈴ちゃん、帰りましょう」

「え、うん……」


 ……え、なにやったのわたし?!

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