第7話 第一幕を改善しよう!〈プロットづくり②〉

 みなさま進捗どうですか?

 私は芳しくありません。


 というわけでみなさまお疲れ様です。電気石八生と申します。

 前回の最後に申しました通り、今回は詳細アウトラインへ進む前の整え回。三幕構成の内の第一幕めに焦点を絞り、調整していきますよー。


 それこそ幾多の創作術が「数ヶ月をかけるべき」と説くプロット、時短で仕上げるのは相当な困難ですけれども、ネタを整理しながら強固な物語線を描き出せるようがんばって参りましょう。

 ……あ、今回は結構長くなります。申し訳ありません。



 まずはこれが手を入れていない第一幕のプロットですね。


〈一幕:江戸ホストの設定紹介とそれを始めた当初のドラマ〉

【オープニングイメージ】

●藩お抱え力士の鷹羽は大切な若君を失い、藩の屋敷の庭で後追い自殺を企てる。

【テーマの提示】

●それを藩主に止められたあげく士分剥奪され、すべてを失った状態で江戸へ流れつく。

【セットアップ】

●思いがけず命を救った女(はな)に促され、ただひとつ残された男ぶりを売ることに。

【きっかけ】

●はなに高額で店を借しつけられ、茶や酒を売るが、高額で客がつかずに困る。

●若君と出会う前の自分を思い出させる御郎と出遭い、仲間とすることでやる気を出す。

【悩みのとき】

●様々な宣伝を試みる中、路頭に迷った男っぽさとは真逆な元女形(菖蒲)が仲間に。

●でも店は流行らず、鷹羽は鼠窮の提案で土俵入りを演じ、微妙な起死回生を果たす。

●店は小金を得るが、はなの指定した店賃にはまるで届かない。三人は焦る。

【第一ターニングポイント】

●きぬの提案で三人はパフォーマンス。それが話題となって他のふたりにも客がつく。

●江戸ホストクラブ、『徒花屋あだばなや』が本格始動。手探りながら確かな一歩を踏み出す。


 書き手的にはまず2場面使って盛り下げて、鷹羽が商売を始めるところを盛り上げる。そこから盛り下げどころと盛り上げどころを波状に配して読者さんを引きつけ、鷹羽の土俵入りで一発かましてカタルシスを演出。それを追いかけて御郎と菖蒲がちょっと覚醒して、江戸ホストクラブ『徒花屋』が始動する一幕の落着を――と意図したものです。

 これについては投稿サイト、それこそカクヨムさんでの連載形式を見据え、場面ごとに見せ場を作っておくべきだろうと考えた結果でもあるわけですが。


 ここで岡田くんから指摘が入りました。


【編集者岡田のプロット指摘】

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プロットはストーリーの因果関係を明確にし、作品の骨格を作っていくものです。

その骨格の要素だけでも、作品のボリューム感が見えてきます。

八生さんのプロットは、この第一幕から要素が盛り盛りになっています。『ベストセラー・コード』では、よくある失敗パターンとして「序盤からトピックを入れ込みすぎる」というものが挙げられています。


このプロットでは、「自決しきれなかった鷹羽が江戸に流れ着き、はなという謎の女性の手引きで店を任され、『江戸ホスト』として生きていく道を見出す」までが描かれます。しかしその中のトピックが多く、プロット上で起こる出来事も、上下が複雑です。


登場人物も多く、鷹羽という主人公と、サブ主人公である御郎が描ききれないうちに、物事が進んでいってしまう印象です。


ここで描くべきは以下のようになります。

●鷹羽の境遇と心境。「死にきれなかった」→「生きる理由ができた」というような物語のモチベーションの設定

●はな(ヒロイン)と御郎(サブ主人公)との出会いと関係性

●「江戸ホスト」のケレン味と方向性

これを踏まえて、第一幕の変更案を考えていきましょう。

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 ――大きく言えば「詰め込み過ぎ」。

 詳細プロット的には場面の内にそうした休みどころも入れてはあるのですが、岡田くんが上で記してくれた創作術的『プロットの波』からして、性急に過ぎるということですね。


 なので、とりあえずいくつか場面を削って隙間を作りました。


【オープニングイメージ】

●藩お抱え力士の鷹羽は大切な若君を失い、藩の屋敷の庭で後追い自殺を企てる。

【テーマの提示】

●それを藩主に止められたあげく士分剥奪され、すべてを失った状態で江戸へ流れつく。

【セットアップ】

●思いがけず命を救った女(はな)に促され、ただひとつ残された男ぶりを売ることに。

<岡田>ここのはなを助けるシーンは、序盤の盛り上がり(鷹羽が男を見せる)として、しっかり描きたいです。どんなことがあるのか、プロットにしっかり入れましょう。


●はなに高額で店を借しつけられ、茶や酒を売るが、高額で客がつかずに困る。

●若君と出会う前の自分を思い出させる御郎と出遭い、仲間とすることでやる気を出す。

<岡田>店を始める部分、御郎との出会いについて、因果関係がはっきりしません。シーンとして分解し、出来事を明確に書きましょう。例えば、以下のように、

 ★目的もなく江戸をふらつく鷹羽は火事に遭遇する。命をなげうって建物に飛び込み、はなという女性を助ける。

 ★助けたのに喜ばないはな。彼女もまた、自分と同じ「死にきれなかった人間」だと知る。

 ★はなとの「契約」で、鷹羽は水茶屋を任されることに。断ることは許されず、鷹羽は高い店賃を課せられつつも経営を始める(カセ)

 ★御郎との出会いのシーンについて詳細を


【悩みのとき】

●様々な宣伝を試みる中、路頭に迷った男っぽさとは真逆な元女形(菖蒲)が仲間に。

<岡田>第一幕では菖蒲を入れる余裕はないかもしれません。鷹羽と御郎の関係と、はなの介入をメインにしたいです。


【ターニングポイント】

●鷹羽が土俵入りを演じて話題を呼び、江戸ホストクラブ『徒花屋』は本格始動する。

<岡田>これを第一幕のターニングポイントにもってくるのは賛成です。



 上記の<岡田>は、3場面をカットしたプロットへ、さらに岡田くんが入れてくれた指摘になります。そして★は「これが入っているべき」というプロット要素。実際のやりとりでは文字色を変えて、ひと目でわかるようになっていますよ。

 本連載のテーマである「すごい創作術を用いて受賞できる作品を作る」ための指摘なわけですが、それを抜きにしても、プロットを見た編集さんはこのように構成の穴を見て取り、よりよい形になるよう助言してくれるということですね。


 ともあれプロット段階でもらった指摘をクリアするには、隙間を空けて場面を詰め直すだけでは足りません。いくつかの指摘については、別途詳細アウトラインに詰めてあるのですが、引っぱり出してこないといけないのでしょうか。


【編集者岡田のプロット指摘】

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恋愛のサブプロットに関わるちよを出してくるのは良いと思います。はなが謎めいている分、ちよがいれば恋愛面を動かせそうです。ただし、ちよが大きく関わってくるのは第二幕になってからでしょう。


第一幕は「メインキャラの登場と関わり」を明確に描くべきです。はなと御郎がどのように登場し、なぜ鷹羽と関わることになるのかは、プロット上で明確にしておきましょう。これが因果関係の提示になります。

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 との指摘もありますので、思い切ってひとつ、ごりっと改変してしまうことにしましょう。

 さらに「40字以内縛り」を緩めさせていただいて、岡田くんメモを踏まえて仕立て直していきますよ!



〈第一幕プロット二稿〉

【オープニングイメージ】

●藩お抱え力士の鷹羽はなにより大切な存在である若君を失い、藩の屋敷の庭で後追い自殺を企てる。

【テーマの提示】

●それを藩主に止められ、士分剥奪されたあげくに生き続けることを強いられる(彼にとってそれは呪いに等しいものとなる)。

【セットアップ】

●すべてを失った状態で江戸へ流れついた鷹羽。力士としての自分の錦絵(ディフォルメされた絵なので、周囲の人々は彼の正体にまるで気づかない)の横に飾られた水茶屋の看板娘の錦絵を見、水茶屋へ行ってみることに。

【きっかけ】

●看板娘を眺めている中、火事を見つける鷹羽。火に包まれた料亭へ駆けつけた彼は、内に残された人を助けに飛び込み、悠然と酒を飲むはなと出遭う。自分が望んでやまない死をたかが死と嗤う彼女に憤りを感じ、死なせてなどやらぬと奮起。焼け落ちた梁を両肩で受け止め、大やけどを負いながらもはなの酒宴を守りぬく。

  →ここでは彼の変化を明確にしていくため、男気よりも子供っぽさを見せたいところ。

●鷹羽は、命を救ったはなの家の客として受け入れられる(医者として来た鼠窮、助手役のきぬと出会うが、この時点で正体は語られない)。が、生き続けなければならないのに進むべき道は見えず、懊悩する。

●はなとの暮らしの中で、彼女が死というものに見放されたものだと知り、興味を抱くように。その中で自分の世話役についた女中・ちよとも交流を持ち、弱さを指摘されると共に尻を叩かれて、とにかく生きる道を探し始める。

【悩みのとき】

●はなや鼠窮の支援の申し出を断り、元力士の身分を隠して口入れ屋に通い出すが、怪我のこともあってできそうな力仕事は見つからない(自分が失う以前になにも持っていないことを自覚し、さらに懊悩おうのう)。

●火事で燃えた料亭の建て直しが完了したことを告げられ、それがはなのものであることを知る。できる仕事がないならその店で商売をしてみろと言われ、困惑。技術も伝手つてもない自分になにができる? そこで看板娘のことを思い出し、口にする。正体が明かされた鼠窮やきぬを加え、話を詰める中で鷹羽の接客を売ることに。が、そこではなから、天下無双の鷹羽を売る店が安っぽくては意味がない。店の貸し賃は三月で100両と告げられ、混乱することに。

●とりあえず商売を始めてみるが、無名の大男に酷い高額がつけられたことから客は来ない。それでも宣伝するため町へ出た鷹羽は、捨て鉢な大喧嘩を繰り広げる御郎と出遭い、彼の内に若君と出会う以前の自分と同じ空虚を見る。

 助けられた御郎は哀れまれたのだと思い違い、殴りかかる。が、難なく受け止められる中で鷹羽の深い悲哀を見、鷹羽ほどの男がしおれていることに憤りを感じるように。

 御郎が剥き出す感情を受け、鷹羽は自分が独り相撲していたことを自覚。相撲も生きる道も、独りではまっとうできない。御郎を店に受け入れることを決めたと同時、彼ははなに力士であった自分を隠すのはもうやめだと告げ、鼠窮、きぬに鷹羽の土俵入りを喧伝してくれるよう頼む。

【第一ターニングポイント】

●大観衆の見守る店先で、不知火型の土俵入りを決める鷹羽。その拡げられた両肩には火傷の痕が鷹の羽よろしく刻まれており、「鷹羽担いだいい男」と謳われることに。そこへはなから贈られた「徒花屋」の看板が掲げられ、ひとりふたりと客が吸い込まれていく。



 はい、大幅な変更をしてみました。

 中でも大きなものは、指摘に合わせて菖蒲加入を二幕へ送り出し(必然的にパフォーマンスもですね)、鷹羽の土俵入りを一幕最大の山場とすること。


 大きな山場が近々に詰められた最初のものよりすっきりしたかな? と思いますが、この第二稿の構築にはロバート・マッキー氏が記した脚本術『ストーリー』、その中から以下の項目を用いています。


【ストーリー設計5つの要素】

1.契機事件=主人公の人生の均衡を大きく崩す、物語最初の重要な出来事。主人公はこれによって欲求や葛藤を得、行動を開始することとなる。

2.段階的な混乱=契機事件から踏み出した先にある混沌。欲求を阻む欠乏感と現実問題との間に激しい対立や葛藤が生じ、徐々に高まりながら主人公を苛む。ただ、ストーリーはこの葛藤なしにはなにも進まない。

3.重大局面=クライマックスへ踏み込む動機づけ。主人公は最大の敵対力と向き合い、欲求の対象を入手するための最後のアクションを起こすことを決断し、ジレンマと直面する。

4.クライマックス=価値要素がプラスからマイナス、あるいはマイナスからプラスへ、ときにアイロニーを帯びて大きく変化する。これは絶対的且つ不可逆的な転換。この変化の持つ意味が観客の心を動かす。

5.解決=手法によらず、観客に呼吸を整えさせて考えをまとめさせるエピローグ的シーン。


 江戸ホストにおける契機事件は若君の死。なにせ江戸ホストはこれがないと始まりませんから。

 これによって鷹羽という主人公は段階的な混乱へ踏み込みます。与えられるストレスは徐々に高まっていき、鷹羽という男の本性が剥き出されていくわけですが、これが心情ドラマになるよう仕立てたいところです。

 そして一幕のクライマックスへ至るためにはやはり、大きさはともあれ重大局面が必要です。付け加えるなら、鷹羽が隠していた自分の正体を晒す→自分の男ぶりを売るホストとして気持ちを固めるのが土俵入りシーンなので、葛藤だけじゃなく背中を押してもらえるきっかけをあげないといけないかなと。

 最後の解決は、江戸ホストクラブ『徒花屋』が本格始動で確定です。



 以上を踏まえて考えた結果――

 土俵入りというクライマックスを迎えるための重大局面を置く必要がありますので、御郎との出会いをここに持ってきて、きっかけとすることにしました。

 そして、そこへ至るまでの段階的混乱に、物語へ厚みをもたらすサブプロット(メインストーリーとは別に置かれた彩りのドラマ。探偵小説内のラブストーリー等)を進展させるものを置くことに。


 江戸ホストの本筋はもちろん「江戸ホストという徒花を咲かせ、鷹羽たちが生きる意味を見出していく」ことですが、サブプロットには「御郎の成長劇」、そしておはなさんとおちよさん、ふたりと「鷹羽の淡い恋愛劇」が置かれています。

 一幕は鷹羽がメインなので、彼が葛藤の中でふたりの支えを得て、重大局面へ臨む心を固めていくまでの流れを組みたいところです。

 ここでまた『ストーリー』を参照すれば、「サブプロットはメインプロットの統括概念に共鳴させるために利用でき、そのテーマについての多様性を加えて映画を豊かにすることも可能」とあります。それを考慮した上でも、二稿の流れは悪くないかなと。



 ……そうそう。ここでもうひとつ、前回から変えた設定を説明させていただかないといけません。

 おちよさんの「実は現代人」設定はやはり都合がよすぎるので丸っとてました。

 そして前回ではカットされていました設定などを盛り込み、ざっくりまとめます。


●ちよ

 15歳。おはなの家の女中。地味な見た目の引っ込み思案な性格で、そんな自分と主のはなを比べてしまいがち。が、料理や菓子作りが得意で、かぶいたはなのためにいろいろ思案した料理や菓子を拵えている。鷹羽の強さよりも弱さに惹かれ、はなへの気後れを感じつつも強く支えたいと願うように。


 書き手的にはホストクラブの手法をそのまま持ち込めなくなって痛い!

 でも、公募において作者にのみ利益がある設定や展開、いわゆる“作者の都合”は絶対に見逃してもらえない大きな減点ポイントになりますので、岡田くんからの指摘がなくとも本編へかかる前に削いではいたはず……多分。

 都合設定が消えた分、女の子成分を強化。おはなさんとの関係性も補強しています。なにせ鷹羽と出逢うより早く、彼女はおはなさんと出会っているわけです。プラスマイナス合わせていろいろあるはずですからね。



 諸々ありながらも方向性自体は固まったことで、家族というものにトラウマを持つ御郎が鷹羽とおちよさんに理想の家族像を見出し、いろいろ悶える構図がぽこっと思いつけたりもしています。

 こうした副産物も、あれこれ頭を悩ませながらプロットという怪物へ挑んでいればこそ生まれるもの。

 普段プロットは作らない派のみなさまも、第一話なり第一章なりへ手をつける、その直前にこうして練り合わせてみるとよいかもしれませんね。意外な展開やよりよいアイデアと出遭える確率が高くなりますので。


 第二、第三幕のプロット修正もしないといけないわけですが、次回はとりあえず第一幕の詳細アウトラインについてを固める予定です。

 また長くなるかと思いますが、お付き合いいただけましたら幸いですー。


【編集者岡田の一言メモ】

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 今回のプロットチェックでは『ベストセラーコード』『工学的ストーリー創作入門』『スクリプトドクターの脚本教室・初級篇』を参考にしています。どれも、序盤で見せるべき情報の「取捨選択」の重要さと、主人公の「コンフリクト(葛藤・対立)」を見せるべきだという主張を説いています。

 八生さんの第一幕では、物語を動かすために様々な要素を盛り込みすぎていて、まず見せるべきメインのプロットの波がごちゃついてしまっていました。

 それを改善するために、プロット内の「メインで語るべき部分はどれか」を指摘しています。

 以前と比べ、第一幕での主人公の活躍がわかりやすくなったのではないでしょうか。


 プロットをどう書き、どのように伝えるかは難しいです。実際、執筆を進めるより難しいかもしれません。ただ、プロットで書くべき「要点」が何かを理解できるようになると、執筆時に迷子にならないで済むのです。

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〈毎週水曜日更新予定〉

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