第6話 虫の勇者VS農夫
直ぐに僕は村に帰った。
蔑む村人を無視して教会に行った。
「無能が此処に何の用ですかな..」
「決闘を申し込む」
決闘を申し込むには、その土地の権力者に伝えるのが当たり前だ。
最も、人の多い街なら「証人」が多くいるので必要も無い。
「貴方、死ぬ気ですか?」
「決闘相手はトーマだ..これは正当な権利だ」
「そうですね..国がいや世界が認めた権利..良いでしょう受理します」
「では、村の広場で待つ..トーマには伝えてくれ」
「まぁ立会人ですから..呼び出し位はしますよ..無能のくせに神官たる私に..まぁ死んでしまう貴方に文句は言いませんよ」
個人的には逃げて欲しかった..私は女神が何故貴方を無能にしたか解りません。
貴方は敬虔な使徒だったのに..死にたくもなりますよね..だが私は神官なのです。
同情は出来ても教義は曲げられません。
村の広場で僕が待っていると、村長をはじめとする村の人間の殆どが集まってきた。
「とうとう、セイルは死ぬのか?」
「あんな家畜みたいな生活..死にたくもなるよな」
こんな村では娯楽は無い..お祭り気分なのだろう。
「無能..村の片隅で生きていく訳にはいかなかったのか?」
「村長、人間には尊厳がある..無能には唯一認められた権利は..これだけだ」
「そうか」
神官のヨゼフがトーマを連れてきた。
横にはユリアが居た。
ユリアの顔は更に痣が増え、目は腫れていた。
今直ぐ、僕が助けてやる。
「何だ、無能..情けでお前の女を貰ってやったのに決闘だと..恩をあだで返しやがって、殺してやるよ」
「セイル、逃げて殺されちゃう...逃げて」
「無能、本当にやるのですか..今なら取りやめも..」
「やる..あと神官、いやヨゼフ..言っておく、この後この村の人間は誰も僕には逆らえなくなる」
「世迷言を神官の私を呼びすてるなど」
「トーマ、そのムカつく無能を殺せ」
「次期村長の妻が言うわ、殺しちゃいなさい」
「お前の味方は誰もいないな..無能」
「やめて、トーマ..逆らいません、何でもします..最後まで、最後まで今夜はちゃんと最後までしますから」
「うるせーよ、今更おせーよ、駄目だ此奴は殺す」
(最後まで..それじゃ最後の一線は越えてないのか)
「そうか、ユリアは純潔のままなんだな..」
「辛気臭くて殴っても言う事きかねーからな、セイル、セイル喚いて..暴れやがってよ..絶望させる為に一番最初はお前の前で犯してやろうと思ってたんだぜ! そうしたら何でも言う事聞くようになるだろう? まぁお前の死体の横で犯してやるよ! そうすりゃ此奴も俺の言いなりだ!」
純潔を奪って無いなら、命は助けてやろう..そう思ったが殺す。
「ユリア、もう泣かないで良い..遅くなってごめん、助けに来たよ」
「セイル..殺されちゃうよ...まさか死ぬ気なの!」
(セイルは死ぬ気であそこにたっているんだ..セイルが死んだら..私も後を追う..それしか結ばれる方法はもう無いよ....)
「大丈夫、すぐ終わる」
「人の嫁に色目使いやがって」
「無能、姦淫は罪だ..これは決闘が終わって、もし貴方が無事でも罪になりますよ、ユリアもね..トーマ準備は良いですか」
「おおう」
鍬まで持ち出して..殺す気満々だ。
「では、はじめ..」
「そらよ」
悪戯半分で鍬で殴ってきた。
無能なら、死にこそしないが大怪我だろう。
「セイルが死んじゃう..だれか止めて」
僕は軽く鍬を掴んだ、このまま腕ごと引き千切っても良いが..突き飛ばした。
「おい、おかしいぞ..無能が鍬をつかんだ」
「農夫のくせに鍬を止められる何て、トーマは弱いんじゃないか」
「まぁ彼奴は畑仕事をさぼっているから弱いんだろう」
「無能の癖に..殺す」
ユリアが心配して見ている..手にナイフまで持って..
ユリアが馬鹿な事する前に決着をつけよう..
「聖剣錬成」
赤く輝く大剣が僕の右手に現れた。
「「「「「「「「「剣が現れた..何故だ」」」」」」」」
「行くぞ」
「この決闘は..」
神官が止めに入る前に僕はトーマの両腕を切り落とした。
最後の一線を越えなかった..だから命はとらないこれで良い。
「俺の俺の腕がいてぇええええええええええっ」
無言のまま僕はトーマの方にゆっくりと歩いていく。
「せっセイル..辞めろ...殺さないでくれ、ななっ..そうだユリアは返す..」
僕は歩みを止めない。
「解った、別れる、別れる、最後までして無かった..彼奴は新品のままだ..それで許してくれ」
「許すよ..それで..」
「無能、いやセイルこれは無効だ、明らかにスキルを使った..無能でないなら決闘権はない..しかも他人の妻を奪おうとしたんだ姦淫罪だ」
「だが、無能として扱い、不当に財産や権利を奪われた..ユリアだって本来は僕の婚約者だ」
「それは認める、村長やユリアの両親の罪は教会から償わせる、だが決闘で妻を奪うのは姦淫だ..しかも両腕を切り落とすなど残酷極まりない」
「そうだ、俺は悪く無い..罪を償え..ユリアがどうなるか..俺の妻だ自由にできる..残酷に扱ってやるから覚えておけ!この腕の恨みは全部ユリアに行く」
「そこまでする事は無い、腕は農夫の命だ斬り落とすなんて..」
「やり過ぎだ」
良く言うな..やっぱり許さない。
「辞めた..許さない」
僕はトーマの首を跳ねた...首は鞠のように飛んでいった。
「セイル、神職である神官の前でなんて言う事を姦淫だけでなく殺人とは..死罪だ」
「黙れ..これを見てから言え..」
俺は「虫の勇者」と書かれた紙の「虫の」を指で隠し見せた。
「ゆ、勇者..様」
「ああっ、聖剣まで作って見せただろう?..無能なら「決闘法」勇者なら「勇者保護法」が適用だ..僕は誰を殺しても許される筈だ..勇者は法の外にある、他人の妻だろうが王女だろうが自由に出来る違うか?」
「セ..セイル様...いや勇者様..それは」
「ヨゼフどっちだ? 無能ならそれで良いんだ、その場合は此処に居る全員に決闘を申し込む..女もな、15歳以上の人間を皆殺しにして王都に行き教皇も決闘して殺す..そうしたら気が晴れる..僕は勇者なのか無能なのか早く言え」
私も悪い、村人も悪い..あの優しかった少年を此処まで変えてしまった。
今は平和な世の中だ..魔王も居ない、それでも勇者が生まれたのなら何か神の事情がある。
女神が来ず、天使しか来ない..だが平和な世界の時の勇者は力が弱い為、女神が来なかった..そういう実例だってあった。
1か月..その位は猶予を見るべきだった。
勇者が生まれた。
それは女神の御心だ..その使徒がどれ程歪んでしまっても神職の私は否定できない。
それがいかに容赦しなくても...
「セイル様はまごう事無き勇者です..すいませんでした..お許し下さい」
「そうか..ならまずは僕の家や財産を」
「直ぐに返すように言います」
「なぁヨゼフ..間違っている。今、お前は勇者と認めた..なら勇者の財産を奪った者はどうなるんだ、勇者に危害を加えた者はどうするんだ、正当な裁きをお願いする」
「セイル様..儂が悪かった許してくれ」
「村長、謝る必要は無い、貴方は法に従っただけだ..なら今度も法に従え..それだけだ」
「あの、セイル様.僕..ごめんなさい」
「アサ..謝らなくて良いんだ、悪い事はしてない」
「それじゃ..許してくれるの」
「うん許すよ..だけど、法は曲がらないからちゃんと罪を償えば良いだけだよ」
「セイル..私は」
「ミランダ、どうでも良いし謝らないで良い、法に従ってただ、裁きを受ければ良い」
「それじゃ、ユリア行こうか? 後は神官ヨゼフに任せた..良いよな?」
「はい、勇者セイル様」
「ユリアどうしたんだ..」
「私、もう汚れてしまったの..だから」
「一線を越えていないのなら気にしなくて良いんじゃないか? もしそれが気になるなら..知っている人間を皆殺しにすればそれで済むだけだ」
多分ユリアはこうでも言わなければ僕の前から居なくなる..こう言えばユリアは居なくならない..僕は卑怯者だ。
「それで良いの?..本当に良いの?..セイルなら私じゃなくても幾らでも相手が居るのに」
「ユリアが良い」
「だけど..本当に私で良いの..勇者ならそれこそ、貴族や王族だって」
「お針子のユリアが良い」
「そうか、うん、私もセイルが良い..傍にいたかった..助けてあげたかった..だけど」
「殴られて、酷い目にあっても、最後まで抵抗してくれた..僕が酷い目にあわないように庇ってくれていたそれで充分だ」
家族と僕の間に挟まっていた一番の被害者はユリアだ。
「ごめんね..セイル」
「僕こそ、ごめん..今迄助けてあげれなくて」
無能になってから初めて笑った。
こんな日が来るなんて思った事は無かった。
ユリアは痣だらけで、目も腫れている。
だが久々に間近で見た幼馴染はとても可愛かった。
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