夏祭りデート

「……私のお父さんが消防士で、お母さんが看護師さんだったからさ。私も二人みたいに誰かの助けになりたいから、いつの間にか習得してた力で人助けをしてたんだ」

「……自慢の両親だったんだね」

「うん、お父さんは仕事中に逃げ遅れた人を助ける時に、お母さんは事故でね……」

「あ、また昔の事を……ごめんね、時雨」

「いやいや今回は大丈夫大丈夫! はい! この話はおしまい! せっかく恋人同士になれたんだし、もっと楽しい話しようよ!」

「……うん、そうだね」


 夏休みの夜、時雨と通話しながら勉強をしている。今はずっと気になっていた時雨が人助けをしてる理由を聞いていたところだ。通話越しなので時雨が本当に大丈夫そうかわからないのが歯がゆく感じる。


「そうそう! 今度の夏祭り、二人で一緒に行かない?」

「もちろん大丈夫だけど、時雨って浴衣とか持ってる?}

「あるよ! 叔母さんが昔使ってたものがあるからそれ貸してくれるって!」

「なら私も気合い入れてお洒落な浴衣着ていかないとね}

「別に無理とかはしなくていいよ? 私は心音さんと二人で夏祭りに行けるだけで十分満足だから」

「いや。私だって時雨に綺麗な自分を見せたいし、可愛いと思ってもらいたいから……あっ……」


 自分の発した好意たっぷりの言葉に思わず恥ずかしくなる。でも、時雨は沢山の好意を言葉で、そして心で伝えてくれる。でも時雨には心では好意を伝えられないから、もっと言葉で伝えていかないとかもな、なんて思ったりした。

 通話が終わり、浴衣はどうしようかと考える。母に頼ると絶対面倒な事になるけど、他に頼る相手もいないので頼ることにした。


「彼女ちゃんと夏祭りに行く浴衣が欲しいのね」

「そうだけど、いつ心読んだのさ」

「読まなくても時雨ちゃんと付き合い始めたんじゃないかなって事くらい最近の心音の言動見てたら予想できるわよ」


 バレバレだった。しかし母のファッションセンスは非常に高いので、自分でもこの浴衣いいなと思うレベルの浴衣をしっかりと準備できた。


♢♢♢


 今日は心音さんと夏祭りデート。心音さんの家が会場に近いので集合は心音さんの家に私が訪問する形になっている。叔母さんが着付けてくれた浴衣を身につけて、心音さんの家に向かう。


(ここが心音さんの家かぁ」


 事前に教えてもらった家の玄関前に立ち、チャイムを鳴らす。少しして、浴衣姿の時雨さんが出てきた。可愛くて、そしてあまりにも綺麗な姿に言葉を失ってしまう。


「……、……」

「ど、どう?」

「うん! 凄い! すっごく似合ってる!」

「あ、ありがとう。時雨も似合ってて可愛いよ」

「ありがとう心音さん! あ、でも私の心読んだら浴衣の感想すぐわかるんじゃない?」

「だって、時雨の口から、時雨の声としてちゃんと感想聞きたかった……心なんて読んでないよ」


 お互いに顔が赤くなる。そんな時奥から綺麗な女性が一人出てきた。


「あらあら。お二人ともアツアツだねぇー」

「あ、こんばんは! 心音さんのお母さんですか?」

「そうだよ~貴方が時雨の彼女の時雨ちゃんね。はじめまして、どうぞよろしくね~あ、そうそうこの浴衣私と時雨で選んだのよ、どう? 似合ってる?」

「すっごく似合ってます! 心音さんがいつも以上に魅力的に見える浴衣を選んでくださって、本当にありがとうございます!」

「いいのいいの。可愛い娘の頼みだしね。それじゃあそろそろ私はお邪魔だろうし、二人ともいってらっしゃい。夜だし気を付けていくんだよー」

「はい! いってきます!」

「なんかもう既に馴染んでる……お母さん、まぁいろいろありがとう。いってきます」


 心音さんと二人で会場まで歩きだす。手を繋ぎたいな。なんて思ってたら心音さんがすっと手を繋いでくれた。この前の遊園地とは違う、恋人繋ぎ。




 二人で手を繋いで、楽しく雑談しながら歩いていたら、あっという間にお祭りの会場に着いてしまった。


「花火までまだ時間あるね。屋台で何か食べ物でも買おうか」

「そうだね! 私カレーライス食べたい!」

「場所によってはあったりするけど、ここにはあるかなぁ……」

「心音さんは何食べるの?」

「私は……たこ焼きにしよっかな」


 会場を歩き回り、カレーを売っている場所を見つけた。こういう場所で売っているカレーにしてはかなりボリュームのある美味しそうなカレーを買う事ができた。


「花火の時間に近づいてきたね……時雨。事前に調べておいたいい場所があるからそこまで行こうか」


 繋いだ手を引いて、心音さんが少し速い速度で歩きだす。私はそれについていく。着いた場所は、そこそこ人はいるがそれなりに空いている公園。二人でベンチに座り、各々買った食べ物をもぐもぐと食べる。心音さんが最後のたこ焼きをこちらに差し出して、


「はい、あーん」


 と言ってきた。少し恥ずかしいけど、私は差し出されたたこ焼きを頬張る。心音さんに気を取られていて、たこ焼きがかなり熱いことに気付くのが遅れてしまった。


「あふ、あふ」

「あ、ごめん。熱かった? すぐ飲み物買ってくるね」


 近くの自販機でお水を買ってきてくれたのでそれを受け取り、アツアツな口とドキドキな心を落ち着かせる。


「あ、あの……」

「うん?」

「心音さんも、あーん」

「ん……美味しい」


 残っていたカレーライスをお返しにと心音さんにあーんで差し出し、二人でふふっと笑う。


「私達とさっきのたこ焼き、どっちがアツアツかな」

「どどど、どうだろうね……」


 心音さんの言葉に私が慌てて返した直後、最初の花火が大きな音を立てて上がった。


「綺麗だね、花火」

「そうだね……」

「私と花火、どっちが綺麗?」

「もう! 恥ずかしいからそういう意地悪はやめて……」


 綺麗な花火を、綺麗な彼女の隣で見れる事。それは私にとって、大切な夏の思い出になって、幸せな出来事として記憶に残るだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る