第六話 金縛りの解き方? 


 最近、腰痛のせいで寝る時の体勢が取りづらい。

 この間、ストレッチでバキっと痛めてしまった。捻じり過ぎたらしい。

 ゆっくりしたストレッチで痛めるって情けないのだが、元々体が硬くなっているのだから無理は禁物。

 あとちょっとのもう一押しで痛い目を見る。


 とにかくそんなこんなで、寝づらいのだが、どうせ明日は土曜日なので睡眠薬無しで寝る事にした。(私のはおそらく軽い依存症で、不眠症の人からしたら大したことはない)

 横になりながら小説を読むことしばし、少し眠気も出て来たので寝るかと一旦起き上がってトイレ、電気を消す。


 あるあるだが、眠気が中途半端で起き上がったりするとまた目が覚めてしまう事が少なくない。

 この時がまさにそれ。

 電気を消したのに眠気が半分引っ込んでしまった。


 うぬぅぅ、ほんとに照明を手元で操作出来るリモコンタイプに変えたくなる。


 でも面倒なので薄暗がりの中、そのまましばらくゴロゴロとする。

 これで目が冴えっぱなしだったら、その時はまた起きればいいのである。

 そう無理に寝ようと焦らずに開き直ると、意外とまた眠気が少しづつ戻ってきたりする。


 時計は見なかったが、カーテン越しに見た窓や本棚などの影は暗かった。おそらくギリギリ夜明け前だと思う。


 と、ぼんやりしていたら、ズシっと胸の上に何かが乗って来た。結構重い圧迫感である。

 この時私は腰が痛くて仰向けになっていた。

 反射的に体を動かそうとすると、当然のように動かない。


 またかよ、と言うにはちょっと久しぶりだが、怖さはさほど感じなかった。

 せっかく寝付きそうだったのに邪魔された、というか、本当に突然来るもんだなあと思ったのが先だった。


 そこでふと考えていた金縛りの解き方を思い出した。これは良い機会――ではないが、試してみる価値あり。

 それは深呼吸。


 一般的に金縛りではパニックになってはいけない。落ち着いていればそのうち自然と解けると言う。慌てることで余計な悪夢に繋がったりするからだ。

 また別の方法によると、とにかく落ち着いて動かせる範囲から動かそう。たとえば指からでも、ともある。


 確かに動かせるところを最大限に動かすってのは大事。体に何か筋肉動作の刺激を与えるってのが解く鍵みたいだから。


 うん、確かにそうなんだけど、睡眠麻痺のような身体的ズレによる金縛りならいいけど、もし別の要因だったら? と頭を掠めたりする。不安になる。よけい眠れなくなる。

 まあそれが悪夢に繋がっちゃうんだろうけどね。


 だってその時、傍に何かの気配なんかあったら、それこそ焦りまくりでしょ?

 やはり一秒でも早くこんな嫌な状況は打破したい。


 でも指くらいしか動かないのにどうやって早く解くんだよ、とお思いのあなた。

 実は他にもあります。


 それが深呼吸! 

 すなわち肺と腹の筋肉運動です。

 

 息を吸う、吐く、どっちが先でもいいけど、ここは思い切り『腹式呼吸』だ。

 力一杯腹を膨らますように息を吸う、そして一気に腹をへこますように吐く。

 これで結構体の奥が動くのだ。深呼吸で少し落ち着くし、気合いも入る。


 よっしゃ! 腕が動くようになったぜ。


 実はこの時、仰向けになっていた私は下腹の辺りに両手を置いていた。

 そのまま拳を重ねた感じで、上に布団ごとゆっくり持ち上げる。


 やはり何か乗っているかのような手応え、負荷がある。

 やっぱり何かいるのか? 

 しかし流石に怖いので目は開けられない。


 だって布団の上にいるのだとすれば、目と鼻の先なのだ。なんだか訳の分からないモノと間近で御対面はしたくはない。


 すると拳の上にあった何かがズルリと動く感触と共に、また胸の上に布団を滑り落ちてきたような圧がきた。

 こいつ、また乗って来やがって。


 もう怖いの3、ムカついたの5、その他2である。

 私は手を拳にしたまま、布団の下からそれを挟むようにした。本当は手のひらのほうが良かったのかもしれないが、とにかく夢中だったのでそのままグローブで。


 そこで拳に気を集中。

『何してくれてるんだよ!?』という勢いで、とにかくヤマアラシのような痛いトゲトゲをイメージを作って、全力でぶつける感じ。

 オーラがその形になるように。


 もう『ハンター×ハンター』の念能力じゃあるまいし、厨二病なところが恥ずかしいが、負けない気合いはとにかく大事。

(でも気って、念じると本当にそういう形や刺激になったりするそうだ。だから殺気というのは受けると、息苦しさを感じたりする)


 すると、フッと胸に乗っていた重みが消えた。

 ゴロンと横になって目を開けると、もちろんまわりには何もない。

 窓辺は先程より、やや薄明るくなり始めている。夜明けのようだ。


 そういえば金縛りの時によくある耳鳴りとか、妙な音は聞こえなかった。一切無音だった。

 重さ以外、気配はなかったし、考えてみたら悪意とか邪気も感じなかった。

 大体、本当に金縛りだったのか?

 もしかして寝入りばなの夢だったのではないだろうか。


 ところでネットで調べると、金縛りで胸に何か重いモノが乗って来る感覚がある時は、もしかすると狭心症の可能性ありとあった。

 つまり血管の詰まりがそういう圧迫感となって、夢現の時に重さとして感じてしまう事が考えられるというのだ。


 そ、それは別の意味で恐いな(;゜Д゜)!

 

 自分は逆流性食道炎のせいか、時々喉の詰まり感以外に少し息苦しさもあるのだ。

 本当は心臓が原因だったらって……、現実問題怖いやんか。

 しかし拳の上にも乗ったしなあ……。圧迫感が移動するって、ないだろ?


 多分関係ないだろうけど前に仏間で寝ていた時、夜中に目が覚めると胸の上に赤ん坊が乗っている夢を見た。

 薄暗がりの部屋の中、その赤ん坊は真っ黒というか濃紺一色だった。

 そうしてのっぺらぼうだった。


 だが唯一ある口が笑っている。なので思わず抱き寄せていた。

 柔らけぇ~、この頬っぺたは本物だ。

 続いて頭頂骨の匂いを嗅ごうとして、スルッと逃げられてしまった。


 それから出て来ない……(-_-;)

 ううっ、ごめんなさい。今度からやる前には一言ことわります。


 まさか久しぶりに来たのか? 

 重さ的には近かったが、いや、多分違うだろう。邪険に扱ってしまったので違っていてほしい。


 それとも第四話の妖精さん? 前より小さくなってるが。 

 いやいや、彼は一度嫌がられたことはやらない。ウケると繰り返す事もあるが、金縛りはしない。フォールはあったけど。


 やっぱり思い切って目を開けて確かめるか、せめて『誰?』とでも尋ねれば良かったか。

 でもそれで知らん奴だったら嫌だしなあ……。


 ここで赤ん坊と聞いて、水子を連想した人もいるかもしれない。

 聞いた話だが、水子の霊には顔がないらしい。それはこの世に生まれるまでに至れなかったからだ。


 だがこの濃紺色の子は絶対に違う。

 水子というのはこんなに可愛くて、無邪気な感じのものではない。

 もっと恐ろしくて悲しいものなのである。

 それはいつか話せるときがあればしよう。

 もちろん私自身のではないが。


 とにかく今回はどっちにしろ、悪意はなかったようなのでとりあえずいいか。


 話変わって、この腹式呼吸方、実は悪夢を見ていると分かった時、どうやって強制的に目を覚ますかと考えた時に使ったもの。

 

 夢の中で頬っぺたをつねっても、顔を叩いても痛くないですよね? だって本当の体は動いてないから、逆に動かせちゃったらそれこそ睡眠障害だし。


 明晰夢ならば開き直って、自分の思った通りに操作するも良し。

 だけど『エルム街の悪夢』みたいだったら、とにかく目を覚ましたいですよね? 一部のファンなら喜ぶかもしれないけど。


 私はたまに同じ夢を見るのだ。

 気がつくと暗い部屋にいる。窓があっても外も真っ暗。

 スイッチを付けても付けても、一向に明かりがつかない。

 電灯は一瞬またたくときもあるが、やはり灯らない。パチパチとスイッチを入れたり切ったりする音だけが暗闇に響く。


 そうしてたまにその闇の中に、白っぽい着物を来た人物たちがいて、少しづつにじり寄って来るのだ。

 この夢は10代の頃からずっと続いていた。


 とにかくそのおかげで、暗い部屋で電気がつかなかったら、まず夢だと気がつくようになった。

 となればその部屋から逃げるか、早く目を覚ますしかない。


 そこでなんとか無理やり目を覚ますように編みだしたのが(大袈裟)息を止める事。

 夢の中で自らの体に刺激を与えるのは、もう呼吸しかない。

 と、思う。他に何かあったら教えて欲しい。


 息が苦しくなって来ると、さすがに目が覚めるのだ。

 ただこれは気絶する危険性(最悪死ぬかも)があるので、お勧めは出来ない。あくまで私個人のやり方です。

 もしやるなら自己責任でお願いしたい。


 とにかくホントに苦しくなったら即やめる。

 この呼吸の乱れで結構夢が揺らぐので、苦しくなったら止めるを2,3度繰り返すと大概は目が覚める(あくまで個人談)

 中途半端で別の夢に移行した時もあるので、責任は負えませんよ。

 

 話を戻すと、この私の悪夢に出てきた人物たちは、数年前にプロの方に除霊または供養してもらったので、もう出て来ない。

 ただ暗い部屋にはまだたまに訪れてしまう。


 相変わらず、いや、ほんのたまに電気がつきかかるが、なかなか明るくならない。

 どうやらこれは心霊的なものではなく、私自身の問題なようだ。


 けれどそのことが分かっただけでも良かった。それなら無闇に恐れる必要はない。

 明るくまではいかなかったが、照明をスパークさせるところまでは出来ることもあった。

 まあ、思い切って探検するのもありかもしれないが、まだその勇気は出ない。


 なかなか実体験した怖い事を、あらためて描くのも勇気がいる。

 だけどこれも浄化。

 書くのにもう少し時間がかかりそうだけど、あと二つ。

 いつか陽の下に出してやりたいと思う。

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