第7話 初恋相手は特別

 月曜日──。


「なんだい、元気がないじゃないか桐谷!」とグタリと机に顔面をぶつけている俺に声をかけるこいつの名前は遠野紀伊。

 

 彼とは中学からの親友というやつだ。


「ああ、ちょっと体調が悪いんだ」

「そうなんだ、てか本当に顔色が悪いね」


 実際のところ疲れが出ているのだと思う。

 昨日は一日中寝ていたわけだがそれだけでは体力が完全には回復できていないらしい。

 これも全部彩花のせいだ。

 

「う、ああ。悪い、やっぱり今日ダメだわ」


 学校に来てみたわけだがこのままでは周りに心配されるほどに体調が悪化しそうだ。

 さすがにその前には帰るとしよう。


「なら僕が──」


 俺は紀伊に腕を伸ばし。


「いや、まだ大丈夫」

「そ、そうかい。ならまあ、気をつけるんだぞ」

「ああ、ありがとう。俺は少し寝るとするよ」

「うん!」


 紀伊が自分の先へと帰っていくのを確認すると俺は再度、机に伏せる。


 本当にいろいろなことがありすぎた。

 彩花の秘密、麗奈の秘密を知ってしまったのだ。

 彩花には失望しているがまあ、お陰で麗奈と関係を築き上げることに成功できたのだ。

 あとは麗奈と身体の関係を築くことができれば全ては解決するのかもしれない。

 けれど……。


 なんでこんなに彩花のことで胸が痛いんだ。

 

 理由がわらかない。




 三時間目の休み時間、やはり体調はよくなるどころかどんどんと悪化する一歩だったため俺は保健室へ行くことに決めた。


 一時間ほど仮眠を取ればだいぶ回復するだろう。


 保健室へとやってくると入り口には『ただいま出張中』と看板がドアにかけられていた。


 こういう時は職員室に行くのだが、少し眩暈がしてそれどころじゃない。

 一時間ぐらい言わなくても大丈夫だろう。


 だから、俺はドアをスライドさせて中へ入りドアを閉めたと同時に突如血の気が引いた。


「先輩──///」

「授業サボってはやっぱちげえや!」


 ……。


 一番奥の窓際のクリーム色のカーテンで閉じた、ベッドがある場所から──。


 う──っ。


 口を抑える、声が出ないようになんとか耐える。


 なんでなんでなんでなんで。

 どうしてこう俺は全てにおいてついていないんだ。


 彩花とヤっている光景が脳内に映し出される。

 彩花との思い出がまたもや溢れ出る。


 やめてくれ……。


「しっかしラッキーだぜえ、保健室貸切とかよお」


 なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで、なんで、彩花を想像してしまうんだ。

 今が脅すための動画のチャンスじゃないのか?


 幸い、ポケットの中にはスマホが入っている。

 声だけでも十分証拠になるのに。


 無理だ、彩花にそんな酷いことができない。

 ああ、ダメだわ。

 彩花のこと嫌いになんてなれないや。




「うえ……」と三時間目の授業も中盤に入っただろう、そんな中俺はトイレの個室で嘔吐する。


 顔面が大粒の涙で溢れボヤがかかっている。


「ちくしょう……うえ……」


「なんで俺は……うえ……」


「こんなにもまだ……うえ……」


「彩花が好きなんだよ……うえ……」


 吐いても吐いても次から次へと溢れてくる。

 口が酸っぱい。

 朝ごはんが全て出ても止まらずに。


「彩花が好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きでいっぱいなん……うえ……だよ」


 ああ、やっぱり初恋相手なだけあって思い出が邪魔するんだな。

 その後も俺は吐き続けた、とにかくとにかく溢れでた。

 気づいた時には保健室の彩花と先輩がヤっていたベッドで寝ていた。

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