サクラの舞姫 平安絵巻〜The beginning of the story〜 天に仕えし藤の花のもとに。【前編】

山咲 里

〜序章〜      全ての始まり。1


私は真っ暗な所に浮かんでいた……。



『こ、ここは何処なの……?』



何も見えない。



何も聞こえない。



無の世界。




寒い……。



暗い……。



何も見えないし、感じ無い……。




私は何故ここにいるの?




私は誰なの??




頭の中から、何かが消えて行く。




私、死んじゃったのかな?




すると、遥か遠くに光が見えた。




私は、その光に向かって手を差し伸ばした。




だが届かない。





そして、頭の中に誰かが映し出される。





『誰っ!?』





破邪はじゃつるぎ舞姫まいひめよ……。』




『破邪の剣の舞姫??』





私は、その名前に心を奪われた。







『さあ、時は来た。』




『と、時??』




すると、私は遥か遠くの光の元へ引き寄されて行く。




『な、なんなの??

あの光に何が在るの!?』




私は光の中へと、吸い込まれて行った。





かくして、私の破邪の剣の舞姫としての旅が始まろうとしていた……。




























     

















アヤメーーっ!!』



遠くから、声が聞こえた。



少女が振り向くと、手を振りながら大声でこっちに走って来る。



『もう! アヤメったら、一人で何してるの?

何処にもいないから心配したよぉ。』



『あはは、ごめん五月さつき

私、この広大な下総の大地に根付いた、稲穂を見てるのが好きなのよ。』



五月とは、この地を治る平将門たいらのまさかどの娘である五月姫。



アヤメの親友だ。



『アヤメはこの景色が本当に好きだよね。』



『うん……。』



『記憶はまだ戻らないの??』



そう、水無月みなづきアヤメには過去の記憶が無い。



倒れていた所を、平将門に助けられて、それ以来居館で庇護されている。



『全くだよ。

でも、薄ら分かる事が有るんだ……。

私の故郷には、こんな雄大な景色は無かった。

だから、この場所が好きなんだ。』



『そっか……。

記憶が戻ったとしても、私とアヤメはずっと一緒よ。』



『そうね……。』



秋の匂いを感じる、夏の終わりの風が吹き抜ける。



その風で髪がはためく。



アヤメは、五月の言葉を聞いて、自然と笑顔で五月を見つめた。




将門に拾われて、五月と出逢って、本当に自分は幸せだと。



『アヤメって何でそんな髪が好きなの??

それじゃ、まるで童か尼じゃない??』

それに、いつも小袴こばかまなんて履いて……。』

※小袴、丈の短い袴。平安時代の武士や庶民の普段着は、直垂ひたたれと言う上着を着て、小袴を履いていた。



『何でかな、女の子らしくないのは分かってるんだけど。

動き易いし、何か性に会うのよね。』



アヤメは、この時代の女子には有り得ない位の髪の長さだ。


紫掛かった少し毛量の多い髪を、肩辺りまでに髪を切って、前髪は横一文字に切っていた。


そして、男性と同じ服を好んで着ていた。



『そんなんじゃ、結婚相手も見つからないよ??』



『良いのよ! 私は将門様の為に何か出きれば良いんだから。

それに私達もう二十歳よ??

婚期のがしちゃってるじゃん!』



『あはは!! 確かにね!

まあ、私は父上と一緒に居られればいいから気にしないよ?』



『私も五月と将門様とずっと一緒なら気にしないよ。』



『父上を取らないで!!』



五月は意地悪い顔をしながら笑った。



アヤメも笑顔で応えた。



こんな時間がいつまでも続けばと。




『あ、そうだっ! 父上って言えば!!

父上がアヤメをお呼びなのよっ!』



『将門様が??

将門様がお呼びって、一体どうしたの??』




アヤメと五月は、急いで将門の待つ居館へと向かった。

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