第6話 白百合京子 ~夢の始まり~

ここ暫く、僕は白百合さんと一緒にお弁当を食べている。


白百合さんみたいな、美少女が僕と一緒にご飯を食べてくれるんだから、とっても嬉しくてしょうがない。


周りも僕みたいな奴がこんな完璧美少女とお弁当を食べているのが珍しいらしくよくこっちを見ている。


【周り】


「何で、あんな美少年があんな化け物みたいなドブスと付き合っているのよ」


「何で、何で、何で、何で あんな出目金女が食事係なの、手料理食べてくれるって何」


この世界の男は基本、女が作った料理なんて食べない。それこそ男に飢えた女に催淫剤でも入れられたら目も当てられない。


事実年間そういった事件は数件起きているし、睡眠薬で眠らされて誘拐される様な事件も起きている。


そうでなくても、女が触れた物を【汚い】と嫌う傾向が男には結構ある。


例えば、インスタントコーヒーを女が入れてそれを男が飲む位であればそれは婚約以上の信頼関係があると言える。


この世界の弁友(べんとう友達)はちゃんとした業者の商品をシュリンクが付いた状態で男性に渡すだけだ。


男性はこシュリンクを見て未開封かどうか確認してから手を付ける。


それでも一時とはいえ女が手にした物を食べて貰えるのはそれだけで他から見たら羨ましいのだが。


【周り】


「あのさぁ、、私がお弁当を作ってきたら食べてくれたりするかな?」


それを聞いた男は露骨に顔を顰めた、明かに不愉快そうに見える。


「する訳ないだろう? そんな事言うならもういい、他の子に弁友変えるからいい」


「ごめんなさい...」





「あの、1万円あげるからあの、あーんってやってくれない」


まぁ、長い付き合いだから仕方無いか...男は腹が立つのを押さえて、少しはサービスしてやるか。


そう思った。


「1万、ちょっと安すぎだろ。まぁ、君とは長い付き合いだから、1口3万円ならいいか」


「本当、じゃぁ明日9万円もってくるから3口お願いできるかな」


「仕方ない、ほれ」


「もぐ」


「ほれ」


「もぐ」


「ほれ」


「もぐ」


「じゃぁ、明日9万円もってこいよ」


これは男からして貰えたと考えたら、考えられないレベルのサービスだ、婚約まであと少し、そこ迄の関係を意味している。


横で黒木たちを見て無かったら、歓喜して喜ぶレベルだ。


「うん...持ってくるよ...」


なんか違う...むなしい...これちがうよ...贅沢にも彼女はそう思ってしまった。。




【黒木、白百合SIDE】


「今日はハンバーグを作って来たよ! これは母さん仕込みで自信があるんだ」


《お母さんに教わったの?》もしうちのお母さんと一緒に料理なんて作ったら...お母さん手が震えて料理できなくなるんじゃないかな。


「ふぇ、これもしかして、全部黒木君の手つくり?」


「うん、だけど僕はお子様メニュー位しか作れないから」


男の子の手料理のお弁当...これとんでもないよ。


こんな物、普通はどんなにお金を積んでも買えない気がする...本当に良いのかな?


【作れない】いぜんに【男の子が作った】それだけで、凄い価値があるんだけど。


「そんなこと無いよ? 男なのに此処まで作れるなんて凄いよ」


男性で料理が美味い、そんな男性滅多にいないよ。


「だけど、白百合さんなんて本格的なコースじゃない? これは僕には作れないよ」


「私みたいなブサイクな女のお弁当食べてくれるんだもん。この位」


「白百合さん、怒るよ」


「ごめんなさい、私何か怒らせるような事した、本当にごめんね」


「うん、した。僕は白百合さんが好きだから一緒にご飯食べているんだよ?」


「えっ」


「白百合さんは僕にとってはとっても可愛い女の子なんだから」


「えっえっ」


「誰でも、自分の好きな子を馬鹿にされたら怒るでしょう?」


「本当にごめんね」


どうしよう顔が真っ赤になって黒木君の顔が見られない。


私の事が【好きな子】なんて嬉しすぎる。


だけど、嫌われるのが怖い。


「駄目許してあげない」


手が震えだした。


「ごめんなさい、本当にごめんなさい、許して」



元の独りに戻りたくない。


【周り】


「あれ、絶対捨てられるね」


「馬鹿じゃないの? 調子に乗りすぎだってーの」



「じゃぁ許してあげるから、僕の言う事聞いてくれる?」


えっ、許してくれるんだ。


「何でも聞きます。だから...許して」


「じゃぁ、今日は一緒に帰る事」


ええっ。


「えっ、それって罰じゃなくてご褒美だよ?」


「そうなの、僕は白百合さんと一緒に帰りたかったんだけど邪魔かなと思って我慢してたんだけど」


えっ...聞き間違いじゃないよね。


「本当に?...じゃぁ、、例えば、毎日一緒に帰りたいって言えば帰ってくれるの?」


あははっ夢みたい。


「勿論、今日から一緒に帰ろうか?」


「うん」


此処までくると、もう現実じゃないみたい。


「白百合さんの家知らないから、帰りがけに教えてね?」


うん、これ夢見ているんじゃないかな?


「勿論、教えるよ 絶対に教える」


「もし、近かったら、朝も一緒に登校しようよ?」


そんな話、ライトノベルの世界しか知らないよ。


「本当に、本当?」


本当に夢みたい。


「うん、あの聞きづらいんだけど、白百合さんって友達が多いの?」


いない、居たとしても黒木くん優先だよ。


「余り居ないかな」


「だったら、白百合さんのクラスに休み時間とか遊びに行ってもいい」


凄くよいなぁそれ...


「いい、いいに決まっているよ」


「そう、じゃぁこれからは手加減しないよ」


「あの、手加減って?」


「さぁ、」


普通この世界の男性は例え付き合っていても一緒に登校したりしない。


そして学校では男から話し掛けられない限り女から話しかけないのが通常の光景。


一緒に登校するなんて光景は小説や少女漫画にしかない。


昔本当に仲の良い男女が一緒に登校したそういう話があった。


だけどそれは、男が歩く後ろをただ無言で歩いている。ただそれだけだった。


それから、私は夢の様な時間を過ごすようになった。


黒木くんの【手加減しない】ってこういう事だったんだ。


「白百合さぁーん、遊びに来たよ」


えーと、女の子を呼びつける男の子は稀にいるけど、向こうからくるなんて信じられないよ...クラスの皆は口開けてポカンとしているし。


「えっ 黒木君、本当に遊びに来てくれたんだ」


「うん、だけど休み時間って15分位しかないから、お話しをする位しか出来ないね」


男の子とお話しできる...女の子にとって、その【お話】が最高の時間なんだよ。


「そ、そうだね」


【周り】


「うそ、男が女の所に遊びに来るなんて...」


「ねぇ、あれが黒木翔くんか凄く美形...それが何で出目金に会いに来ているの?」


「嘘、嘘、嘘、幻覚が見えるよ」


確かにこんなの誰も信じられないと思う。








そして次の時間も黒木君はきてくれた。


その次の時間も...


本当に夢みたい。


そして、帰りは校門の所で私を待っていてくれた。


「黒木君、もしかして待たせちゃった」


「全然、待ってないよ? それじゃ帰ろうか?」


「うん」


黒木くんは私の手に自分の手を重ねるように握った。


「嫌じゃ無ければ手つないでもいい?」


良いに決まっているよ、それより手...汗ばんでないかな?


気がつかれないようにスカートで拭いた。


「うん」


私は顔を真っ赤にして何も喋れなくなった。


だって、男の子、それも超美形な黒木くんが私の手を握ってくるんだもん。


緊張して喋れるわけ無いよ。


だけど、これだけは女として伝えなければいけないと思う。


もし、勘違いだとしたら全てを失ってしまうかも知れないけど。


それでも、言わないといけないと思う。


正直、怖くて仕方ない。


「黒木君、大好きです。付き合って下さい」


本当は、不細工だけどとつけたかった。


だけど、黒木君はそういうと怒るから、普通に言うしか無いよね。


黒木君が黙っている。


この瞬間が凄く長く感じた、実際は数秒なのに、何時間にも感じる。


そして、私の手を離した。


やっぱり駄目だったんだ。


もっと可愛い女の子だったら、そう考えると涙が出て来た。


あれっ黒木君が手を握り直している。


これって...嘘、恋人繋ぎだ。


こんなの見た事もない...小説とかドラマでしかありえないよ~


「僕も、白百合さんが大好きです。付き合って下さい」


私は顔が真っ赤になって何も喋れなくなった。


黒木君はそんな私を手を引いて歩いている。


色々黒木君が話していたけど頭に入って来ない。


気が付くと私は家の前で黒木くんを見送っていた。


多分、私は世界で一番幸せな女の子だと思う。


世界中の男の子全員に不細工って言われても構わない。


だって、こんなにかっこいい黒木君がいつも傍にいてくれるんだから。






【雑学】この世界に置ける男の料理の価値

男の手料理なんて物はこの世界の女性まず食べる事が出来ない。


前の説明で少しだけしたが...


ただ男が握っただけの【おむすび】は1万円でも行列ができた。


どう見ても歪で、みそ汁もつかない、只の塩握りでだ。



ちなみに、インスタントの味噌汁に男がお湯を注いでだした。


カップ麺にお湯を注いだ。


それだけでも男が行えば手料理だ。


そんな物ですら、恐らく目の前で行うなら5千円位の価値はある。



ちなみにこんなエピソードがニュースになった。


女を嫌う男とはいえ、まだ子供の時はそこ迄ではない。


とある幼稚園で、おままごとをして遊んでいた。


男の子が主夫の役をしていた時の事だ。


※この世界は女が働くのが当たり前で、主夫はまず叶わない夢です。


勿論、この夢のおままごとは競争力が激しく、なかなか相手に選ばれないのだが...それはさて置き。


男の子が 泥と砂でお団子を作って女の子に差し出した。


「ご飯が出来まちた、食べて」


「あやた、いつも家事ありあとね」


仲睦ましく家族に見える。


だけど、女の子は...泥団子のおかずに、泥水のお味噌汁に砂のご飯を泣きながら食べている。


この子は虐めにあっているのか...違う。


本当に喜んで食べていて感動して泣いている。



周りの子は、遠巻きに羨ましそうに見ている。


この料理はお母さんがつれていく、最高級のフレンチを上回る。


周りの誰もがそう思うだろう。


彼女は一つの夢を叶えてしまっていた。






多分、この後、この男の子は成長するにつれ、こんな事はしなくなる。


そして、多分彼女を嫌うようになるだろう。




だが、土や砂とはいえ【男の子の手料理を食べた】


それは彼女の心に一生、幸せな思い出として残るだろう。



ちなみにこのニュースがテレビで放送されてから、匿名だったのに幼稚園の場所がバレ...土団子を求めて女が殺到した。


その結果、くだんの男の子はトラウマを抱え転園していった。




男の手料理...それはこの世界に置いて、とんでもない価値がある。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る