第4話 白百合京子 奇跡の様なお昼の時間。

私は、今日全速力で学校を後にした。


本当に急がないといけない、急がないと間に合わなくなっちゃう。


早く帰らないとお母さんがデパートに行ってしまうから。


周りの目なんて気にしてられない。


心臓がドキドキして張り裂けそうだけど、構ってなんていられらない。


早く、速く、体の限界を無視して走った。


ようやく、家に着いた時にはお母さんはカギを閉めて出かける所だった。


「ハァハァ~待ってお母さん」


どうにか間に合った...本当に良かった。


「どうしたの京子、そんなに息せき切らして」


「わ、私の分もお弁当買ってきてください」


「なぁに、貴方も食べたいの? だけど駄目よ、奈々子の弁友のボーイフレンドの分なの。奈々子が食べるのとは違うのよ」


「違うよ、私もようやく弁友が出来たの、だからお願いだから買って!」


「そうなの、まぁいいわ、そういう事なら貴方の分も買ってくるわね」


この子に弁友ねぇ~どんな子なのか、まぁ良いわ。


「ありがとう、お母さん」


「いいのよ、頑張って」



その日の夜。


奈々子は明日のお弁当の確認をしていた。


弁友がいる女の子には、一番気を使う時間だ。


「お母さん、何時もの四越デパートのお弁当買ってきてくれた」


「ええっ買って来たわよ」


「ありがとう、知君はこれしか食べないからごめんね」


この世界の男は甘やかされ【食に煩い】


その為、指定された食事を用意する、これも弁友を持つ女の子の仕事の一つだ。


「いいのよ、奈々子の為だもの、そのまま頑張って落として頂戴ね。その為なら母さんなんでもするわよ」


母親にとっても【息子】を持つのが一つのステータスになるから全面的に協力する。


「ありがとう、知君は普通の男の子だから競争相手も多いから大変なんだ、お母さん手伝ってね」


「はいはい」

「あれっお母さんお弁当が二つあるよ」


「それがさ、京子もようやく弁友が出来たみたいなのよ、だから同じ物買ってあげたの」


「お姉ちゃんが? 不細工なのに?」


「そういう事言わないの、多分相手の子もきっと不細工なんだと思うわ。だけどあの京子にようやく弁友が出来たのよ、応援してあげなさい」

「そうね、お財布代わりでもあのお姉ちゃんに男の知り合いが出来たんだから応援してあげなきゃ...だけどお母さん、お姉ちゃんの学校には北条東吾って、有名な不細工男子もいるんだけど...それじゃないかな?」


「まぁ京子は不細工だから、ブサメンの北条東吾でも仕方ないわ、そうねあの人なら京子でも付き合ってくれるかも?、まぁいずれにしても、奈々子、京子に男の人との付き合い方を教えてあげなさい」


「わかったわよ、お母さん...だけど私はあの人をお兄ちゃんって呼ぶのは嫌だな」


「そう言う事言わないの...京子だって家族なのよ」


「はーい」


この世界は何処までも男に甘く女に厳しい。二人の母、佐和子は昔、子役出身の国民的アイドルだった。


「佐和子の朝」という彼女主演のドラマは国営放送でも有名な連続ドラマで視聴率が38%を占める程。


そんな佐和子にしても、何とか物に出来たのは陰気で不細工な男だった。


それでも、それはこの世界では勝ち組。


男女比1対10の世界だから、単純に考えて10人に1人しか男を手に入れる女は居ない。


しかも、その貴重な男の多くは女性が嫌いだから結婚できる女性は恐らく3%位しか居ないのかも知れない。


そんな世界でSEXをして子供を作ったのだ、幾ら相手が不細工でも間違いなく勝ち組と言える。


結婚した後も佐和子は男に尽くした。


男が喜ぶ事の全てを考え心から尽くした。


だが、ある日男は「もう飽きた」そういって家を出て行ってしまった。


昔の自分に似た奈々子。この子は昔の自分にそっくりな美少女だ。


頑張れば、必ず男を手に出来るだろう。


まぁ今は少し高望みして、普通の男の子と付き合っている。


普通のレベルの男は競争相手も多く、金持ちの女も多い。


不細工ならまだしも、普通レベルの男の子なら女なんて幾らでもとっかえひっかえ出来る。


険しい恋だけど母として応援してあげようと思う。


逆に京子。この子は凄くブサイクだ。スタイルは昔の私みたいに良いのに、顔は陰気なあの人そっくり。


女の子としては終わっているわね。


だから、今まで女の人生を諦めていたはずだった。自分でも解って筈なのに、ここにきて弁友が出来た。


こんな子と付きあってくれるのだ、きっと不細工なはずだ、もしかしたらブサメンで有名な北条東吾かも知れない。


そうでなければ、お小遣い目当ての子かも知れない。


それでも、この子みたいな女の子は普通は相手にしない、件の北条東吾は別だけど。


北条東吾以外なら、多少のブサメンでも月15万円位までなら出してあげても良いかも知れない。


そう思った。



「お母さん、お風呂あがったよ」


「そう、随分ゆっくりだったね」


「うん、隅々まで洗っていたから」


「お姉ちゃんの弁友ってどんな人?もしかしてブサメンで有名な北条東吾だったりして...」


「違うよ!うん、私には勿体ない位、かっこよい人だよ王子様みたいにね」


「そうなんだ、写真とかある?」


「流石にそこ迄はまだ...」


「そう、じゃぁ今度撮ったら見せてね」


流石にハードルが高いよね、私だって一緒に写真を撮ってもらえるまで半年以上かかったんだから。


絶対に知君には敵わないわよね。だって知君は普通の男子なんだから。


可哀想だから比べないようにしよう。


「わかったよ。写真撮ったら見せるね」


「お母さんにも見せてちょうだいね」


「うん」


多分、見たら吃驚するだろうな...



【次の日の昼休み】


白百合京子はソワソワしていた。


何時もは惨めったらしく独りで食べていたお弁当だが、今日からは弁友がいる。


しかも、その相手は超がつく程のイケメンなのだ京子でなくてもソワソワするに違いない。


まして、京子は男の子とは無縁の生活を送っていたのだから、その喜びは一際大きい。


待ち遠しくてチャイムが鳴ると、すぐに教室を飛び出した。


少しでも良い場所を取る為には必要な事だ。


事実、ベンチがとれなかった為に男の子の機嫌が悪くなる、そんな事もある。


京子の狙いは日当たりが良い端っこ、それ程までに熾烈な場所じゃない。


約束の裏庭につくと、失敗がないように、すぐに持ち物をチェック。


母が用意してくれた四越デパートの弁当OK。


ウーロン茶、お茶、コーラーOK。


レジャーシートOK、うん、忘れ物は無いよね。


私がお弁当をチェックしていると待ちに待った黒木君がきた。


「白百合さん、もしかして待った?」


「待ってないよ?今きた所」


「そう、なら良かった」


「うん、それじゃ用意するからちょっと待ってね」


「凄いね白百合さん、レジャーシートまで持って来たんだ、凄いね」


「勿論、今支度するから待っててね」


「僕も手伝うよ」


うわぁ、周りの目がちょっと痛い。


確かに驚くよね、こんな風に手伝ってくれる男の子なんて普通はいないもんね。


「はい、これ早速食べて」


「あれっ何で白百合さんは食べないの?」


不思議そうな顔で黒木くんが見つめてくる。


きょとんとしてて凄く可愛く見える。


「男の子の給仕をするのが普通だと思うんだけど?」


「えぇーそれじゃ楽しくないから一緒に食べようよ」


「いいの?」


えーと、これは何処かのライトノベルか少女漫画なのかな?


男の子と一緒に食事...信じられない。


「いいの、いいの」


黒木くんは軽く流すけど...これ凄い事だよ?


「じゃぁ早速、食べよう」


「白百合さん、それ何?」


「これ、黒木君に喜んで貰おうと思ってデパートで買ってきて貰ったんだよ?」


「確かに、美味しそうだけど、僕は白百合さんの手作りの方が嬉しいかな」


これは夢に違いない...もしかして私まだ家で寝てるのかな?


「女が手に触れた料理で良いの?」


男は女を基本嫌っていて女が手に触れた物は基本食べたりしないはずなんだけどな。


「白百合さんなら気にならないかな。むしろ嬉しい」


「本当、じゃぁ明日から私作ってくるね」


「ごめんね、催促したみたいで」


「全然、むしろ嬉しい事だから」


男の子にご飯を作るなんて少女漫画かドラマとかの架空の話だと思っていたよ..実際に奈々子ですら、ううんお母さんですらした事が無いんじゃないかな?



「それじゃ、僕もお弁当を作ってきたから一緒に食べようか」


から揚げにハンバーグに卵焼きとサンドイッチがあった。


「これ黒木君がつくったの?」


「うん、美味しいかどうか保証はしないけど」


私の為のお弁当...幸せ過ぎだよ。


【周り】


「私、幻覚を見ているのかな? あそこに手作り弁当を持っている男の子がいるよ」


「私にも見えているから幻では無いと思うけど...信じられない」


「いいな、あれ...」



【男がつくったお弁当】


この世界で料理をする男は殆どいない。男女比1対10なので男は基本何もしないのが当たり前だ。


傲慢な性格が多いので家事なんてする男はいない。


実際に男が握るおにぎりやさんが過去に話題になったが、おにぎり一個1万円でも繁盛していた。


それでも店主の男は面倒くさいと閉店した。


また、一部上場企業の社長の夫は妻の為にレトルトのお味噌汁を入れてあげるのだそうだ。


ただ、お湯を入れるだけのお味噌汁。それでも男が作ったというだけで手料理でその価値は高い。


もし、本当に男が作った物なら、お湯に塩を入れただけの物をスープです。と出されてもお金を出す女は山ほどいる。




「本当に食べて良いの?」


「白百合さんの為に作ったんだから食べて貰わないと困るかな」


おいしいよ、おいしいよ、おいしいよ、おいしいよおいしいよ、おいしいよおいしいよ、おいしいよ


こんな経験普通はあり得ないよ?


「白百合さん、そんなに急いで食べなくても」


「あっごめんなさい」


「まぁ、嬉しいけどね、それより、はいお茶」


「ありがとう」


【周り】

「なにあれ? まさか、あれ男の手作り弁当なの?」


直接見たにも関わらず、未だに信じられない子すらいた。


「嘘、あれが彼の手作りなら10万円だって出すわよ」


「何、馬鹿な事言っているの? アレを彼が作ったと言うなら相場は30万~のオークションでしょう」


「あっ、今お茶を注いでいたわ、男が給仕するなんて信じられない」


「何、あれ...私は夢をみているのかな?」




「どうだった、白百合さん」


「とっても美味しかった」


男の子が作ったお弁当が不味いなんてあり得ないよね。


例え、デスソースまみれでも完食しちゃうよね...しかも本当に美味しいんだから。


驚きだよ。


「そう、それは良かった。所でこのお弁当半分食べてくれない?」


「どうして、美味しくなかった? ごめんなさい」


「違うって、ただ流石にお重は多すぎるよ」


「要らない物は残して良いよ?」


「残すのは勿体ないから、食べるの手伝ってね、、、はい、あーん」


「あっ あーん」


このあーんはずるい、こんな事されたら、女なら例え吐く程苦しくても食べてしまうだろう。


結局、私は黒木君のあーんに負けてお腹一杯を通り越して食べさせられてしまった。


「「ごちそうさまでした」」


「そうだ、黒木君お願いがあるんだけど」


「うん、何」


「一緒に写真を撮って欲しいんだけど?」


「僕と?」


「駄目だよね?」


流石に駄目だよね。




【周り】


「あーああいつ勘違いしちゃって、男が簡単に写真なんか撮らせるわけないのに」


「あれで嫌われるよ、馬鹿だよね」


「うん、僕で良いなら、、せっかくだからくっついてと、スマホ貸してくれる?」


【周り】


「嘘だ、あんな男がいる訳がない」


「だけど、あれ」


うっそ、肩組まれちゃった。こんなのってあるの?


そして黒木君はポーズを取ると3枚シャッターを切った。


「はい、これ」


「あああああああありがちょう」


私が動揺して噛んだのは仕方ないと思う。


「はい、次は僕の番」


再び、黒木君に肩を抱かれる。


そして黒木君は自分のスマホで同じような写真を撮った。


私は顔を真っ赤にして固まってしまった。


「ごめん、馴れ馴れしかったかな、嫌だったよね?」


そんな事ある訳がない。女ならお金を積んででもして貰いたい事だ。


「そんなこと無い」


それしか言えなかった。


「これ、待ち受けにするね」


嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ


これは夢だ絶対に、だがつねった頬っぺたは凄く痛かった。


「白百合さん面白いー」


彼の楽しそうそうな黒木くんの笑い声が聞こえてきた。


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