第17話 調査開始
「でも付喪神じゃないなら、雪乃はどうやって探すつもりなんだ?」
困ったように眉を下げる一条くんに、少し胸を張る。
付喪神が宿っていないからといって、別に探せなくなったわけじゃない。
ちょっと大変になるだけで。
「付喪神は、大切にされている
「まあ、つまりは聞き込みだね」
屋敷を回りながら寄木細工を呼ぶという方法を考えていたけど、目当てのものに命が宿っていないのなら仕方ない。幸いこの屋敷に古い物はたくさんあるし、手間はかかるけど成果は得られるだろう。
「雪乃、頼めるか?」
「――うん、任せて」
目を閉じて、深呼吸する。
そのまま眼鏡をはずして、手探りでウエストポーチに入れた。
「なるほど、眼鏡で見えなくしていたのか」
「!だからあのとき、眼鏡をかけてなかったんだ!」
「静かにして」
三人のやり取りを聞き流しながら、私はそうっと目を開けた。
『やっとその忌々しい目隠しをとってくれた!』
『聞こえる?聞こえる?もう聞こえてるよね?』
彼らの姿が見えたとたん、たくさんの声が耳に飛び込んでくる。
彼らは特に好奇心が強くて弱い子なのだろう。ただ自由に動けることが楽しくて、その命がどれほど得難いかわからない。だから本体から離れていられる。
今ここいるのは十ほどだが、
「いたか?」
黙り込んでいる私を心配して、一条くんが声をかけてくれた。心なしか少し目が輝いている。
(そうだ、いつもみたいに自己完結しちゃだめだ。一条くんたちにも分かるようにしなきゃ)
どう説明すべきか悩んで、私は見たまま話すことにした。
「予想よりいっぱいいるよ。大広間の方から来てる子もいるみたい」
長い尾を持つ金色の鳥がそうだ。つぶらな瞳でこちらを見上げる姿がかわいい。
ほかにも絵本に出てくる妖精のような子もいれば、ころころとした小人のような子もいる。
「へえ。……だめだ、カメラには映らないや」
スマホを持ったまま、白鳥くんは残念そうにつぶやいた。
それを横目に、私はひとまず目の前の子たちに声をかけてみる。
「この部屋に住んでいた人のこと、わかる?」
『わかる!わかる!優しくて綺麗な人だった!』
『アタシたちを大切にしてくれていた!』
『でも、ちょっと前に亡くなったのよ』
きゃらきゃらとまるで幼稚園のように騒がしい声が部屋に広がる。
ここまで騒がしければこの家の人から苦情が来そうだが、別に止めようとは思わない。この声は、私にしか聞こえないからだ。少し前まではこの力がそんなに好きじゃなかったけど、今は彼らの助けはとても心強かった。
「その人、千代さんが一番大切にしていた物があったんだけど、見覚えある?」
金色の鳥に尋ねる。子供のような会話の中で、一番はっきりとした物言いをしていた子だ。
『ええ、寄木細工でしょう?彼女、いつも肌身離さず持っていたから、置物である私もよく見かけたわ』
「!本当!?その寄木細工が見つからないみたいなの。どこかで見かけたりしないかな」
一条くんたちが息をのんだ。
期待を込めて金色の鳥を見つめるけど、帰ってきたのは申し訳なさそうな言葉だった。
『ごめんなさい、きれいな目をした子。私は鳥の姿をしているけれど、飛べるようになったのは最近よ。大広間の外にはあんまり詳しくないの』
「雪乃、付喪神はなんて?」
分からないと答えると、一条くんは少し悲しそうな顔をした。でもそれは一瞬で、すぐにいつもの朗らかな笑顔に戻り。
「まだ最初だしな!付喪神も、ありがとう」
私が見ていたところに向かってお礼を言った。金色の鳥はじっとそれを見つめたかと思うと、ふわりと飛び立った。
『椿の間に行って。右奥のタンス、三番目の鍵付きの中に仲間がいる。彼女ほどの古株なら、きっと力になれるはずよ』
「え!?あ、ありがとう!」
金色の鳥はどれだけいうと、今更鳥のように鳴いた。ピイ、ときれいな声が響き、騒いでいた他の付喪神はぴたりと静かになる。そして名残惜しそうに私を見上げるが、金色の鳥の後に続いてぞろぞろと部屋から出て行った。
よくわからないが、どうやら古い付喪神の居場所を教えてくれたらしい。私は教えてもらったことをそのまま一条くんに伝えた。
「椿の間か。確かにひいばあちゃんがよく使ってた部屋だが……」
「だが?」
「その、鍵がかかっているんだ。鍵は母さんが持ってて、今家にいないんだ」
アキくんが聞き返せば、一条くんはものすごく溜めて後にそういった。
本日何度目かの申し訳なさそうな表情に対して、アキくんは不敵な笑みを浮かべる。
「実はぼく、隠してることがあるんだよね~」
「このタイミングで?まあいいや。隠し事って何」
「ふふふ。実はぼく、ピッキングが得意なんだよね」
「「……は?」」
数秒の沈黙の後。
一条くんと白鳥くんは、まったく同じタイミングで間抜けた声を出した。
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