第一章 初めての依頼
第5話 入学
四月だ。とうとう英蘭学園中等部に入学する日がやってきた。
憧れの制服に袖を通し、私は身を引き締める。
白いジャケットに、灰色のタータンチェックのスカート。ジャケットの袖口とスカートの裾には、学年カラーのラインが入っている。私の学年は水色で、二年生が黄色、三年生が紅藤色だ。リボンは自分で結ぶタイプで、きゅっと閉めると少し大人になれた気がした。
眼鏡が汚れていないかを念入りに確認して、忘れ物がないかもう一度確認する。最後に髪をいつも通り結ぼうとして、やっぱりやめた。髪をおろしただけでも大分印象変わるし、少しは顔を隠せると思ったからだ。
入学式はつつがなく進んでいく。
眠らせようとしてくる校長先生の話をよそに、私は小学校とまるで違う空気にドキドキしていた。
ずっと憧れていたお城のような校舎はピカピカで、昇降口には大きなステンドグラスが輝いている。エアコンは標準装備で、加湿器どころかウォーターサーバーまでついている。
温水プールテニスコートコンサートホールから始まり、ドーム型の温室に乗馬部の馬用の厩舎まである。なんならお茶を飲むためのサロンもあった。なんというか、カルチャーショックである。
目立たないように周りを見回していれば、ふと周りがやけに壇上を気にしていること気が付いた。
いつの間にか入学式は大分進んでいて、もう外部生歓迎の挨拶まで進んでいるようだ。周りの女子……というか、雰囲気的に内部生と思われる子たちがそわそわしている。そんな空気に釣られて、私も前を向いた。
私たち新入生が座っているところは一番壇上に近い。
そのおかげで、マイクを持った生徒の姿はよく見えた。サラサラの黒髪はライトの光で天使の輪を作っていて、意志の強そうな瞳はまっすぐ前を見ている。全員の注目を集めているのに、まったく緊張している様子がない。
「初めまして、内部生代表の
一条くんがスピーチを始めると、女子たちは一言でも聞き漏らすもんかと恐ろしい表情で集中している。なんなら外部生の女子にも頬を染めている子が多い。
一方私というと、彼女たちとは全く違う方向性でそわそわしていた。
(あの黒いセーターの子だーっ!)
そう分かった瞬間、私はさっと顔を伏せた。
周りにこんなに人がいるんだから、私に気付くはずもない。そう分かっているけど、どうしても隠れずにはいられなかった。
そうしてじっと下を向いていれば、やっと一条くんが終わりの挨拶をした。実際には三分もたってないけど、私には気絶しそうなほど長く思えた。
パチパチと周りに合わせて拍手する。
ほっと一息ついて顔を上げてば、バチリと一条くんと目が合った。気がした。
(えっ!?たまたまこっちを向いただけだよね?私を見ていたわけじゃないよね?)
私が意識しすぎていて勘違いしたんだろう。一条くんもすぐに目をそらしたし、きっとそうだよね?
心臓に悪い入学式が終わり、クラスへ向かう。私は一年C組だ。
外部受験組は全員同じクラスというわけではなく、内部生と一緒に振り分けられている。どのクラスも内部生のグループが既にできており、外部生は少し肩身狭い。
「これから毎日平民と一緒に過ごすなんて!一条様とも桜二様とも同じクラスになれなかったし、ホントに最悪!」
「お二人ともA組じゃ、アタシたちは休み時間しか会えませんね」
休み時間になったとたん、教室の後ろの方からとんがった声が聞こえる。
その中でも一番目立つのが
(最悪はこっちのセリフだよー!五クラスもあるのに何で一緒になるの……)
クラスのみんな……特に外部生が目を付けられまいと静かにしている中、そんなことなどお構いなしに私の席までやって来た子がいた。
「うわ、またやってる」
「アキくん!」
そう言って机に手を置いたのは
絵の才能が評価されて、小学四年生の頃に英蘭学園初等部に特待生として転入したのだ。小学校で人間関係に悩んだ私に、英蘭学園を進めてくれたのもアキくんである。
「まさか同じクラスになれるなんてね。またユキちゃんと同じ学校に通えるの、ぼくはすごく嬉しいよ。だからあいつらは気にしなくていいんだよ。あんなの、夏場のセミと同じだから」
それはすごくうるさいってこと?やっぱり綾小路さんはいつもあんな感じなのかな。
ああいう派手な子には嫌われたくないけど、確かに綾小路さんの場合は関わらない方がよさそう。
「うん、そうする。私も心細かったから、アキくんと同じクラスになれて良かった」
「ふふ、分からないことあったら何でも聞いてね~」
そう言うと、アキくんはえへんと胸を張った。柔らかい茶色のくせっけが揺れる。
……身長が伸びることを考慮したのか、制服がぶかぶかだ。そのせいで、頼もしいというよりかわいいと思ってしまう。怒られるから言わないけど。
そうして二人で話していると、ざわっと廊下が騒がしくなった。
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