絶叫

 ぐらぐらする。これはなんだ? なんだってこんなものが見えるんだろう? 夢を見てるんだろうか?

 だってにおいさえ違う。今の今まで、さわやかな海風の香りがした。土のにおいさえさわやかで、木のにおいも草のにおいも、遠くて薄かった。こんなに胸につかえる、鼻につく、卵の腐ったにおい、錆びたにおい、かさついた空気はしなかった。

 ひまわり畑だった方へ向かって坂を駆け下りる。ぼこぼこの道に足をとられて転んだ。手のひらから肘へ電撃が走る。手のひらがじりじりする。膝、頬もあつく、立ち上がろうとした足の下のほうがずきずきする。地面をなでてみた。ざらざらする。指でつまんですりつぶしてみる。感触が変わる。とても小さな土の粒には茶色のものも透明のものも、あおっぽいものもある。肌に刺さりそうになったり、もっと細かく潰れたりする。陽の光を反射してきらきらした。

 土。土だ。

 顔を上げる。空が広い。雲がどこまでも続いている。下ろしていくと、街の建物が見える。赤茶色くくすんだ色をしている。陽光を反射してあかく光っていた。とても遠い。

 ひゅっ。息ができない。喉で詰まって、胸でっつっかえる。

「あ、」

 自分の声が自分じゃないみたいだった。頼りないのに、風の音にかき消されない。これだけの声が、やけに遠くまで行ってしまっているように思えた。

「ああああああ!」

 大きな声を絞り出す。声は吸い込まれずに広がっていく。だだっぴろい土だけの畑のどこまでも。足が急に立ち上がった。足が動かせる。動く。早く、早く。坂を駆け上がる。坂の頂上にバイザーが転がっている。スライディングでバイザーに飛びついて、かぶる。電源を連打。点かない。点かない!

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