短夜

 街灯が地面をまっくろく照らす道を辿って帰宅した。

 あの小屋はドアを開放できたらあとの仕事は簡単で、氷を運び出し結露を拭き取り、温度設定を適温に変え、温湿度計も変えてきた。それでも一人と一匹では夜までかかってしまった。

 帰宅後キャリーケースを放り出したら、先に中で寝ていた夜墨がびょんと飛び出した。伸びをする猫を見ていると、こんなに長かったけと不思議に思う。夜墨は毛むくじゃらで熱くて、撫でる手のひらに毛がへばりついてくる。ごろごろ床でくねくねする夜墨を撫で続けていると、眠かったことに気がついた。尻尾を掴みたくて、夜墨が尻尾をあっちこちに振るから掴めなくて、遊ばれているうちに眠っていた。

 身体じゅうが痛くて目が覚めた。床で眠ってしまっていたらしくてびっくりする。

 部屋じゅうが明るくてしろく輝いているみたいに見えて、定位置に座る夜墨だけが墨の染みみたいに黒かった。

「あー、寝ちゃったんだ」

 肩も腰も足もばきばきする。掴まなければ立ち上がれないくらいだ。今日はこのまま寝ていたい。研修所に休みの連絡をしなきゃ。

 すごく長い夢を見ていた気がするのに、思い出せないから体感はあっという間だ。もう昼だから、半日以上寝ていたっていうのに。

 おかしいな、変わったことなんてなかったのに、こんなに、ふらふらになるくらい滅茶苦茶疲れている。ふとんがこんなに柔らかくてあったかくて気持ちがいい。ふわふわ、くろい尻尾が目の前で揺れている。

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