すいか

 黒猫は着々と行動範囲を広げた。広げるうち、黒猫は猫らしくふるまうようになった。うなり飛びかかってきた猫に、同じように飛びかかってみたり、飼い主の家で物に身体を擦り付けてみたり、室内といわず外といわず床でごろごろのたうち回ってみたりした。

 そうして得た取り巻きを連れ、黒猫は住宅地より街の外縁へ向かうことが多くなった。二日に一回のペースだ。街の外縁は住宅地をひまわり畑が縁取り、その外側は野菜類の畑が広がっている。街の住民からはGPSで位置情報しか探ることのできない場所だった。



 畑には電柱が立ち、電線が繋がっている。大きな送電塔も見える。

 傾ぎ赤茶けた電柱と電線は未だに生きているらしい。夜墨はすいか畑の中で上背を伸ばした。取り巻きの猫たちは転々と割れたすいかに群がっている。野良犬かイノシシか、ほかの何かが割ってあらかた食べてしまったすいかたちだ。ハエが飛ぶ中、猫たちは先を争ってすいかに頭を埋める。

 この街には食べるものが少ない。猫たちや、夜墨が食料とするものがとても少ない。野ネズミなんかは他の獣たちと取り合いになっている。

 赤く焼けた土はかさかさとして熱い。水気もなく、伸び放題の作物たちはからからと細く干からびていた。

 ぼつっ。土に丸い黒い点が付いた。ぼつ、ぼつ、ぼつぼつ、ぼつ。点は小さくなったり大きくなったり、数を増やす。

 ぎゃん。猫たちが恨めしそうに鳴いた。ぱっと来た道を走り出す。

 夜墨はとたんにくらく灰色になった目の前にじっと目を凝らした。なにか近づいてくる。足音。

「いたいた、やっちゃん!」

 ヘルメット型バイザーを装備し、視界をバイザーで覆った夜墨の飼い主が傘を差し立っていた。

「雨がすごいっていうから、探したんだから。もう、こんなとこに来ちゃったらまた誰かに拾われちゃうよ」

 ヒトは泥だらけの猫の身体を抱き上げた。黒猫はきょとんとして飼い主を見上げる。夜墨にはバイザー越しの飼い主の表情は見えなかったが、雷の唸る雷鳴を聞いて恐ろしく思っていることはわかった。

 

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