Root 04 実は、違ったの。


 ――白昼堂々と、誰もいないはずの空間を奏でるバイオリンの音色。



 バイオリン? ほらほら、確かにバイオリンでしょ? 僕の耳は、まるで小型探知機のように感度がいいから、微かな音でも聞き逃さないし、間違わないからピアノとは。


「聞こえるのは黄昏時……と、噂されてたけど、

 切ないピアノの音が印象的だったと。聞こえてくる場所は密室だから、誰もいないはずだけど、ほらほらこっちこっち……」と語りながらも、僕を案内する怜央れお君。でも、この手の展開は苦手なはずだけれど、二階から三階を足も留めず上ってゆく。言うか言うまいか悩んだけど……


「えっと、大丈夫なの? これ奏でてるの、幽霊かもしれないよ?」

 と僕は言った、ハッキリと声も大にして。怜央君が掴んだ僕の手を離さないから。


 それ以上に、ちょっと意地悪したくなったから。


「大丈夫じゃない。ギシギシと床も軋んでるし、ピアノじゃなくて葉月はづきの言う通りバイオリンだから。ダメだよ、予想外なことしてくれちゃダメなんだから……」という具合に怜央君は、自分で自分に恐怖を煽っているの。笑いそうになったけど、ちょっと可愛そうになったから

「戻る? 怜央君が手を掴んで離さないから、僕は裸のままなんだけど」


 と、そうなの。絵を描く時のスタイルは全裸。さっきまで没頭していたから……


 思えば、服を着ていなかった。怜央君になら大丈夫だけど、もし他の子や幽霊と遭遇したのなら、やっぱり全裸は抵抗がある。ちゃんと服を着てから、再度トライだ……


 僕らの制服はブレザーだけど、今は夏休み期間ということもあり、ラフな格好だ。


 ワンピースのような長めのシャツ。色は水玉模様だ。


 対する怜央君も、深緑のTシャツ、紺色の短パンだ。


 お外は猛暑。体温を超える危険な暑さ。やはり冷房完備は外せない。ただでさえ、この建物には僕ら二人……のはずだから。そして顧問の先生はこの近くに暮らしている。僕の師匠となる先生だ。何かあったら駆けつけてくれる強い味方だ。やや神出鬼没気味なだけに、先生自体もまた、七不思議に含まれている存在といえよう。



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