8月6日

「……雨だ」


 自室の窓の向こうで降る雨を見ながら俺は忌々しそうに言う。今日は部活が無いから、午前中と午後の二回オオバさんのところへ行きたいと思っていた俺にとって雨が降っているのは本当に恨めしい。

別に行っても良いのだが、雨の中でも約束をしているとなれば、流石に両親に怪しまれるし、今日は父さんも家にいるから、そんな事をしてはオオバさんの存在やこれまでの関係がバレてしまう可能性が高くなる。

だから、僕はオオバさんに会いたいという想いを抱えたままで燻っているしかなかったのだ。


「会いたい……」


 会いたいという気持ちが口をついて出てくる。思春期という異性に対して色々敏感な時期だからかオオバさんという異性への興味関心はとても強く、それと同時に性欲も強いからか昨日までの五日間に数時間もオオバさんの体を好きに使わせてもらってもその日の夜にオオバさんの事を思い出すだけでたまらなくなって、つい自分を慰めてしまう。

正直、オオバさんに会いたいと思うのは、オオバさんを特別な異性だと思っているからだけじゃなく、日中の数時間だけとはいえそうした異性との交わりを快くさせてくれるからでもある。でも、オオバさんが好きなのは間違いない。歳が離れていても僕にとってオオバさんは素敵な女性でそういった行為をしたいと思える相手なのだ。

そんな事を考えていた時、部屋のドアが開き、母さんが顔を覗かせた。


「青志、お母さん達昼過ぎまで買い物に行ってくるけど、何か欲しいものはある?」

「……特に無いかな」

「わかった。まあ、雨なのは仕方ないから、おとなしく勉強でもしてなさい」

「うん……」


 がっかりしながら答え、母さんはそのまま去っていった。そしてベッドにもたれながらボーッとしていたその時だった。


「……ん、チャイム……?」


 突然玄関のチャイムが鳴った。こんな雨の中でと思ったが、およそ宅配員か誰かだろうと考えて僕は面倒だと思いながら玄関へと向かう。そして気だるさを感じながらドアを開けると、そこには予想してなかった人がいた。


「え……お、オオバさん……!?」

「こんにちは、青志君」


 いつもの白い服で白い傘を差しているオオバさんが微笑む。オオバさん自身が来てくれた事に嬉しさはあったが、家を教えた覚えがないのにどうしているのだろうという驚きの方が勝っていた。


「え……ど、どうして……?」

「今日は青志君が来れないかなと思ってたら、私が会いたくなっちゃった。いつも来てる方に行けば見つかるかなと思ってたんだけど、本当に会えるなんてね」

「ぼ、僕も嬉しい、です……」

「それは良かったわ」

「あ、あの……」


 オオバさんを見ながら僕はどうしたら良いのかわからなくなる。それもそのはずだ。何故なら、傘を差してきたにしては服が少し濡れており、濡れた部分が体に張り付いて、その見事な体つきがくっきりとしているからだ。

けれど、このままではいけないと思った僕は気持ちを落ち着けてから口を開く。


「あの……よかったら上がっていきませんか? 少し濡れているみたいですし、このままじゃ風邪を引きますから……」

「たしかにそうだけど、ご両親に黙ってなんて良いのかしら?」

「だ、大丈夫です……二人とも昼過ぎまで帰ってこないですし、雨に濡れていた人を放っておけなかったからって言いますから」

「あら……ふふ、それなら嘘にはならないかしらね。それじゃあお邪魔させてもらうけど、せっかくだからまた色々青志君に手伝ってもらいたいわ。その分、ちゃんと“お礼”はするわ」


 強調されたお礼という言葉に僕はドキリとしたけれど、それと同時に邪な期待をしながらオオバさんを家に上げ、他に誰かが来ても留守だと思い込ませるために玄関の鍵をしっかりと閉めた。

昼過ぎ、両親が帰ってきて風呂場が少し濡れていた事やカップが二つシンクに置かれていた事などを聞かれたが、僕は用意していた言葉を言い、それに納得する両親を見ながら今日のオオバさんとの一時で得た快感を思い出してこっそり身を震わせていた。

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