8月1日

「……暑いな」


 ジリジリと照りつける太陽の日射しを浴びながら僕は滲む汗を手で拭く。ヒヤリとした汗の冷たさも日射しの暑さですぐに温くなり、手には乾いた汗のベタつきだけが残った。

今日からウチの学校では夏休みが始まったが、他の学校よりは少し遅い事から、生徒達からは結構例年不満が出ているという。

だけど、それでも変わらないのは理由があるんだと思うが、7月中に他の学校の奴が楽しそうにしているのが羨ましかったのは間違いないし、変わったら良いのになという思いはある。


「まあでも、夏休みになった事は嬉しいな。ただ……部活仲間とどこかに出かけるみたいな事はないから、こうして午後に散歩するしかないんだけど」


 僕はあまり人付き合いが得意じゃない。クラスに友達はいるし、部活仲間と折り合いが悪いわけでもないが、誰かが楽しそうに予定を決めているところに自分から近づいていけなかったりそもそも頭数に入ってなかったりするのだ。そのため、宿題を片付ける以外はこうして一人でぶらつくしかなかった。


「さて……学校の方に歩いたら何かあるかなと思ってきてみたけど、何か面白い物はないかな」


 これといったイベントもない中で期待をしながら歩いていたその時、生徒達の中でたまに話題に上がる廃墟が見えてきた。その廃墟は庭に面した縁側などがある少し古風な一軒家であり、昔誰かが住んでいたという情報しかなかった事から、前々から来てみたかったのだ。

今がそのチャンスだと感じ、僕はその廃墟へと近づく。すると、誰もいないはずの家の中から小さな唸り声が聞こえ、それを疑問に思いながらも更に近づいていくと、白くスラッとした足が縁側に現れ、俺が縁側のそばまで来る頃には純白の胸元が少し緩めの薄い服を着た色白の長い黒髪の女性が姿を見せていた。


「だ、誰だ……?」


 誰もいないはずの廃墟にいた謎の女性。冷静に考えれば色々な予想が出来たと思うが、日射しを浴びながら眩しそうに目を細めるその女性が俺にはとても美しく見え、薄い服越しでもわかるスタイルのよさは女性への耐性がなかった僕の性欲を強く刺激した。


「あ、あ……」


 興奮した。その体つきと滲む汗でキラキラと光る素肌がとてもたまらなかったのだ。別に胸と股間だけを隠した水着姿や露出の多い服装というわけではなかったのに、その女性の立ち姿は若かった僕には刺激が強く感じ、陰からその姿を見るだけじゃなく、その体に触れたいという欲求をかきたてられていた。

だからだろうか。止めておけという自分の意思に反して体が動きだし、その人に近づいて行ってしまったのは。だけど、その人が僕に視線を向けた事でもう隠れる事は出来ず、話しかける事も出来ずにモジモジしていると、その人は僕の姿をじっくりと眺めてから嬉しそうに笑った。


「そんなに緊張しなくても良いわ。私はオオバ、貴方は?」

「ぼ、僕は……夏野なつの青志あおしです……」

「青志君ね」

「あ、あの……ここって廃墟のはずですよね?」

「そうね。でも、誰も住んでいないから私がとりあえずお世話になる事にしたのよ。ここなら静かだし、のんびりと出来そうだから」

「そ、そう……ですね……」


 緊張しなくても良いと言われたが、オオバさんはこれまでに見た誰よりも綺麗で扇情的な雰囲気を出していたため、僕は更に緊張していた。

その姿を見たオオバさんはクスリと笑うと僕と目線を合わせるために少し屈む。その行動によって僕の視界にはある物が映り、それに顔を赤くしていると、オオバさんは俺の頬に両手を添えた。


「……ふふ、熱いわね。ねえ、時間があるなら少しここで涼んでいかない?」

「え……」

「このままだと熱中症になっちゃいそうだし、まだ緊張しているようだから、少し解してあげようと思ってね。私のマッサージ、とても気持ちいいのよ?」

「あ、え……」

「まあ、もしかしたらもっと熱くなっちゃうかもしれないけどね。ほら、早く上がってきて」

「は、はい……」


 夏の暑さと照れによる熱さでボーッとした頭で答えた後、俺は靴を脱いでからふらふらと縁側に上がり、オオバさんの後に続いて和室へと入ると、オオバさんは少し破れた障子を閉めた。

その後、上手いというオオバさんのマッサージを受けた僕は、その日、暑さと熱さの中で一人の少年から男になったのだった。

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