第6話 会談

006 会談


1567年(永禄10年)

年が改まり、春になった。

西戎将軍の一行は、西に向かっていた。

陸地では、戦闘を避けることはできそうにもないので、船旅である。

彼らの目的地は中国地方である。

中国地方の雄、毛利元就との会談であった。

毛利隆元が、死をまぬかれたため、実現したといえる。

このころの毛利はいよいよ、尼子を滅ぼし、追い散らしたような状況である。

月山富田城までは、かなり遠い、一気に下関を通過し、日本海にでて向かうことになった。

宿敵ともいえる小早川水軍であるが、さすがに攻撃は仕掛けてこない。

しかし、このころの九鬼水軍の軍船はかなり凶悪になっていたため、攻撃すれば相当な被害はやむをえなかったであろう。


月山富田城は尼子氏の居城であったが難攻不落要塞と呼ばれていた山城である。

その城内の居館の一室で毛利元就ら毛利一族と鈴木九十九一家との会談が行われようとしていた。


なぜこのような事態になったのかは、毛利隆元が、金鵄八咫烏城で無理難題を吹っ掛けられたからである。

『謀神』と呼ばれる元就もすでに相当な高齢となっている。

相対する九十九はどう見ても20代にしか見えなかった。

このような若造が!しかし年齢はそれなりに行っているのだが、なんらかの作用であまり年を取ったように見えないのである。

「出雲制圧おめでとうござる」と男。

「こちらこそ、西戎将軍就任お目でとうございます」と元就は頭を下げる。

格的には、謎の称号『西戎将軍』の方がはるかに高いといえる。

「我ら鈴木は、日乃本の西側の仕置きを任されたわけでござるが、そこで中国の雄、毛利殿にお願いしたい儀がござったので、本日まかり越した。」

「いかなる仕儀でござろうか」


「では、某が」そこを戸次道雪が引き取る。

「我が殿は、石見銀山をご所望でございます」

「財布を他人に譲るような者がこの世におるのでしょうか」元就の顔色は一つ変わっていないが、吉川元春の顔色は真っ赤になっている。

「そうですな、しかし、その代わりに伊予を差し上げましょう。」

「つまり、実力で手に入れろと?」と元就。自分の力で勝ち取れとなれば、まさにただ働きもいいところである。

「いえ、我が水軍も合力いたしましょう、そのうえで制圧後に、差し上げましょう」

「どうも、分が悪うございますな」

「尼子の残党は我等が引き受けましょう」と道雪。

「ほう」初めて、条件が近づいてきたのか。元就の口調が変わった。


「どうされるおつもりか」

「我が殿は、尼子一党を配下に加えようと考えておられます」

「それでは、いずれこの毛利を攻めてくるといっているように聞こえますが」

「それは大丈夫でしょう、我らは、西日本の仕置き役です。皆が平和になれば問題ないのです」

戸次道雪の言っていることは、誰もが、うん?とうなりそうな考えだった。


「では伊予をえた後はどうしたらよいでしょうか」

「中国地方と伊予をしっかり統治されればよい」

「九州はどうなるのですかな」


「残念ながら、九州の半分は島津に、半分は鈴木にとなります」

「阿波、讃岐は?」

「これは、鈴木本家が押さえるでしょう」

「我々はこれ以上伸張できぬと!」と吉川。

「吉川殿!元就殿は高齢です」

「無礼であろう」


「重當殿、我が息子らを頼むことができるか」と元就。

「某のできる限りのことはさせていただきます」

「父上!」吉川元春はもとより、隆景、隆元も驚いた。

元就は、死期が近いことを悟っていた。もとより、それだけの高齢でもある。

「馬鹿者!儂が死ねば、まずは足元を固めねばならぬ、互いの連携を確認し、それで力があれば、鈴木家でも九州にでも攻め入ればよいのじゃ」と元就。

「左様でござる、戦国の世とはそのようなものでござる」と男。


恐らく、元就が死ねば、地盤が揺らぎ、それこそ、内部分裂の危機に見舞われる。

それを超えるためには、大きな勢力の力を借りることは理に適っているのである。

「伊予を取れば、石見銀山の権利は重當殿に差し上げましょう」と元就が了承する。


「我々はまず、尼子残党を取り込みましょう。その際、丹後丹波を攻略することになります」と道雪。

「それでは、鈴木家の力は」と吉川。

「黙れ、元春!」元就が叱咤する。


その時、意表を突く事件が発生する。

「殿様、私、隆景様と一緒になりたいと思います」突然、隆元を救ったということで一緒に来ていた、望月千代が言ったのである。


「何!」と男。

「え?」と名前を出された小早川。


「駄目じゃ千代殿!」と男。

「私には妻がおります」と隆景。

「千代、幸せになりなさい」と望月父。

「馬鹿な、そのようなことは、儂が認めん!」と男。


「絶対だめじゃ!だめなのじゃ!おお千代殿!」手足を振り回して泣き叫ぶ男。

「少し失礼、殿が少し取り乱しているようじゃ」と望月。

「おい、早く連れていけ!」と戸次。

男は、近ごろ傘下に入った巨人達(真柄兄弟)に脇を抱えられて退室させられる。

「元就殿、失礼しました、我が殿は、日ごろは常に冷静沈着にして、古今無双の知恵者なのですが、このお千代殿に関しては、少しでしてな」と道雪。


「どうですかな、隆景殿、このお千代殿は、非常に美しく、頭がよい。それに、殿の副官の、望月出雲の娘です。」と勧める道雪。これは戦略の一環だったかのような落ち着きぶりである。


「やめろ~だめだ~離せ真柄~」遠くで声が聞こえる。


「しかし、私には妻がおります」と小早川隆景。彼は非常に美しい顔立をしている。いわゆる美男子である。

「ですが、跡継ぎはまだでしょう」と道雪。

「・・・・」彼には、跡継ぎができることはなかったのである。経緯は不明だが、どうも夫婦の関係ではなかったようである。少なくと、熱心ではなかったようなのである。


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