第11話 っていう柄じゃない

 当たり前だが俺は一介のマッサージ師でしかないし、だから専門の戦闘職には勝てる筈もない。 

 そもそも相手は聖騎士に天使族。

 瞬殺されてもおかしくない。

 それでも生き残っているのは単純に運が良かったからであり、あの後部屋ごと吹っ飛ばされた俺は這う這うの体で逃げ回っているのだった。


「……、……」


 ヤバい、死ぬ。

 ただのマッサージ師に対して明らかに過剰戦力だろ。

 というか逃げ場なんてないし、明らかにいたぶる気満々なのが伝わって来る。

 大体、シャナさんが目を醒ましたのをすぐに察した奴なのだ、感知能力を持っていてもおかしくないし、それが俺の居場所について分からないって筈がない。

 そもそも今、俺の事を襲っているのはステラさんとリルルさんだけ。

 他の「支配」されているという天使族の人間は現れない。


 舐めプしやがって。


 ちょっと腹が立つ。

 とはいえこれが勝機なのは間違いない。

 明らかに敗北する事を考えていないのは俺にとってはかなりありがたい。

 まあ、ただのマッサージ師に何を警戒するんだって話だが。

 兎に角、こうなった以上俺が出来る事と言えば一つ。

 持ってきていたエリクサーとナイフを取り出し、準備をする。


 さあ、短期決戦だ。



「ほぉ?」


 戻って来たボロボロの俺の姿を見、呆れたような声を漏らす魔族の男。

 

「まだ生存していたか」

「……分かっている事を聞くなよ」

「すぐにすり潰せると思ったのだがな。それとも奴等、案外大した事ないのか?」

「お前を、倒す」

「はは、やってみろ小僧。そのナイフで俺を傷つけるつもりか? 生憎だが、それは適わないだろうよ」

「やってみなきゃ分からない」

「なら、やってみると良い。もっとも、ここまで辿り着けられるか分からないがな」


 と、そこで案の定やって来るのは二人。

 ステラさんとリルルさんは相変わらず操られたままで俺に対して武器を構えている。

 ただまあ、良いや。

 現在、標的が見えている。

 だったら後は――


 


 ナイフを振るう。

 小さな剣斬。

 届かない一撃。

 だけど――


「ご、は……?」


 


「な、なん……?」

「ったく、ただのマッサージ師に無茶させやがって」


 ふらふらとした足取りでゆっくりと俺は地面に足を突いた男に近づく。

 ステラさんとリルルさんは既に正気に戻っていた。

 あとは、この男に止めを刺すだけだった。


「な、何をした、小僧!」

「何もしてない」


 俺は答える。


「ま、まさか……!」


 狼狽えた様子を見せる男。


「その瞳はまさか魔眼……!」

「そんな大層なものじゃあないよ」


 俺は頭を振り、ナイフを持った手を振り下ろした。


「ただの、ちょっと目が良いだけのマッサージ師だよ俺は」

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