3話 お詫びに

 「失礼しまーす」

「おや、ちゃんと来たみたいだね?いい子だ。」

次の日彼が生徒会室へ来るなり、彗は感心したように話しながら頭を撫でた。


「もう!子供扱いばっかしないでよ!で、どうだった?僕じゃなかったでしょ。」

「そう、君と昼食を共にしていた彼が犯人のようだ。疑って申し訳なかったね。」

郁利は昨日と同じく撫でられると、ほっぺを膨らませて怒る。

だか、自身が犯人でないことが証明できたので安心もしているかのようにも見えた。


「何かお詫びができればいいんだが…」

「それなら先輩、一緒にお昼御飯食べない?」

「…私でいいのかい?」

「うん!生徒会長さんってどんな感じで過ごしてるのか興味があってさ!」

彗がどうしようかと悩んでいると、郁利は唐突に食事に誘った。

彼は今までこのようなことはなかったのだろう。

驚いたように目を大きく見開いているではないか。


「君が良ければ、私は歓迎するよ。」

「やったぁ!先輩はいつもここでご飯食べてるの?」

「そうだね、いつも生徒会室にいるよ。」

「広いし、過ごしやすそうだね!」

彼の許可がでるなり、郁利は嬉しそうな表情をして近くのソファーに腰掛ける。

そして元気よくいただきまーす!と言うと持っていた袋からパンを取り出し食べ始めた。


「君はいつもパンを食べているのかい?」

「うん!購買で買ってるんだ。」

「購買?」

「え、購買行ったことないの!?パンとかちょっとしたデザートとか売ってるんだよ!」

どうやら彼は購買の存在を知らないらしい。

彗は食事をする郁利を横目にお弁当を取り出しては、相手の向かいのソファーに座る。

そして彼の話を不思議そうに聞きながら昼食を食べ始めた。


「ほう、学校にも買い物をする場所があるんだね。」

「先輩はお弁当だから基本行くことないのか。気になるなら今度一緒に行ってみる?」

「それは…私はいいよ。」

話を聞いているうちに、彗は購買に関心を持っていたように見えた。

しかし彼の発言を聞いて、急にどもった話し方になり誘いを断ったのである。

なにか不都合でもあったのだろうか?


「そっか。でも、またご飯を食べに来るくらいならいいよね?」

「あぁ、構わないが。」

郁利は先程の件についてはそれほど気にしていない様子だった。

ただ昼食は、再び共にしたいと思ったのか相手を惑わせるよう上目遣いで可愛く問いかける。

それに対し彗は、食べ終わった弁当を片付けながら平然とした表情で返答をした。

彼には郁利の手法は効かないようだ。


「むー僕の方を見向きもしないなんて。」

「ん、なにか言ったかい?」

「ううん、なんでもないよ!また遊びに来るね、先輩!」

彗の反応に郁利は納得いかないのか小さな声でぼやく。

その様子を見た彼が怪訝な面持ちで尋ねると、ぱっと表情を切り替え明るく話し始めたではないか。

そして彗にニコニコしながら手を振り、自身の教室へ戻って行ったのだ。


「面白い子だねぇ」

生徒会室を出ていった郁利を見送ると、いつもの会長が座る椅子へ腰掛け本を開きながら微笑んでいるようだった。

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