その16 パリィ練習!




「アカネ君。君なら、矢をパリィできるかもしれない。試してみるかい?」

「はい、お願いします!」


「ナオシゲ、弓を頼む」

「承知!」


 アカネはアルトの勧めを受けて、早速遠距離パリィを試してみる事にした。


「胴体を狙うから、準備ができたら言ってくれ」

「わかりました!」


 ナオシゲはアカネの返事を聞くと、彼女から距離を取って弓を構えて矢を番える。

 そして、緑の草原に映えるTE○GAカラー侍は、弓を引き絞りアカネの胴体に狙いを定めた。


 アカネは刀を中段で構えて深呼吸する。そっして、心を落ち着かせ集中力を高めると前方にいる真紅の侍に合図を送る。


「ナオシゲさん、いつでもどうぞ!」

「OK! では…… 参る!!」


 ナオシゲは掛け声と共に、アカネの胴体目掛けて矢を放つ。

 放たれた矢は、ヒュンという風切り音を立てて、一直線に飛んでいく。


 しかし、アカネは慌てる素振りも見せず、落ち着いて向かってくる矢の軌道を眺めていた。

 その様子に、アルトは内心舌を巻く。


(この子、度胸があるな。普通なら慌ててしまうはずなのに、冷静に観察している…)


 アルトがそう内心でアカネを評価する。

 ―が、


「はうぅ! こわい!!」


 ヘタレたアカネは、その場にしゃがみ込み矢はその頭上を掠めていった。


 アカネは涙目になりながら、アルトを見るとその様子を見た彼は思わず苦笑する。


「はははは…… やはり、いきなりは難しいかな……」


 紳士な彼は失敗しても責めたりせずにフォローしてくれた。

 そして、少女に優しく声を掛ける。


「まぁ、ゆっくり慣れていけばいいさ」

「はい……」


 アカネは顔を赤く染めながら立ち上がると、ナオシゲにも謝る。


「すみません、せっかく矢を射ってくれたのに…」

「気にしなくて良いよ。誰だって最初はそんなものさ」


 ナオシゲは笑顔で答えてくれた。まあ、面具で顔は見えないが。


「もう一度お願いします!」


 アカネが真剣な表情でナオシゲに頼み込む。

 彼女が奮起したのは、自分の活躍に道場の隆盛が掛かっていると勝手に思い込んだからで、そのためにはパリィが必須だと考えたからだ。


「その心意気は良し!!」


 ナオシゲはやる気満々のアカネを見て、自身も気持ちが猛る思いがした。

 そして、再び矢を番えてアカネに向けて放った。


「ひゃう! こわい!!」


 しかし、アカネは再び恐怖で腰砕けになる。今度は、矢はそのまま地面に突き刺さった。

 彼女は震えながらも立ち上がって、再び挑戦しようとする。



「あうぅ!! こわい!!」

「頑張れ、アカネ君!! 君の頑張りはきっと報われるはずだ!!」

「はい!」


 ナオシゲの声援に応えるように、アカネは立ち上がる。


「えうぅ!! こわい!!」

「立て、アカネ君! 立つんだ!!」

「はい!」


 その様子を見てアルトは、少し驚いていた。

 女性が苦手なナオシゲが、ノリノリでアカネに接していたからだ。


 まあ、アルトもナオシゲとはゲーム内で出会ってからの付き合いで、彼の性格の全てを把握してはいないので、「アイツにはこういう一面もあるのか」と友達の新たな一面を見て感慨にふける。


 しかし、先程からアカネが怖がってはしゃがんで回避を繰り返しており埒が明かないので、アルトは助言をしてみることにした。


「アカネ君。このままでは、時間の無― いや、効率があがらないから、別の練習方法にするべきかも知れない。そうだな…… まずは、現実で高速で飛んでくるモノに目を慣らすというのはどうだろうか?」


「例えば…?」


「バッティングセンターで、100km/h以上の球を打つとか…」

「にゃるほど!」


 アルトのアイディアにアカネは感心したような声を上げる。


「何事も焦らずに、じっくりと取り組もうじゃないか」

「そうですね」


(ああ、やっぱりお姉ちゃんと同じで、大人の年上の人って頼もしいな……。私もいつかはこんな大人になりたいな…)


 アカネが大人に憧れていると、”ピピピ…”という電子音と共に時刻通知ウィンドウが開く。


 これは、予め設定した時間に知らせてくれるもので、現実で予定がある人に重宝されており、

 アカネは就寝時間のために設定していた。


「すみません。明日学校があるので、もう落ちて眠ります。お二人共、今日はありがとうございました!」


 アカネは深々と頭を下げるとログアウトしようとすると、ナオシゲがフレンド登録を申し込んでくる。そんな彼にアルトは、大人らしい忠告をする。


「おい、ナオシゲ。習わなかったのか? 日本では俺たち大人の男が、女子学生とお友達になりたいって言ったら、通報されて(警察に)捕まるんだぞ?」


「Oh… それは困る……」


 ナオシゲがショックを受けたような声を漏らす。


「いえいえ! 私は通報なんてしませんよ!?」


 アカネが慌ててフォローする。そして、


「はい、よろこんでフレンド登録します!」


 こうして、アカネは二人とフレンド登録するとログアウトする。


「しかし、オマエが積極的に女の子とフレンド登録を申し出る日が来るとはな……。まあ、彼女可愛かったしな……。だが、さっきも言ったが犯罪になるから、ゲーム内での付き合いだけにしろよ?」


 アルトは感慨深い声でナオシゲに話しかけるが、最後はやはり忠告になってしまう。


「そんなんじゃないさ……。彼女を見守りたいだけさ…」


「そうか……。まあ、犯罪にだけは気をつけてくれよ。「さあ、オレたちもそろそろ落ちるか」


「うむ。明日も忙しい」


 二人は会話を打ち切ると解散して、それぞれログアウトするのであった。


 次の日―


「私がいない間に男の人二人とフレンド登録したの!?」

「うん…… 」


「やっぱり、私の予想通りさっそくお持ち帰りされかかっている…! マグロ漁船に向かっているよ!」


「だから、どうしてマグロ漁船!?」


 陽は彩音から、昨日のアルトとナオシゲとの経緯を聞いて、頭を悩ませていた。

 そして、そんな親友にツッコミを入れる彩音。


「とにかく、今後は私が見ていない時に知らない男性プレイヤーと接触しないようにすること。良いわね?」


「でも…… お二人共良い人だったよ?」


「あのね……。その二人が本当に良い人かはわからないのよ? 中には彩音ちゃんを喰い物にしようと近づいてくる男もいるんだからね! そしたら、彩音ちゃんなんて、直ぐにマグロ漁船だからね! いや… ベーリング海でカニ漁船だよ!!」


「カニ漁船!!? あぅ~……。わかったよぉ……」


 強く言う(言っていることは意味不明だが)陽に対して、彩音は涙目になりながら素直に従うことにする。

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