その14  騎士と武者






「どうしよう… 一か八か逃げようかな…。例え逃げ切れなくて、死んでも経験値をロストするだけだし… ここで時間を浪費するほうがもったいないかも… 」


 一か八か戦うとならない所が、何とも彩音らしい。


 アカネの頭上には先程から、HELP(ヘルプ)と書かれたマークがピコピコと点滅している。

 これはこのようにピンチに陥った場合に、周囲に協力を求めるシステムで一定の距離にいるプレイヤーに通知され、それを見た善意のプレイヤーが助けてくれるのだ。


 先程から木の影のアカネを狙って、結果その木に馬鹿みたいにボルトを発射していたゴブリン達は、行動パターンが変わったのか左右に散開を始める。


 このままでは、角度が変わって狙い撃ちされると思ったアカネは、打って出るか逃げるか選択を迫られる事になった。


(そうだ! 陽ちゃんに借りた盾を装備しよう!)


 アカネは慌ててイベントリを開くと、いつもは邪魔なので装備していない木の小盾を左手に装備する。


 ―が、木の小盾は大きめの鍋蓋のような作りで、とても防御力が高いようには見えない。

 というか、無かった……


 ゲームの設定として、小盾の長所は軽さとパリィの成功率で、敵の攻撃を100%防いでくれずダメージを通してしまう。


(HPゲージがどんどん減っていくよ~)


 そのため盾で防御しているアカネのHPゲージは、徐々に削られてゆきついに半分を切ってしまう。


(陽ちゃんの馬鹿~! このお鍋の蓋、役に立ってないよ~)


 彩音は陽に八つ当たりするが、盾の仕様を調べていないのは彼女のミスであり、陽からすれば「ググレカス!」と言いたいであろう。


 そんな風にアカネが嘆いていると、彼女とゴブリンの間に西洋の鎧に身を包んだ人物が、割って入り大盾を構えて、ゴブリンからの遠隔攻撃を防いでくれる。


 クロスボウから放たれたボルトは、大盾に当たるとキンキンと甲高い金属音を立てて弾かれてゆく。大盾は100%攻撃を防いでくれるので、もちろん彼にダメージはない。


 ただし、このゲームでは盾で攻撃を防ぐ行動でもスタミナゲージが減り、敵の攻撃が強いほどそれに比例してスタミナも消費するので、スタミナが0になった時点で盾防御ができなくなり、ダメージを受けてしまう。


 そのため、低レベルゴブリンの攻撃を受けてもスタミナは消費しているので、いずれはダメージを受けてしまう。


「救援に来たぞ!」

「ありがとうございます!」


 救援に現れたのは金髪碧眼のイケメンで、頭上にはプレイヤーネーム<Alto(アルト)>と表示されている。


 彼はアカネの窮地を救うと、ゴブリン達の攻撃を防ぎつつ、アカネに指示を出す。


「奴らはが引き付けるから、君はその間に体勢を立て直せ」

「分かりました」


「よし、いい子だ」


 アルトはそう言うと、仲間に指示を出す。


「ナオシゲ! 数を減らしてくれ!」

「承知!!」


 アルトの呼びかけに答えたのは、“赤備え”を彷彿とさせる全身真紅の鎧に身を包んだ鎧武者で、彼はアルトの前に躍り出ると十文字槍を構えて名乗りを上げる。


「やあやあ! 我こそNaoshige(ナオシゲ)! 義によって助太刀いたす! いざ尋常に勝負!」


 ナオシゲはクロスボウを構えるゴブリン達に向かって駆け出し、鎧にボルトを浴びせられながらも手近な敵に対して攻撃を開始する。


 彼は手にした刀身の長さ約100㎝の十字型の槍を用いて、薙ぎ払い、突き、そして回転させての切り上げなど多彩な攻撃方法で、ゴブリン達を次々と光にして消滅させていく。


「どうやら、俺達の出番はなさそうだな…」


「どうやら、俺達の出番はなさそうだな…」

「そうですね…」


 アカネとアルトは、ナオシゲの活躍を眺めながら言葉を交わす。


「なんと他愛の無い…。がいしゅう… がいしゅういっこく…? 何か違うな…… 楽勝とはこの事か…… 」


 ナオシゲは、どうやらその見た目と違って、四字熟語が苦手なようだ…

 だが、彼の活躍のお陰で、ゴブリンは全て撃破され、アカネの危機は去った。


「取り敢えず、安全な場所に移動しようか?」

「はい」


 お礼を言おうとしたアカネを制止して、アルトはこの場から離れて安全な場所に移動することを提案してきた。


 その言葉に従い、アカネはアルトの後について移動する。

 少し歩くとアカネは木の小盾を外し、アイテムボックスに収納する。


 すると、アルトが盾の仕様を説明してくれた。


「―そういうわけで、攻撃を防ぎたいなら重量と相談して、中盾か大盾を装備したほうがいいな」


「はい♪」


 アカネは、アルトの言葉に元気よく返事をする。


「俺は普段は中盾で、重量を軽くしてスピードを上げ、強力な敵には大盾を使っているんだ」


 アルトは、銀色の中量サイズの西洋風甲冑を装備しており、左手には模様が施された中盾、左の腰には装飾が施された直剣を装備しており、騎士をロールしているらしい。


「俺はアルト、騎士をロールしている。それで、こっちはナオシゲ。俺のゲーム内フレンドで、見ての通り侍をロールしている。因みにコイツは、日本人かぶれした外国人だから、こんなおかしな格好をしているんだ」


 ナオシゲが装備している鎧は、全身真紅の甲冑と思われたが、よく見ると胴に白の細いラインが5つ入っている……。


 アカネは知らないが所謂TE○GAカラーであった……

 そのためアカネは胴の模様をスルーしたので、ナオシゲは少し残念そうだ。


「お二人共外国の方なんですか?」


 彼女の質問に、アルトは爽やかに笑うとこう答える。


「ああ… 俺はこんなアバターだけど日本人だよ。現実とは別人としてロールプレイがしたくて、髪と瞳、あと肌の色を変えているんだ」


「そうなんですね」


 アルトの容姿は、現実世界では黒目黒髪の日本人男性で、ナオシゲは兜の面具で顔が見えないが、どうやら白人男性のようだ。


「あと、盾以外にも敵の攻撃を防ぐ方法がある。知っているかい?」

「回避ステップやローリングですか?」


「正解だが、もう一つある。それはパリィだ」

「それ友達から聞いたことがあります。成功させるのが、難しいとも… 」


 アカネは以前ハルルに言われたことを、思い出しながら答える。


 アルトはその言葉を肯定しつつ、説明を続ける。

 パリィとは、敵の攻撃をタイミング良く盾や剣で弾き返すことで、ダメージを最小限に抑え、更に敵に隙を作り出せるというテクニックである。そのため成功の難易度は高い。


「君さえ良ければ、パリィを教えるが… どうする?」

「ぜひ!!」


 アカネは即答した。

 なぜなら、いつかは習得したいと思っていたからだ。


 その頃、彼女を見守る初音は…


「彩音ちゃん… いつからそんなエロい― いや、発育のいい体に… ムニャムニャ… 」


 連日の睡眠不足により、MMOあるある”寝落ち”をしていた。



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