その8 前衛で戦う意味





 前回までのあらすじ


 気弱剣術少女”天原彩音あまはらあやね(17)P.Nアカネ”は、幼馴染で腐女子ゲーヲタの”川山陽かわやまはる(17)P.Nハルル”に、その性格を治すためというそれらしい理由で、フルダイブVRMMO【トラディシヨン・オンライン】をプレイすることになる。


 姉とその同僚の変態紳士となんやかんやしてから、ゲーム内でなんやかんやして、ツノウサギの角攻撃をお腹に受けてしまった。


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「町に帰って、私もハルルちゃんみたいに、遠くから攻撃できる武器にする!」


 角攻撃ですっかり心が折れたアカネは、町で遠距離武器を購入する事を主張し始める。


 彼女の言う通り、ゲーム開始時に貰える所持金500ドルドルがあれば、初期の拳銃か攻撃魔法の”魔力の矢”は購入できるだろう。


 だが、それは前衛職が欲しくてアカネを誘ったハルルにとっては避けたいことであり、彼女はそのためその事を伏せて、町の外まで連れ出したのだ。


(やはり、早くも心が折れたか……。だが、そんな事は長い付き合いから想定内…。故にこの私… 陽には抜かりはない。ちゃんと事前に彩音ちゃんに前衛職を続けさせる詭弁… もとい説得する材料は用意している)


 このままではダブル後衛職となり、戦闘が不便になってしまうので、ハルルはアカネの説得を始める。


「アカネちゃん… 本当にそれで良いのかしら?」

「良いよ! だって、怖いし…… 」


「私はこのまま長年の修行で得た天原の剣術を活かして、剣を振るって敵を屠ったほうがいいと思うけどね」


「どうして…?」


(想定通りに喰い付いたわね…)


 ハルルは内心で自分の計画通りになったことを喜びつつ、表情には出さず説得を続ける。


「このゲームが世界中の多くの人がプレイしているのは知っているよね?」

「うん」


「アカネちゃんが、天原天狗流あまはらてんぐりゅうを活かして戦って活躍すれば、その姿を見た人達、特に外国人さん達はこう思うよ! <Oh、ジャパニーズ武道、素晴らしい! 私も習いたい!>と!!」


「な、なるほど…… って、なるかな…?」


 ハルルはここが勝負所と見極めて、一気に畳み掛ける。


「なるよ! 日本の古流剣術や武術を学びに来ている外国人さんの映像を、私はテレビや動画でたくさん見たことがあるからね!」


「確かに… 私もテレビで見たことあるかも… 」


「でしょう!? つまり! アカネちゃんが活躍すればするほど、道場の門下生が増えるかも知れないってことなんだよ!!」


「な、なんだってー!」


 アカネの脳内には、テレビで見たような稽古着を着た外国の人達によって、自分の道場が賑わっている様子が思い浮かぶ。


 それは天原天狗流あまはらてんぐりゅうが、世界で有名になることを意味しており、そうなればきっと祖母と母、そしてご先祖様たちも喜んでくれるだろう。


 まあ、実際外国の人が学びに来た時、英語で対応できるのか? という問題は置いておいて……


「私、剣で頑張るよ!!」


 先程まで乗り気でなかったアカネは、ハルルの熱く語る説得により俄然やる気を出す。そしてその瞳からは迷いが消え去り、天原天狗流と道場を有名にすることへの意欲で爛々と輝いていた。


「ええんやで。わかってくれれば、ええんやで」


 アカネの思考回路を上手く誘導することに成功したハルルは、何故か関西弁になる。

 ネットの影響だろうか?


 ハルルの言っていることは、全くのデタラメではない。効果があまり望めないだけで。これなら、有名な動画配信に技を実演した動画をあげた方が、まだ有名になって門下生増加の見込みはあるだろうというだけで…


「とはいえ、このナイフじゃあ不安だよ」

「じゃあ、これを貸してあげるよ」


 ハルルは「メニューオープン」と言って、メニュー画面を表示させると収納ボックスボタンを押して収納ボックスを出現させると、そこから刀身が少し湾曲した曲刀を取り出して、アカネに手渡す。


「これはシミターと言って、刀と同じ技量で攻撃力補正が入る武器だよ。直剣よりは形が刀に似ているから、扱いやすいんじゃない?」


 銃を扱うには命中が最優先で、そのため技量が重要な項目である。

 その技量を活かすためにハルルは技量補正武器であるシミターを所持していたが、装備の総重量制限の問題からまだ装備できないので、アカネに貸し出すことにする。


 アカネは手渡されたシミターを左の腰に差すと、まずはオプション画面から戦闘アシストを外す。そして、鞘から抜いて片手や両手で持って、色々な角度に斬撃を行ってみる。


「刀とはバランスが違うけど、ナイフよりはいいかも。それにやっぱりアシストが無い方が、斬撃が自由に繰り出せて戦いやすいよ」


 一通りの素振りを終え感触を試したアカネは、シミターを納刀する。


「良かった。それなら問題無いかな?」

「今度はもうあんな無様な姿は見せないよ!」


 意気揚々と答えるアカネを見て、ハルルはその頼もしい言葉に


(フラグかな……)


 とフラグを感じてしまう。


 すると、二人の背後から新たなツノウサギが現れる。


「ひゃぅ!? びっくりした! 私に気配を感じさせないなんて… このうさぎちゃん… 出来る!!」


 現れたツノウサギに対して、アカネは再び動揺する様子を見せるが、先程とは違ってすぐにシミターを抜いて構えを取る。


「そんなに慌てなくて大丈夫だよ。この辺りのモンスターはこちらから手を出さない限り、襲ってこないから」


 この辺りの魔物は、初心者向けなので発見されても向こうからは襲ってこない。当然先に進めば襲ってくる魔物も増えてくる。


「本当だ~。襲ってこないね~」


 ツノウサギはアカネの近くまで、ぴょんぴょんと飛んでくるが攻撃は仕掛けてこない。

 そうなると角さえ気にしなければ、大きなウサギなので可愛く見える。


「角が怖いけど… もふもふでかわいいかも」


 そのため可愛いモノが大好きなアカネは、近づいてシミターを握る右手とは逆の空いている左手で、ツノウサギの頭を撫でてしまう。


 すると―


「キュウ!!」

「あうぅ!?」


 突然ツノウサギが大きな鳴き声を上げ飛び掛かり、アカネは再び角でお腹を突かれ地面に倒れてしまい、早々にフラグを回収してしまう。


 どうやら、撫でたことが攻撃判定とされ戦闘開始となったようだ。


(フラグ回収が早すぎでしょう…… この娘は……)


 呆れ果てたハルルであったが、先程の攻撃で地面に倒れたところを


「キュウ! キュウ!」

「やめて~ やめて~」


 ツノウサギに角で突かれて、難儀をしているアカネを助けるために、再びマジックライフルを発射する。



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