第15話 砂漠の塔



 こっそりと王宮の裏口から出ていくと、いきなり何かがとびついてきた。


「ギャアアア! やられるぅー!」


 ザラザラザー!


「キュイ〜」

「ん? その声は、ぽよちゃん?」

「キュイ〜」


 目をあけてみたら、しがみついてるのは、ぽよちゃんだった。


「ぽよちゃん。追いかけてきてくれたんだねぇ!」

「キュイキュイ!」


 ああ、持つべきは仲間だなぁ。


「ガウガウ!」

「ああ、バスカーも来てくれたんだぁー!」

「ガウ」


 ああ、持つべきは……って、えっ?


「オオーン!」

「ああ、竜くん! 竜くんは抱きつかないでー! 僕がつぶれるから!」

「オン?」

「ご、ごめんね」


 ちょっと悲しげな竜くんに、僕から抱きつく形で我慢してもらう。


 それはともかく、これで砂漠を旅するのにほどよいぞ。竜くんには乗り物になってもらおう。竜くんは羽もあるから、空も飛べるしねぇ。


「じゃっ、出発〜」


 砂漠の塔かぁ。

 あんまり暑くないといいな。


 みんなで竜くんの背中に乗って、飛んでいってもらう。南へ進んでいくと、すぐに砂漠は見えた。そのまんなかあたりにオアシスがある。オアシスのなかに塔が建っていた。なんで、あんなとこに塔なんか建てたんだろうなぁ。


 まあ、それ言ったら、ファンタジーは成り立たないか。


「竜くん。あの塔のよこに着地してくれる?」

「オン!」


 砂漠の塔、到着〜

 早い。早い。

 この塔のなかにお姫さまがいるのか。きっと悪党に捕まって、恐怖にふるえてるんだろうな。待っててください。今、助けにいきますよ。


「じゃ、竜くんはこのアメちゃん食べながら、待っててね」

「オ〜ン」


 竜くんはサイズが大きすぎて、塔のなかには入れない。アメちゃんの山とともに残して、僕とぽよちゃん、バスカーだけで入口へむかう。

 そこにはアラビアンな文字の記された両扉が。

 アラビア語は読めないなぁ。

 今まで、この世界ではどこへ行っても日本語が通じてたんだけどなぁ。なんでいきなり、アラビア語?


 と、僕のよこから、とつぜん、声が。


「ひらけゴマ!」

「ワアアアアアアアアアアア!」


 ザラザラザラザラザラザラザラザラザー!

 す、スゴイ。今日一番、アメちゃん出た!

 心臓がまだドックンドックンしてるんだけど。


「おお、やはり、美味じゃのう。美味い。美味い」

「裁判長! なんで、ここに?」

「オアシスまでは旅の扉的なものを使って王宮と行き来できるのじゃ」

「……それ、なんで僕に教えてくれなかったんですか?」

「砂漠の旅も楽しかろうと思い」


 しばくぞ、コラァー!

 とは言わなかったものの、僕はつかのま目を閉じて瞑想めいそうした。

 ダメ、ダメ。かーくん。短気は損気だよ? 尊敬する亡きじいちゃんの顔を思い浮かべよう。となりにいるのも、いちおう、じじいだ。きっと、うちのじいちゃんと何か通じるものはある。少なくとも年齢は近い。


「……はい。お待たせしました。それで、なんか用ですか?」

「ここの入口、王家の血をひく者が呪文を唱えんとひらかんのじゃった」

「さっきのですね」

「そうそう。わし、王さまの従兄弟じゃからのう」


 なるほど。たしかに、扉はひらいた。一瞬、アメちゃん欲しさに追ってきたのかと思った。


「さ、あけてやったのだから、アメちゃんを渡しなされ」

「やっぱりアメちゃん目当てか!」


 まあいい。あけてもらわないことには、お姫さま助けに行けなかったからね。


「ぽよちゃん、バスカー、行くよ〜」

「キュイ〜」

「ガウガウ」

「行くよ〜」


 最後のは僕じゃない。おじいちゃんだ。まさか、ついてくるつもりなのか。老体なのに、足手まといにならなきゃいいな。


 とにかく、塔のなかへ入る。

 外から見た感じ、塔は直径十メートルほど。いくつかの層になってたから、最低でも七階建て。

 なかは状のゆるーい坂道になってた。階段じゃないだけマシかなぁ。両側は壁だから、部屋はない。


「ああ、このまま、ひたすら、のぼってくのかな?」

「さようじゃ。あっ、アメちゃんがころがり落ちるではないか」

「坂道なのは僕のせいじゃないんで」

「ああっ、もったいないではないか」

「大丈夫。ミャーコ(ポシェット)がひろいます」

「わしのとりぶんがないではないかー!」

「……はい。僕があげますから」

「こりゃすまんのう」


 なんかもうほんとに僕、ただのアメ製造機あつかいされてる。


 進んでいくと、モンスターが現れた。

 うーん。この塔、王家の管理じゃないのか? それとも、なんとかの試練とか言って、塔のなかで飼ってる?


 出てくるモンスターはサボテンボール、砂漠トカゲ、砂ネズミ。野生のやつだ。ダンジョンにはモンスターが生き残ってるんだな。


「わあっ、また出た!」

「キュイキュイ」

「かー! じじいの説教!」



 戦闘に勝利した!

 サボテンボールは物欲しそうにアメちゃんを見ている。

 アメちゃんをあげますか?



「えっ? サボテンボールって植物だよね? アメちゃん食べるの?」



 あげますか?



「あげるけどさ」


 またまた仲間が増えるなぁ。

 それにしても、じいちゃんの使う『じじいの説教』はなかなか使える技だ。確率の高い威嚇効果で敵は戦意喪失する。正直、突撃兵のダンケさんより役立つ。


「裁判長。やりますね」

「うむ。昔は裁判中にあばれる輩が多かったからのう。毎日、説教くらわしてやったもんじゃわい」

「な、なるほど……」


 けっこう苦労してきたんだな。おじいちゃん。


 それより、気をつけないといけないのは坂道だ。うっかりアメちゃんふむと、そのまま、すべりおちてしまう。どこまでも続く、ゆるい勾配こうばい。そこに丸いアメちゃん。ほぼほぼウォータースライダー状態だ。一回すべると、つかまるものがないんだよね。


「ギャアアアー! また下からやりなおし!」

「少年よ。しゃべるときは、うしろを見ながら話すのじゃ。さすれば、アメちゃんをふむことはない。食べ物を粗末にしてはいかんからのう」

「なるほど。じゃあ、みんな、僕の前を歩いて」


 おっと、危ない。そういうやさきにアメちゃんコロコロ。

 お姫さま、どこかなぁ?

 ん? 扉が見える。

 もしかして、あそこかな?

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